認知バイアス

【認知バイアス】フレーミング効果 ─ 同じ事実でも「言い方」で選択が変わる

【認知バイアス】フレーミング効果 ─ 同じ事実でも「言い方」で選択が変わる

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「フレーミング効果」について解説します。

手術を受けるかどうか迷っているとき、医師から「術後1か月の生存率は90%です」と言われるのと、「術後1か月の死亡率は10%です」と言われるのとでは、どちらが手術を受ける気になるでしょうか。言うまでもなく、この2つの文はまったく同じ事実を述べています。それでも実験では、生存率で伝えられた患者の方が明らかに手術を選びやすくなることが確認されています。これがフレーミング効果です。

図解

フレーミング効果とは

フレーミング効果(英語では framing effect)とは、論理的にはまったく同じ内容でも、表現の枠組み(フレーム)が変わると、判断や選択が変わってしまう現象のことです。

フレームとは絵画の額縁のことです。同じ絵でも額縁が変わると印象が変わるように、同じ事実でも「どの側面を切り取って見せるか」で受け取られ方が変わります。

「生存率90%」「死亡率10%」「脂肪分90%カット」「脂肪分10%含有」「成功者の3割が実践」「実践者の7割は成功していない」

合理的な判断者であれば、表現がどちらでも同じ結論を出すはずです。表現に判断が左右されるということは、私たちは「事実」ではなく「事実の見せ方」に反応しているということを意味します。

選好が逆転した「アジア病問題」の実験

フレーミング効果を世に知らしめたのは、行動経済学の生みの親であるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが1981年に発表した「アジア病問題」という思考実験型の調査です。

参加者は次のような状況を提示されます。

アメリカで珍しい伝染病の流行が予想され、対策を取らなければ600人が死亡すると見込まれている。2つの対策案が提案された。どちらを選ぶか?

最初のグループには、対策の効果が「助かる人数」のフレームで提示されました。

・対策A:「200人が助かる」 ・対策B:「1/3の確率で600人全員が助かるが、2/3の確率で誰も助からない」

このフレームでは、72%の人が確実な対策Aを選びました。確実に200人を救える方が良い、という判断です。

別のグループには、まったく同じ対策が「死ぬ人数」のフレームで提示されました。

・対策C:「400人が死ぬ」 ・対策D:「1/3の確率で誰も死なないが、2/3の確率で600人全員が死ぬ」

AとC、BとDは計算すればまったく同じ内容です。ところがこのフレームでは選択が逆転し、78%の人がギャンブルである対策Dを選んだのです。

「400人が死ぬ」という確実な損失を突きつけられると、人はそれを受け入れられず、全員が助かるわずかな可能性に賭けたくなる。同じ人間が、同じ問題に対して、言い方ひとつで安全策とギャンブルを行き来してしまうことを、この実験は鮮やかに示しました。

なぜ言い方だけで判断が変わるのか

フレーミング効果の背後にあるのは、カーネマンらが同時期に打ち立てた「プロスペクト理論」の中核的な考え方です。ポイントは2つあります。

一つ目は、人は絶対的な状態ではなく「基準点からの変化」で物事を評価するという性質です。この基準点(参照点)は、表現によって簡単に動きます。「200人助かる」と言われれば「全員死亡」が基準点になり、そこからの利得として状況が見えます。「400人死ぬ」と言われれば「全員無事」が基準点になり、そこからの損失として同じ状況が見えるのです。

二つ目は、別記事でも解説している「損失回避」です。人間は利得の喜びより損失の痛みを約2倍強く感じます。そのため、利得のフレームでは確実な利益を確保したくなり(リスク回避)、損失のフレームでは損失を避けるためならギャンブルも辞さなくなる(リスク追求)という非対称な行動が生まれます。

つまりフレーミング効果は、単なる「言葉の印象」の問題ではなく、表現が脳内の基準点を動かし、損得の計算そのものを切り替えてしまう現象なのです。アジア病問題で選好が正反対にひっくり返ったのは、このスイッチが切り替わったからです。

広告・医療・政治に潜むフレーミング

食品の表示は最も身近な例です。「脂肪分90%カット」のヨーグルトと「脂肪分10%含有」のヨーグルトでは、同じ商品でも前者の方が健康的に感じられます。「タウリン1000mg配合」という表記も、「1g配合」と書くよりはるかに効きそうに見えます。単位の選び方すらフレームなのです。

価格の見せ方でも多用されます。「年会費12,000円」より「1日あたり33円」の方が安く感じられ、「10%の手数料」より「90%が手元に残る」の方が良心的に見えます。ポイント還元と値引きも、実質的に近い内容が別の印象で受け取られる典型です。

医療の現場では、フレーミングは文字通り命に関わります。治療法の説明を生存率で行うか死亡率で行うかで患者の選択が変わることは、冒頭で紹介した通り実験で確認されています。だからこそ近年のインフォームドコンセントでは、両方のフレームを併記することが推奨されるようになっています。

