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【ミステリー】クリプトスの暗号 ─ CIA本部に立つ、解けない彫刻

【ミステリー】クリプトスの暗号 ─ CIA本部に立つ、解けない彫刻

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は現代暗号ミステリーの最高峰、「クリプトス」について解説します。

アメリカの情報機関CIAの本部。その中庭に、1990年から一枚の銅板の彫刻が立っています。波打つ銅板には約1800文字のアルファベットが刻まれ、そこには4つの暗号文が隠されています。設置から年月をかけて3つまでは解読されました。しかし最後の一つ、わずか97文字の「K4」だけが、35年たった今も世界中の誰にも解けていません。しかも場所は、暗号解読のプロが何千人と働く、スパイの総本山のど真ん中。なぜ解けないのか、この意地の悪い謎の全貌をまとめます。

図解

クリプトスとは

クリプトスとは、彫刻家ジム・サンボーンが制作し、1990年にCIA新本部ビルの中庭に設置された暗号彫刻です。名前はギリシャ語で「隠されたもの」を意味します。S字に波打つ銅板に、文字が透かし彫りでびっしりと刻まれています。

サンボーンは暗号の専門家ではなかったため、制作にあたってはCIAの暗号部門の元責任者から古典暗号の手ほどきを受けました。数か月かけて暗号の技法を学び、紙の上で手作業で暗号文を組み上げたと言われています。つまりこの彫刻は、情報機関公認の「挑戦状」なのです。刻まれた暗号文は4つの部分に分かれ、それぞれK1、K2、K3、K4と呼ばれています。

面白いのは、この彫刻が最初から「いずれ解かれること」を前提に作られた作品だということです。テーマは「情報の収集と隠蔽」とされ、諜報機関の中庭に、秘密そのものを彫刻として立てるという発想です。サンボーンは完全な解答を封筒に収め、当時のCIA長官に託したと言われています。芸術作品でありながら、賞金なしの純粋な知恵比べでもある。設置の翌日から、CIA職員たちは昼休みに銅板とにらめっこを始めたそうです。

解かれた3つの暗号

最初の突破は、静かに始まりました。実は1990年代前半には、アメリカの暗号機関NSAの小さなチームがK1からK3までを内々に解読していたことが、後に明らかになっています。公の場では、1998年にCIAの分析官が、1999年には民間のコンピュータ科学者が、それぞれ独自にK3までの解読を達成しました。

手法は、いずれも古典暗号の応用でした。K1とK2は、キーワードを使って文字をずらすヴィジュネル暗号の一種。K3は、文字の順序を並べ替える転置式暗号でした。

面白いのは、解読された文面にわざとらしい綴りの間違いがいくつも混ざっていたことです。「幻影(イリュージョン)」が奇妙な綴りで書かれているなど、単なるミスとは思えない箇所があり、さらなる謎への手がかりではないかと詮索され続けています。また彫刻本体のまわりにも、モールス符号を刻んだ銅板や、方位を狂わせるように磁化された岩など、暗号文以外の仕掛けが配置されています。サンボーンいわく、作品のすべてが謎の一部。文字を解くだけでは終わらない構造なのです。

解読された中身も、なかなか詩的です。K1は「微妙な陰影と光の欠如の間に、幻影のニュアンスがある」という意味深な一文。K2は、埋められた何かの緯度・経度の座標を含む、CIAにまつわる文章。K3は、考古学者ハワード・カーターがツタンカーメンの墓を開けた瞬間の記述を元にした文章でした。「何か見えるか?」という、墓穴を覗き込む場面の引用で終わるあたり、心憎い演出です。

そして残されたのが、最後の97文字。K4です。

最後の97文字「K4」はなぜ解けないのか

K4が手強い理由は、単純です。文章が短すぎるうえ、K1〜K3とは異なる、より巧妙な方式で暗号化されているからです。統計的な手がかりが乏しい短文は、古典暗号でも解読が飛躍的に難しくなります。総当たりで意味が通る文はいくらでも作れてしまい、正解を一つに絞れないのです。

膠着状態を見かねて、作者のサンボーン自身が、異例のヒント公開を始めました。これまでに明かされたのは、K4の平文の一部です。64〜69文字目が「BERLIN」、続く70〜74文字目が「CLOCK」、さらに26文字目からが「NORTHEAST」、その手前が「EAST」。「ベルリン」と「時計」の組み合わせから、ベルリンにある有名なからくり時計「ベルリン時計」への言及ではないかと推測されていますが、それでも解読には至っていません。

しかも、サンボーンによればK4を解いても、まだ終わりではないのだそうです。4つの暗号文の全体が、さらにもう一段の謎かけになっているのだそうです。設置から35年、挑戦者たちのメーリングリストには数千人が集い、膨大な試行が積み重ねられてきましたが、銅板は今日も沈黙しています。近年には、高齢になったサンボーンが解答そのものをオークションで手放す計画を明らかにして話題になるなど、謎の「管理」まで含めて注目が続いています。

