本記事について
本記事は投資の世界における、相場全体の過熱感を表す各指標について、その意味やどの程度の水準だと危険域なのかについて解説しています。
基本的に投資家は日経平均株価やS&P500等の全体指標を見ながら、対象市場の過熱感を何となくで測っている人が多いと思います。
確かにその確認自体も間違いではないですが、それだけでは本当に過熱しすぎているのかどうかを判断するのが極めて難しいのも事実です。
世の中にはそういった相場全体が過熱しているのか否かを別の指標を用いて判断しているものが複数ありますので、今回はそういったものについて解説していきます。
指標一覧
それでは具体的にどういった指標があるのかについて挙げていきます。今回は以下3つの指標についてを解説します。
・バフェット指数 (Buffett Indicator)
・VIX指数 (Volatility Index, Fear Index)
・AAIIセンチメント調査(The AAII Investor Sentiment Survey)
これらはいずれも投資界隈の過熱感を表す際に良く用いられる指標です。
それぞれの詳細については個別に解説しますが、具体的にどの程度の水準が目安となってくるのかを一覧で先にあげておきます。
指標 | 概要 | 目安となる水準 |
---|---|---|
バフェット指数 | 株式市場全体の時価総額を国内総生産(GDP)で割った指標。実体経済と比較して現在の株式市場の過熱感を測ることが出来る。 | 99%以下: 対象の株式市場は割安水準 100%-120%: 対象の株式市場は適正水準 121%以上: 対象の株式市場は割高水準 |
VIX指数 | 別名で「恐怖指数」とも呼ばれ、米国株式市場のボラティリティ(価格変動幅)が表す指標。VIX指数が高い場合は価格の変動が大きい状態のため、市場が不安定と判断される。 | 20未満: 市場は比較的安定した状態を保っている 20-30: 市場はやや不安定な状態に入っている 30-40: 市場はかなり不安定な状態に入っている 40以上:市場は極めて不安定な状態に入っている |
AAIIセンチメント調査 | 個人投資家の市場心理を測定するためのアンケート調査であり、毎週行われている。個人投資家の心理状態が「強気」「弱気」「中立」で分類されることでその割合の大小から市場の過熱感を判断する。 | 強気が40%以上は市場が過熱している可能性有り 中立が40%以上は市場が不確実性の高い状態 弱気が30%以上は市場が悲観的で底を打つ前兆 |
バフェット指数 (Buffett Indicator)
「バフェット指数(Buffett Indicator)」は、株式市場の評価を測るための指標で、株式市場全体の時価総額を国内総生産(GDP)で割ったものです。
世の中の多くの人たちは日経平均株価やS&P500の値動きをチャートで見て、その上下幅を見て何となく、適正か割高か割安かを判断しています。
ただ、株価というものは実体経済と紐づいているものであり、国の経済力が上がれば上がるほど、それに伴って企業は大きくなり、株価も上がっていくのが本来の姿です。
そのため、株式市場全体の水準が適正かどうかを実体経済(GDP)との対比を見て判断しようというのが、バフェット指数となります。
バフェット指数は、ウォーレン・バフェット氏が2001年に「Fortune」誌のインタビューで言及したことがきっかけで広く知られるようになりました。
この指標は、著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が「市場の全体的な価値を評価する上で最も良い単一の指標」として挙げたことから、その名が付けられています。
計算方法は簡単で以下の通り、株式市場の時価総額とGDPの比率を求めることで、実際のGDPに対して株式市場の全体的な価格が適正な水準か否かを判別するために使われています。
【計算方法】
バフェット指数 = 株式市場の時価総額 ÷ GDP【目安】
99%以下: 対象の株式市場は割安水準
100%-120%: 対象の株式市場は適正水準
121%以上: 対象の株式市場は割高水準
バフェット指数は、特に市場が大きな変動を見せる際に注目されてきました。例えば、以下のような時期に大きな注目を集めました。
2000年のドットコムバブル: バフェット指数は大幅に上昇し、市場が過熱していることを示しました。結果として、バブル崩壊後に株式市場は大きく下落しました。
2008年のリーマンショック前: バフェット指数は再び高水準に達し、市場の過熱感を示しました。その後、金融危機が発生し市場は大幅に下落しました。
2020年代のコロナショック後: 経済回復とともに株価が急上昇し、バフェット指数は再び高水準に達しました。