政治とニュースもフレームの主戦場です。同じ政策が「福祉の充実」とも「バラマキ」とも表現され、同じ経済指標が「3年ぶりの高水準」とも「前月比では減速」とも報じられます。どちらも嘘ではないのが、フレーミングの厄介なところです。

寄付や環境の呼びかけでは、逆に活用が研究されています。「協力しないと失われるもの」を示す損失フレームの方が行動を促す場面と、「協力すると得られるもの」を示す利得フレームの方が効く場面があることが分かっており、行動を後押しする「ナッジ」の設計に応用されています。

実際にフレームを反転させてみる

フレーミング効果への一番の免疫は、目の前の表現を自分で反転させてみることだと私は考えています。練習としていくつかやってみましょう。

「この治療で9割の人に副作用はありません」→ 反転:「1割の人に副作用が出ます」「会員の80%が継続しています」→ 反転:「5人に1人はやめています」「今なら解約金0円」→ 反転:「今を逃すと解約金がかかります」

反転させた瞬間、印象がガラリと変わったはずです。そして重要なのは、どちらの表現も事実として正しいということです。

この練習を繰り返すと、広告や提案書を見たときに「これは利得フレームで書かれているな」と構造が見えるようになります。構造が見えれば、フレームの外にある「事実そのもの」を取り出して判断できるようになります。

対策は「数字を取り出して並べ直す」こと

フレーミング効果への対策をまとめると、次のようになります。

・重要な判断では、表現から数字だけを取り出してメモに並べ直す(90%生存=10%死亡、と両方書く) ・「逆のフレームで言うとどうなるか?」を口に出して言い換えてみる ・選択肢を比較するときは、すべての選択肢を「同じフレーム」に揃えてから比べる ・「1日あたり◯円」型の表現は、年額・総額に換算し直す

特に効果的なのは1つ目です。フレームは言葉に宿るので、言葉を数字に変換した時点でフレームの魔力はほぼ消えます。大きな契約や医療の意思決定では、紙に数字を書き出す一手間をかける価値が十分にあります。

また、自分が情報を伝える側に立つときは、フレーミングの力を自覚する責任があります。相手の利益になる行動を後押しするフレーム選びは正当な工夫ですが、相手の判断を歪めて自分だけが得をするフレーム選びは、事実を使った誘導です。「嘘は言っていない」はフレーミングの免罪符にならないと、伝える側こそ覚えておくべきだと思います。

よくある疑問

最後に、フレーミング効果についてよく出る疑問に答えておきます。

アンカリング効果とはどう違うのですか?

どちらも「情報の提示のされ方」が判断を歪めるバイアスですが、歪め方が違います。アンカリングは「最初に見た数字」が基準になって、その後の推定が数字の近くに引き寄せられる現象です。フレーミングは「同じ内容の表現の仕方」が基準点を動かして、選好そのものが変わる現象です。ざっくり言えば、アンカリングは「数字の大きさ」に、フレーミングは「切り取り方」に反応するバイアスと整理できます。実際の広告では両方が同時に仕込まれていることも珍しくありません。

嘘をついていないなら、問題ないのでは?

ここが悩ましいところです。フレーミングそのものは避けられません。何かを伝える以上、必ずどれかのフレームを選ぶことになるからです(「フレームなしの表現」は存在しません)。問題になるのは、受け手が別フレームなら選ばなかったはずの選択へ、意図的に誘導する場合です。実際、打消し表示や誇大な強調表示には景品表示法などの規制がかかっています。伝える側の誠実さの目安としては、「逆フレームを併記しても自分の主張が成り立つか」を自問するのが良いと思います。

フレーミングに強くなる訓練はありますか?

本文で紹介した「反転の練習」が最も手軽で効果的です。ニュースの見出しや広告のコピーを見かけたら、頭の中で逆フレームに言い換えてみる。1日1回の練習でも、数週間で「フレームを透かして見る」感覚がつかめてくるはずです。もう一つおすすめなのは、自分が文章を書くときに「あえて両方のフレームで書いてみる」ことです。伝え手としてフレームを操作する経験は、受け手としての耐性を最も効率よく鍛えてくれます。

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フレーミング効果の土台である「プロスペクト理論」「損失回避」、同じく情報の提示で判断が動く「アンカリング効果」の記事です。

まとめ

本記事は「フレーミング効果」について解説しました。如何だったでしょうか。

同じ事実が、切り取り方ひとつで正反対の選択を生む。アジア病問題が示したこの結果は、私たちが「事実」だと思って受け取っているものの多くが、実は「誰かが選んだフレーム越しの事実」であることを教えてくれます。

対策の核心は、言葉から数字を取り出し、逆のフレームに反転させてみることです。額縁を外して絵そのものを見る習慣は、広告からニュースまで、情報だらけの毎日を生きる強力な武器になると思います。

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