当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は推理パズルの金字塔「シマウマパズル」について解説します。
5軒の家が並び、住人の国籍も、家の色も、飲み物も、タバコの銘柄も、ペットも全部バラバラ。与えられるのは「イギリス人は赤い家に住む」のような断片的な手掛かりが15個だけ。そこから「水を飲むのは誰か、シマウマを飼っているのは誰か」を突き止めるのがこのパズルです。「アインシュタインが少年時代に作り、世界の98%は解けないと言った」という触れ込みで世界中に広まりましたが、実はこの伝説自体が、パズルに仕掛けられたもう一つの謎だったりします。
シマウマパズルとは
シマウマパズル(英語では zebra puzzle)とは、複数の属性の組み合わせを、与えられた条件だけから消去法で一意に確定させる推理パズルの代表格です。1962年に雑誌に載った原典のルールは次の通りです。
・5軒の家が横一列に並び、それぞれ色が違う ・住人は国籍・飲み物・タバコの銘柄・ペットがすべて異なる ・以下の15の手掛かりがすべて成り立つ
①イギリス人は赤い家に住んでいる ②スペイン人は犬を飼っている ③緑の家の住人はコーヒーを飲む ④ウクライナ人は紅茶を飲む ⑤緑の家は象牙色の家のすぐ右にある ⑥オールドゴールドを吸う人はカタツムリを飼っている ⑦黄色い家の住人はクールを吸う ⑧真ん中の家の住人は牛乳を飲む ⑨ノルウェー人は左端の家に住んでいる ⑩チェスターフィールドを吸う人はキツネを飼う人の隣に住んでいる ⑪クールを吸う人の隣の家では馬を飼っている ⑫ラッキーストライクを吸う人はオレンジジュースを飲む ⑬日本人はパーラメントを吸う ⑭ノルウェー人は青い家の隣に住んでいる ⑮そして問題。水を飲んでいるのは誰か。シマウマを飼っているのは誰か
ずるい点にお気づきでしょうか。手掛かりの中に、水とシマウマは一度も登場しません。14個の条件から他の全項目を確定させ、最後に残った空白こそが答えの席なのです。
1962年のLife誌に載った原典と作者伝説
このパズルの初出ははっきりしていて、1962年12月17日号の雑誌ライフ・インターナショナルです。読者から解答が殺到し、翌1963年3月の号で正解と正解者リストが発表されました。上に挙げた15の手掛かりは、このライフ版をほぼそのまま訳したものです。
一方、ネットで広まった「アインシュタインが少年時代に考案した」「世界の98%は解けない」という触れ込みには、裏付けとなる証拠が見つかっていません。ルイス・キャロル作という説も同様です。そもそもライフ版に登場するタバコの銘柄は1960年代のアメリカで売られていた商品で、1955年に亡くなったアインシュタインの少年時代とは時代が合いません。
つまり「98%は解けない」という煽り文句は、パズルを魅力的に見せるための後付けの演出だったわけです。とは言っても、パズル自体の出来が超一流であることは間違いなく、偽の看板を差し引いてもなお世界中で解かれ続けています。
表を作って確定情報から埋める
シマウマパズルの解き方は、ほぼ一つに決まっています。家の位置1〜5を列、属性(色・国籍・飲み物・タバコ・ペット)を行にした表を作り、確定した項目から埋めていく方法です。序盤の流れを追ってみます。
まず即座に確定するのは2つ。⑧から3軒目の飲み物は牛乳、⑨から1軒目はノルウェー人です。すると⑭より、ノルウェー人の隣にある青い家は2軒目と確定します。
次に⑤を使います。緑は象牙色のすぐ右なので、並びは(象牙・緑)のペア。2軒目は青なので、候補は3・4軒目か4・5軒目です。もし緑が3軒目なら③でコーヒーを飲むはずですが、3軒目は牛乳なので矛盾。よって象牙色が4軒目、緑が5軒目です。さらに①のイギリス人は赤い家に住みますが、1軒目はノルウェー人なので赤は1軒目ではなく、残った3軒目が赤、1軒目は黄色と決まります。⑦より1軒目の住人はクールを吸い、⑪よりその隣の2軒目では馬を飼っている、と芋づる式に続きます。
このように「確定→それを使って次を確定」の連鎖と、「もしここなら矛盾するから消す」という消去法を繰り返すと、最終的に表は一通りに埋まります。答えは、水を飲んでいるのは1軒目のノルウェー人、シマウマを飼っているのは5軒目の日本人です。
| 家 | 色 | 国籍 | 飲み物 | タバコ | ペット |
|---|---|---|---|---|---|
| 1軒目 | 黄 | ノルウェー | 水 | クール | キツネ |
| 2軒目 | 青 | ウクライナ | 紅茶 | チェスターフィールド | 馬 |
| 3軒目 | 赤 | イギリス | 牛乳 | オールドゴールド | カタツムリ |
| 4軒目 | 象牙 | スペイン | オレンジジュース | ラッキーストライク | 犬 |
| 5軒目 | 緑 | 日本 | コーヒー | パーラメント | シマウマ |
249億通りを15の条件で1通りに絞る