【バフェットがこの指標を重視する理由】
シンプルさ: バフェット指数は非常にシンプルであり、株式市場の総体的な評価を簡単に把握できます。
総合的な評価: 個別の企業やセクターではなく、経済全体に対する株式市場の評価を示すため、広範な視野で市場を捉えることができます。
歴史的な精度: 過去のバブルや市場崩壊のタイミングで、バフェット指数は有効な警告シグナルを発してきたため、その信頼性が認識されています。
米国の株式市場全体とGDPとの対比(バフェット指数)はこちらのサイトから引用しています。
The Buffett Indicator: Market Cap to GDP – Updated Chart | Longtermtrends
日本の株式市場全体とGDPとの対比(バフェット指数)はこちらのサイトから引用しています。
Japan – Total Market Cap (% of GDP) | MacroMicro
上記が米国と日本のバフェット指数ですが、2024年4月時点では両国ともに150%を大幅に超える数値なっているため、実体経済と比べて株式市場の価格が非常に割高になっていると判断出来ます。
とはいえ、バフェット指数はあくまでGDPと比較した場合の株式市場の過熱感を図るための目安の一つであり、高い数値となっているからといって、暴落が始まる予兆と考えるのは早計となります。
実際は様々な要因で株式市場の価格は決められているため、他の指標等も踏まえたうえで暴落が来るのかどうか等はそれぞれで考える必要があることを留意ください。
VIX指数 (Volatility Index, Fear Index)
VIX指数(Volatility Index)、は別名で「恐怖指数」とも呼ばれ、シカゴ・オプション取引所(CBOE)が提供する市場のボラティリティ(価格変動性)を測る指標です。
S&P500指数のコールとプットオプションの加重価格を幅広い行使価格で集計することにより、米国株式市場の30日間の予想ボラティリティを推定するように設計された指標となります。
ボラティリティというのは価格変動の度合いを表す言葉であり、ボラティリティが大きいと言えば、その商品の価格変動幅が大きいということを意味します(株よりも仮想通貨の方がボラティリティが大きいという感じで使います)。
VIX指数は、1993年にCBOEによって開発されました。当初はS&P100(OEX)オプションを基に計算されていましたが、2003年にS&P500オプションに基づく現行の計算方法に変更されました。
VIX指数の計算式(算出方法)
VIX指数の計算式(算出方法)は非常に複雑で、Wikiのページにある通り、以下のような方法で算出されています。
正直この計算式を見ても意味はほぼ理解できないと思いますので、最初に解説した通り、VIX指数は米国株式市場のボラティリティの水準を表しているものと理解しておくだけで十分だと思います。
そして、VIX指数が高い水準になっている場合は、米国株式市場のボラティリティが高い状態になっていることとなりますので、市場が非常に不安定であることを意味しています。
この特性からVIX指数は恐怖指数と呼ばれ、市場の不安定さを図るための指標として多くの投資家に活用されています。
具体的なVIX指数の目安については以下の通りです。
【目安】
20未満: 市場は比較的安定した状態を保っている
20-30: 市場はやや不安定な状態に入っている
30-40: 市場はかなり不安定な状態に入っている
40以上:市場は極めて不安定な状態に入っている
VIX指数は、特に市場の大きな変動期に重要な指標として注目されます。以下は、いくつかの重要な局面でのVIX指数の動きを示します。
2008年のリーマンショック: VIX指数は歴史的高値である80以上に達し、市場の恐怖感が極限に達していたことを示しました。
2020年のコロナショック: パンデミックの初期段階でVIX指数は再び80以上に達し、市場の不確実性が非常に高かったことを示しています。
一般に、VIX指数が極端に高いときは市場が底を打ちやすく、極端に低いときは市場がピークを迎えやすいとされます。これは、過度の恐怖や楽観が逆張りのシグナルとなるためです。
投資家やトレーダーは、VIX指数をリスク管理のツールとして利用します。高水準の時期にはポジションを減らす、またはヘッジを強化するなどの対応が取られます。
ですが、VIX指数は主に短期的なボラティリティを示すものであり、長期的な市場動向を予測するのには向いていません。
あくまでVIX指数はS&P500オプションに基づいているため、アメリカ市場の動向を反映しているだけであり、グローバルな市場動向を完全には反映しない可能性があるためです。