敷地内に埋まる「何か」と、16年目の訂正劇

解読済みの部分にも、実は未回収の謎が残っています。その筆頭が、K2に記された緯度・経度です。この座標が指すのは、彫刻から遠くないCIA敷地内の一点。文面は「それは埋められている。どこに?」と、何かが地中にあることを匂わせています。実際に何かが埋まっているのか、掘られたことはあるのか。公式の答えはなく、これも作品の仕掛けの一部だとみられています。

さらに2006年には、ちょっとした事件がありました。作者サンボーンが、「K2の最後の部分は、これまで正解とされてきた読みと違う」と明かしたのです。解読者たちが16年間信じてきた末尾の語句は、暗号化時の文字の脱落によって生じた「惜しい誤読」で、正しくは「レイヤー・トゥー(第二の層)」という意味の言葉でした。この訂正は、K4攻略の前提を揺るがす出来事として、コミュニティに衝撃を与えました。解けたはずの部分さえ、作者の手の中で動く。クリプトスの底の深さを示す逸話です。

こうした「文字の外の仕掛け」まで含めて、この作品は設計されています。銅板・座標・磁化された岩・モールス符号。そのすべてが一つの謎の部品であり、K4の97文字は最後の錠前にすぎないのかもしれません。挑戦者たちが「単なる暗号パズルではなく、宝探し型の総合芸術」と呼ぶ理由が、ここにあります。

スパイの総本山で解けないという皮肉

クリプトスの魅力は、暗号そのものだけではありません。状況設定の皮肉が、この謎を特別なものにしています。

考えてみてください。この彫刻が立っているのは、世界最高レベルの情報機関の敷地内です。毎日、暗号や情報分析のプロフェッショナルたちがその前を通って出勤します。それなのに、たった97文字が組織の総力をもってしても(少なくとも公には)解けていない。秘密を暴く専門家集団が、自分の庭の秘密を暴けない。これほど出来のよい皮肉は、なかなかありません。

もう一つの魅力は、「正解が確実に存在する」と保証されていることです。当サイトで紹介したビール暗号のように「そもそも中身がないのでは」という疑いがつきまとう謎とは違い、クリプトスには実在の作者がいて、解答も保管されています。解けないのは、謎が偽物だからではなく、純粋に難しいから。この健全さが、世界中の愛好家を安心して熱中させているのだと思います。私自身、いつかニュースで「K4解読」の見出しを見る日を楽しみにしている一人です。

クリプトスをめぐる疑問

一般人でも挑戦できますか?

できます。CIAの敷地に入ることはできませんが、暗号文の全文は公開されており、ネット上で誰でも入手できます。K4の97文字と、これまでに明かされたヒントを手がかりに、世界中のアマチュアが日々挑戦しています。愛好家のコミュニティも活発で、解読案の検証や情報交換が続けられています。必要なのは高価な道具ではなく、根気と発想です。古典暗号の知識を学びながら挑めば、誰にでも「世界初」の可能性が開かれている。賞金はありませんが、解けば暗号史に名が残ることは間違いありません。

作者が亡くなったら、答えは失われるのですか?

その心配が、近年現実の課題になっています。サンボーンは1945年生まれで、自分の死後にK4の秘密がどうなるかを、かねて気にかけてきました。解答を知る人物はごく限られており、管理の仕組みも公には詳らかにされていません。近年、解答の権利をオークションで第三者に引き継ぐ計画が報じられたのも、この「謎の存続問題」への一つの答えだとみられます。買い取った人が公開するのか、秘密を守り続けるのか。謎そのものの相続という、暗号史上前例のない問題が進行中なのです。

過去に「解読した」という発表はなかったのですか?

「解けた」と名乗り出る人は後を絶ちませんが、検証に耐えた解はまだ一つもありません。K4は短いため、強引な仮定を重ねれば「それらしい英文」を作ること自体は可能です。しかし、サンボーンが公開したBERLIN・CLOCK・EAST・NORTHEASTの位置と一致しなければ、正解とは認められません。このヒントが、いいかげんな解読案をふるい落とすフィルターの役割を果たしています。逆に言えば、これらの語がぴたりとはまる解が現れたとき、それが本物の解読になるはずです。

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同じ暗号の謎、「ゾディアック事件の暗号」「ビール暗号」、そして600年間解読者を退け続ける「ヴォイニッチ手稿」の記事です。

まとめ

本記事は「クリプトス」について解説しました。如何だったでしょうか。

CIA本部の中庭に立つ暗号彫刻は、4つの暗号のうち3つまで解かれ、最後の97文字「K4」だけが35年間未解読のまま残っています。作者自らが「BERLIN」「CLOCK」などのヒントを小出しにしてもなお解けず、しかもK4の先にはもう一段の謎が待つという念の入れよう。暗号のプロの総本山で解けない皮肉も含めて、実によくできた現代のミステリーです。

ビール暗号と違い、クリプトスには確実に正解が存在します。なので挑戦は健全ですし、決着の日もいつか必ず来るはずです。それが人間の閃きによってか、AIの力によってか、それとも作者の秘密の「相続」によってか。97文字の沈黙が破られる瞬間を、世界中の謎好きが待っています。

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