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【ミステリー】セーリングストーン ─ 「勝手に動く石」の謎はこう解かれた

【ミステリー】セーリングストーン ─ 「勝手に動く石」の謎はこう解かれた

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「解かれたミステリー」のお手本「セーリングストーン」について解説します。

アメリカ・デスバレー国立公園の干上がった湖底には、奇妙な光景が広がっています。重さ数十キロ、ときに300キロを超える石が、地面に長い軌跡を刻みながら「移動」しているのです。人が動かした跡はなく、動物の仕業でもない。しかも、数十年にわたって、動く瞬間を見た人が誰もいませんでした。磁力か、超常現象か。長年憶測を呼んだこの謎は、しかし2014年、GPSと定点カメラを持ち込んだ研究者たちによって、ついに現行犯で解決されます。ミステリーが科学に敗れる、最高に痛快な実話です。

図解

セーリングストーンとは

セーリングストーンとは、乾いた湖底の上を、誰も見ていない間に滑るように移動する石のことです。「帆走する(セーリング)石」という名前は、まるで帆船のように地面を進むことから付きました。

もっとも有名な舞台が、カリフォルニア州デスバレー国立公園のレーストラック・プラヤです。プラヤとは、雨のときだけ浅い水がたまり、普段は干上がってひび割れた粘土の平原になる湖底のこと。この見渡す限り平坦な地面に、石を先頭にした長い引きずり跡が、何十本も刻まれているのです。軌跡は長いもので数百メートル。まっすぐ進んだかと思えば、直角に曲がったり、Uターンしたり。並んだ2つの石が、途中から別々の方向へ分かれた跡もあります。

石が動いていることは、軌跡の変化から明らかでした。この現象自体は1900年代の初めから知られ、1940年代には学術報告も出ています。しかし、プラヤは人里離れた過酷な場所で、常時見張ることは難しく、動く現場は長年誰も押さえられません。「夜中に誰かが動かしている」という説から、「磁場の異常」「未知の力」まで、憶測だけが積み上がっていきました。

容疑者たち ─ 風か、氷か、それとも

科学者たちも、手をこまねいていたわけではありません。20世紀半ばから、石の位置を地道に記録する調査が続けられ、有力な容疑者は二つに絞られていました。

一つ目は「強風説」。雨でプラヤの表面がぬかるむと、粘土は驚くほど滑りやすくなります。そこに砂漠の強風が吹けば、石が滑るのではないか、という説です。しかし計算してみると、大きな石を動かすには台風並みの猛烈な風が必要で、実際の気象記録と合いませんでした。

二つ目は「氷説」。デスバレーは灼熱の砂漠のイメージがありますが、標高の高いレーストラック・プラヤの冬の夜は氷点下まで冷えます。たまった水が凍り、石が氷の板に囲まれれば、風を受ける面積が一気に増えて動きやすくなるのではないか、という説です。方向がそろった複数の軌跡をうまく説明できる一方、これも決定的な証拠がありません。

努力が足りなかったわけではありません。20世紀後半には、研究者たちが30個の石に一つずつ名前を付け、7年間も位置を記録し続けた調査もありました。石たちは確かに動き、中には数百メートル移動したものもいましたが、やはり動く現場そのものは捉えられませんでした。名前を付けられた石の一つが行方不明になり、数年後にひょっこり「発見」されるという珍事まで起きています。

議論は行き詰まっていました。何しろ、肝心の「動く瞬間」を誰も見たことがないのです。仮説がいくら精巧でも、現場を押さえない限り決着はつかない。そこで、ある研究チームが腹をくくります。「石が動くまで、機械に見張らせ続ければいい」

2014年、ついに「現行犯」を押さえる

スクリップス海洋研究所のリチャード・ノリスと、いとこのジェームズ・ノリスらのチームは、2011年から周到な「張り込み」を開始しました。GPS発信器を仕込んだ石を用意してプラヤに置き、気象観測ステーションと定点カメラを設置。あとは、自然が動く気になるのを待つだけです。本人たちも「科学史上もっとも退屈な実験になるかもしれない」と覚悟していたといいます。

ところが2013年12月、幸運が訪れます。調査で現地を訪れていた二人の目の前で、石が、動いたのです

観測された仕組みは、絶妙な条件の連鎖でした。まず、冬の雨がプラヤに深さ数センチの浅い池を作ります。夜、池の表面が凍り、厚さ数ミリの薄い氷の板ができます。翌朝、日が差して氷が緩むと、氷は大きな板状に割れ始めます。ここで秒速数メートルのそよ風が吹くと、水に浮いた巨大な氷の板がゆっくり滑り出し、行く手の石を、板ごと押していくのです。石は、ぬかるんだ泥の上を静かに滑り、あの軌跡を刻みました。速さは分速数メートル程度。遠くから見れば、動いていることにすら気づかないほどの、しずしずとした移動でした。チームはこの一部始終をGPSデータと映像で記録し、翌2014年に論文として発表。数十年の謎は、こうして完全に幕を閉じました。