このパズルの凄みは、数を数えると見えてきます。5つの属性それぞれの並び方は5の階乗で120通り。全体の組み合わせは120の5乗、約249億通りにのぼります。それをたった15個の条件が、過不足なく1通りに絞り込むのです。条件が1つ欠ければ答えは複数になり、余計な条件があれば無駄が出る。ぎりぎりの情報量で解が一意に定まるよう調整されていることが、このパズルが名作と呼ばれる理由です。
そしてこの構造は、コンピュータ科学では制約充足問題と呼ばれる重要な研究対象そのものです。変数(各家の属性)に値を割り当て、すべての制約を満たす組み合わせを探す。シマウマパズルは制約充足を解くプログラムの定番ベンチマークになっており、AIの教科書や、制約ソルバーというソフトウェアのチュートリアルに繰り返し登場します。
私たちが表で行った「確定情報から候補を削る」操作は制約伝播、「もしここなら、と仮置きして矛盾したら戻る」操作はバックトラック探索と呼ばれ、この2つは現代のソルバーが実際に使っている基本技術です。数独やお絵かきロジックといったペンシルパズルも、みな同じ制約充足ファミリーの仲間です。頭の中でやっていた消去法に立派な名前が付いていると知ると、少し嬉しくなりませんか。
実務は消去法のパズルでできている
シマウマパズルで磨かれる技術は、そのまま実務の道具になります。
まず障害調査やデバッグです。「このログが出ているならネットワークは生きている」「この操作では再現しないからデータ起因ではない」という切り分けは、手掛かりから候補を消していく作業そのもので、頭の中だけでやると必ず取りこぼします。パズルで表を書いたように、「候補×判明した事実」の表を作って潰すのが確実です。
次にスケジューリングや割り当ての問題です。シフト表の作成、会議室の割り当て、時間割の編成は、まさに制約充足問題の実務版で、実際に制約ソルバーで解かれています。「Aさんは火曜不可」「この2人は同じ班にしない」といった条件の集まりから解を探す構造は、5軒の家と何も変わりません。
もう一つ大事なのは、条件を増やしすぎると解がなくなるという感覚です。シマウマパズルは15個の条件が絶妙に両立していますが、現実の要件定義では、積み上げた条件が互いに矛盾して「解なし」になることがよく起きます。どの条件を緩めれば解が生まれるかを探す作業まで含めて、実務は消去法のパズルなのだと思います。
アインシュタイン伝説と解き方の疑問
本当にアインシュタインが作ったのですか?
前述の通り、アインシュタイン作を裏付ける証拠はなく、確認できる初出は1962年のライフ誌です。登場するタバコの銘柄が1960年代の商品である点も、後代の作であることを示しています。「98%は解けない」という数字にも出所がありません。ただ、この種の権威付けの伝説は「天才の名前が付くと問題が魅力的に見える」という人間の心理をよく表していて、当サイトで解説している権威への弱さ(ハロー効果)の実例としても面白い素材だと思います。
勘で仮置きせず、純粋な消去法だけで解けますか?
序盤から中盤は本文のように確定の連鎖だけで進みますが、終盤には「もしこの家がこれなら」という仮置きを使って矛盾を探す場面が出てきます。ただしこれは勘やあてずっぽうではなく、場合分けをして片方を矛盾で棄却するという立派な論理操作です。数学の背理法と同じもので、むしろ仮置きと棄却を恐れないことが、この種のパズルの上達の鍵になります。
数独とはどう違うのですか?
どちらも制約充足問題ですが、制約の種類が違います。数独の制約は「同じ行・列・ブロックに同じ数字を置けない」という1種類だけの、いわば純粋培養の問題です。一方シマウマパズルは「AならB」「AはBの隣」「AはBのすぐ右」など制約の種類が豊富で、条件文の読解と論理の翻訳が問われます。数独が計算ドリルなら、シマウマパズルは文章題と言えるかもしれません。
関連する論理クイズ・パズル
場合分けと矛盾の棄却で正体を暴く「天国と地獄の門番」、他人の視点の消去法を極めた「青い目の島」、そして都合の良い手掛かりだけを集めてしまう心理を扱った「確証バイアス」の記事です。
まとめ
本記事は「シマウマパズル」について解説しました。如何だったでしょうか。
249億通りの可能性が、15個の何気ない文章だけで1通りに畳まれていく。解き終えたときの気持ちよさは、推理パズルの中でも別格です。そして表を作り、確定から埋め、矛盾で枝を落とすという解き方は、障害の切り分けからシフト表の作成まで、現実の問題解決で毎日使われている技術の原型でもあります。
アインシュタインが作ったという伝説は嘘でした。しかし、偽の看板がなくても輝き続けるだけの中身がこのパズルにはあります。まだ自力で解いたことがない方は、紙と鉛筆で表を書きながら、ぜひ一度挑戦してみてください。
論理クイズ・確率パズルの一覧に戻りたい方は以下のリンクからどうぞ。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:論理クイズ・確率パズル(5/11)