AAIIセンチメント調査(The AAII Investor Sentiment Survey)
AAIIセンチメント調査は、個人投資家の市場心理を測定するためのアンケート調査であり、毎週行われています。
他の指標のように複雑な計算などを元に算出されるものではなく、あくまで市場に参加している投資家が現状をどのように見ているかをアンケートで集計しているだけのものです。
ですが、そのシンプルさ故に市場が現在の投資家達にとってどのような状況と考えられているのかが非常にわかりやすいものとなっています。
このAAIIセンチメント調査は、個人投資家が今後6ヶ月間の株式市場の方向性についてどう感じているかを調査しています。
具体的には毎週、AAIIのメンバーに対してオンライン調査を実施しており、その際に回答者は今後6ヶ月間の株式市場について「強気」「弱気」「中立」のいずれかで回答します。
そのため調査結果は、強気(Bullish)、弱気(Bearish)、中立(Neutral)の3つのカテゴリーに分類されます。
上記の画像が公式ページで発表されている調査結果となります。
一般的にはそれぞれのカテゴリーの解釈は以下のようになります。
強気(Bullish)の割合の解釈
- 40%以下: 投資家の楽観的な見方が少ない。市場が冷静であるか、あるいは弱気の影響を受けている可能性が高い。
- 40% – 50%: これは通常の範囲内とされ、投資家の楽観的な見方が適度に存在している。市場は安定していると解釈されます。
- 50%以上: 投資家が非常に楽観的であり、市場が過熱している可能性がある。過去のデータでは、このレベルの強気が続くと、相場の調整が近いことが多い。
中立(Neutral)の割合の解釈
- 20%以下: 投資家が市場の方向性について明確な意見を持っている。強気または弱気のいずれかに極端に偏っている可能性が高い。
- 20% – 40%: これは通常の範囲内であり、投資家が市場の方向性について中立的な見解を持っていることを示します。この範囲では、明確なトレンドが見えにくい。
- 40%以上: 投資家が市場の方向性について明確な意見を持っておらず、慎重な姿勢を示している。市場が不確実な状態にあることを示唆することが多い。
弱気(Bearish)の割合の解釈
- 20%以下: 投資家が市場に対して非常に楽観的であることを示します。市場が過熱している可能性が高く、調整が近いことを示唆することがあります。
- 20% – 30%: これは通常の範囲内であり、投資家の一部が市場に対して警戒心を持っていることを示します。
- 30%以上: 投資家が市場に対して非常に悲観的であり、リスクが高まっていることを示します。このような状況は、市場が底を打つ前兆であることが多い。
AAIIセンチメント調査が実際に有効に活用されたタイミングとしては以下のようなケースがあります。
2008年のリーマンショック時: 弱気の割合が非常に高くなり、個人投資家の間での悲観論が広がりました。この時期は、市場が底を打つ前兆として機能しました。
2020年のコロナショック時: パンデミック初期には弱気が急増しましたが、その後の市場回復とともに強気が増加しました。
もちろん、これら以外のタイミングでも個人投資家の市場心理を図るための指標として良く利用されています。
しかし、どちらかというとこの調査結果は、逆張り投資家にとって特に有用なシグナルとなります。
なぜなら、強気の割合が非常に高い場合、市場のピークを示唆する可能性が高いためです。逆に弱気の割合が非常に高い場合は、底値を示している可能性が高いです。
まとめ
今回は投資界隈全体の過熱感を測るための指標について解説しました。
投資家として活動していると自分が投資している対象ばかりにフォーカスしてしまいがちですが、今回紹介したような市場全体の過熱感を測るための指標を合わせて確認しておくと、客観的に物事を見られるようになります。
もし市場全体が異常に過熱していると感じた場合は、それら指標を総合的に判断したうえで、時にはほかの人たちよりも早く市場から手仕舞いすることが、投資の世界を生き抜くことに繋がると思います。
また、こういった指標以外でもバリュー投資を心がけている人であれば、そちらの指標を参考にするとより堅実な投資が出来るようになると思います。
バリュー投資における各種指標の一覧について別の記事にまとめていますので、そちらも興味があれば閲覧ください。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
https://senkohome.com/value-investing-indicators/
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