舞台となる「奇跡の平面」レーストラック・プラヤ

石の謎を生んだ舞台そのものも、実は自然の傑作です。レーストラック・プラヤは長さ約4.5キロ、幅約2キロの干上がった湖底で、その平坦さは驚異的です。端から端まで、高低差はごくわずか。ここまで完璧な平面は、周囲の山から流れ込む細かな泥が、浅い水たまりの底に何千年も静かに積もり続けたことで生まれました。

水が引くと、泥の表面は乾いて縮み、一面が六角形のひび割れ模様に覆われます。あの「動く石の軌跡」がくっきり残るのも、この繊細な泥の表面あってこそです。石たちはもともと、プラヤ南端にそびえる岩山から転がり落ちてきたもので、平面に散らばった黒い石と白いひび割れ模様の対比が、この場所を世界的な絶景にしています。

ただし、この繊細さは壊れやすさと表裏一体です。ぬかるんだ時期に人が歩けば足跡が、車が入ればタイヤ跡が、何年も消えない傷として残ります。実際、近年には車両の乗り入れによってプラヤに長い傷跡がつけられる被害が起き、大きな問題になりました。石が盗まれる事件も報告されています。謎が解けた今、この場所の価値は「不思議」から「二度と作れない自然の記録面」へと変わりました。守るべき理由は、むしろ増えていると思います。

この解決が教えてくれること

セーリングストーンの解決には、ミステリーとの付き合い方のエッセンスが詰まっています。

第一に、答えは「魔法」ではなく「条件の組み合わせ」だったこと。水、氷、太陽、そよ風。どれもありふれた要素ですが、特定の順序と絶妙な加減で重なったときだけ、石は動きます。そのため現象はごくまれで、目撃者もいなかったわけです。台風並みの風も磁力も要りませんでした。

第二に、「誰も見たことがない」は「解けない」を意味しないこと。決着をつけたのは、天才の閃きではなく、GPSとカメラによる「機械に見張らせ続ける」という愚直な戦略でした。当サイトのディアトロフ峠事件やツングースカと同じく、道具の進歩が古い謎を解く。その最も鮮やかな成功例です。

そして第三に、解けた後も、レーストラック・プラヤの光景は少しも色あせていない、ということです。仕組みを知った上で見る石の軌跡は、自然の精妙な偶然が刻んだ芸術に見えてきます。謎が解けると魅力も消える、というのは思い込みです。私はむしろ、種明かしを知ってからのほうが、この石たちを好きになりました。

セーリングストーンをめぐる疑問

本当に300キロもの石が、そよ風で動くのですか?

動きます。ポイントは、風が石を直接押すのではないことです。風が押すのは、水に浮いた何十メートル四方にもなる巨大な氷の板。面積が広いぶん、弱い風でも大きな力を受け取れます。その力が板の縁の石に集中し、しかも足元は水を含んで極端に滑りやすくなった粘土。条件が揃えば、大きな石でも滑り出します。てこや滑車と同じで、仕組みを介せば小さな力が大仕事をする。物理の面白さが凝縮された現象だと思います。

軌跡が曲がったり、石ごとに方向が違うのはなぜですか?

氷の板の割れ方と風向きの変化で説明できます。氷は一枚岩ではなく、大小の板に割れて、それぞれ別々に動きます。風向きが変われば板の進路も変わり、石の軌跡はカーブを描きます。隣り合う石でも、乗っている(押されている)氷の板が違えば、進む方向も変わるわけです。実際の観測でも、同じ日に動いた石たちが、それぞれ微妙に違う軌跡を描く様子が記録されました。不気味に見えた「石の意思」の正体は、氷のパズルの動きでした。

見に行けば、動く瞬間に立ち会えますか?

まず無理だと思っておくのが正解です。石が動くのは、冬の限られた気象条件が揃った、ごく短い時間だけ。研究チームですら、機材を据えて2年待ちました。またレーストラック・プラヤは未舗装の悪路の先にあり、訪問には十分な準備が必要です。そして大切な注意を一つ。プラヤの地面は非常に繊細で、足跡やタイヤ跡が何年も残ってしまいます。実際、石の持ち去りや車の乗り入れによる傷が問題になってきました。見学するなら、軌跡を壊さないよう、定められたマナーの中で。謎を解いた人類が、次はこの景観を守る番です。

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同じ自然の謎、「球電(ボールライトニング)」「ツングースカ大爆発」、そして科学が謎を解いた「ディアトロフ峠事件」の記事です。

まとめ

本記事は「セーリングストーン」について解説しました。如何だったでしょうか。

誰も見ていない間に石が動き、砂漠の湖底に軌跡を刻む。数十年間憶測を呼んだこの怪現象の正体は、冬の夜の薄氷が、そよ風に押されて石を運ぶという、精妙な自然の連係プレーでした。決着をつけたのは、GPSと定点カメラで「動く瞬間」を待ち続けた研究者たちの、執念の張り込みです。

この事例は、世界のミステリーを考えるうえでの基準点になります。「目撃者がいない」「説明がつかない」は、永遠の謎の証明ではない。適切な道具と忍耐があれば、謎は解ける。そして解けた謎は、つまらなくなるどころか、より深い驚きをくれる。動く石たちは、そのことを軌跡という「証文」つきで教えてくれるのです。

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