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【ギリシア神話の原典④】英雄譚と神話集成 ― ヘラクレスの12功業・ペルセウス・変身物語を詳しく解説

【ギリシア神話の原典④】英雄譚と神話集成 ― ヘラクレスの12功業・ペルセウス・変身物語を詳しく解説

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、ギリシア神話の原典を解説するシリーズの第4弾(最終回)です。

これまでは神々の誕生(記事①)、『イリアス』(記事②)、『オデュッセイア』(記事③)を扱ってきました。今回は、数々の英雄たちの冒険と、変身をテーマにした神話を、アポロドーロス『ギリシア神話』とオウィディウス『変身物語』をもとに詳しく解説します。

ギリシア神話の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。

【神話・宗教の原典解説】ギリシア神話の原典まとめ ― 主要な古典と全記事の一覧senkohome.com/myths-religions-origins-greek/

アポロドーロス『ギリシア神話(ビブリオテーケー)』とは

項目内容
著者アポロドーロス(に帰される)
主な内容神々の誕生から英雄譚までを体系的にまとめた便覧
重要な点散らばった神話を1つに整理した「まとめ本」

『ビブリオテーケー(書庫)』は、特定の物語に焦点を当てるのではなく、ギリシア神話の全体を、神々の誕生から主要な英雄たちの系譜まで、漏れなく整理した便覧(ハンドブック)です。

物語としての面白さよりも網羅性を重視しているため、「ギリシア神話の全体像を体系的に把握したいとき、最も頼りになる原典」とされています。本記事で紹介する英雄譚の多くも、この書によって整理された形で伝わっています。

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最大の英雄ヘラクレスと「12の功業」

ギリシア神話最大の英雄が「ヘラクレス」です。彼はゼウスと人間の女アルクメネの子で、生まれながらに無類の怪力を持っていました。

しかし、夫ゼウスの浮気相手の子であるヘラクレスを、正妻の女神「ヘラ」は激しく憎みます。ヘラクレスという名前自体が皮肉にも「ヘラの栄光」を意味しますが、彼の生涯はヘラの嫌がらせに苦しめられ続けるものでした。

成長し、家庭を築いたヘラクレスでしたが、ヘラによって一時的に狂気を吹き込まれ、わが妻子を自らの手で殺害してしまうという悲劇に見舞われます。

正気に戻り、自らの罪に打ちのめされたヘラクレスは、その罪を償う方法を神託に求めます。すると「ミケーネの王エウリュステウスに仕え、命じられる難業をすべて成し遂げよ」という答えが下りました。

こうして課されたのが、有名な「ヘラクレスの12の功業」です。当初は10個の予定でしたが、王が2つの功業を「不正があった」と認めなかったため、最終的に12個になりました。

#功業内容
1ネメアの獅子武器の通らない不死身のライオンを、素手で絞め殺す。その毛皮を以後まとう
2レルネのヒュドラ切っても再生する9つ首の水蛇を、切り口を松明で焼いて倒す
3ケリュネイアの牝鹿アルテミス女神の聖なる黄金の角の鹿を、傷つけずに1年かけて生け捕る
4エリュマントスの猪山を荒らす巨大な猪を、雪の中へ追い込んで生け捕る
5アウゲイアスの家畜小屋30年掃除されていない大牛舎を、川の流れを引き込んで1日で清掃する
6ステュムパリデスの怪鳥青銅の羽を持つ人食いの鳥の大群を、音で驚かせて追い払い射落とす
7クレタの牡牛島で暴れる猛々しい牡牛を捕らえる
8ディオメデスの人食い馬人間を食らう4頭の牝馬を、その主を食わせて手なずけ連れ帰る
9ヒッポリュテの帯アマゾン族の女王が持つ、軍神アレスの帯を手に入れる
10ゲリュオンの牛世界の西の果てに住む、三つの体を持つ巨人の赤い牛の群れを奪う
11ヘスペリデスの黄金の林檎天を支える巨人アトラスに代わりに取ってこさせる
12番犬ケルベロス冥界の入り口を守る三つ頭の犬を、生きたまま地上へ連れ出す

これらの功業を通じて、ヘラクレスは「素手で猛獣を倒す力」だけでなく、川の流れを変えたり、アトラスを言葉巧みに動かしたりといった知恵も発揮します。

12の功業を成し遂げて罪を清めた後も、ヘラクレスの冒険は続きますが、最期は悲劇的でした。妻デイアネイラが、夫の愛をつなぎ止めようと、かつて毒で死んだ怪物の血を塗った服を「愛の媚薬」と信じてヘラクレスに着せてしまいます。その服は彼の体を焼く猛毒であり、苦しんだヘラクレスは自ら火葬の薪に登って生涯を終えます。しかし死後、その魂は天に上げられて神々の仲間入りを果たしたとされています。

ペルセウス ― メドゥーサ退治

「ペルセウス」もまた、ゼウスを父に持つ英雄です。その誕生からして数奇でした。母ダナエは、「娘の生む子に殺される」という予言を恐れた父アクリシオス王によって青銅の部屋に閉じ込められますが、ゼウスが黄金の雨に姿を変えて忍び込み、ペルセウスが生まれます。怒った王は、母子を箱に詰めて海へ流してしまいました。

流れ着いた島の王ポリュデクテスは、ダナエを我がものにしようと、邪魔なペルセウスに難題――見た者を石に変える怪物「メドゥーサ」の首――を持ち帰るよう命じます。途方に暮れるペルセウスを、女神アテナとヘルメスが助けました。彼はまず、一つの目と一本の歯を分け合って使う三姉妹「グライアイ」のもとを訪れ、その目を奪い取って、メドゥーサの居場所と必要な道具のありかを聞き出します

こうして道具をそろえたペルセウスは、アテナの「磨かれた盾」を鏡として用い、メドゥーサを直視せずに近づき、ヘルメスの「翼のサンダル」とハデスの「隠れ兜」を使って、眠るメドゥーサの首をはねました。切られた首から、ポセイドンの子である天馬ペガサスが飛び出したとも語られます。

その帰り道、ペルセウスは、いけにえとして岩につながれていた王女「アンドロメダ」を、海の怪物から救い出して妻とします。メドゥーサの首は石化の力を残しており、彼は故郷で母に言い寄っていた王ポリュデクテスを、この首で石に変えて退けました。しかし、運命は逃れられません。後年、競技会で円盤を投げたペルセウスは、観客の中にいた祖父アクリシオスに誤って当ててしまい、これを死なせてしまいます。かつての予言は、こうして成就したのです。

テセウス ― 迷宮と怪物ミノタウロス

アテナイの英雄「テセウス」の最も有名な冒険が、クレタ島の「迷宮(ラビュリントス)」に潜む、牛頭人身の怪物「ミノタウロス」退治です。

テセウスは、アテナイ王アイゲウスの子でした。父が岩の下に隠しておいた剣とサンダルを、成長した彼が持ち上げて取り出し、それを証に父のもとへ向かう――という冒険から物語は始まります。その道中、テセウスは旅人を苦しめる悪党たちを次々と退治しました。とりわけ有名なのが、旅人を寝台に寝かせ、はみ出れば切り落とし、足りなければ引き伸ばした強盗「プロクルステス」を、同じ方法で成敗した逸話です(「プロクルステスの寝台」は、無理に基準へ当てはめることのたとえになりました)。

やがてアテナイにたどり着いた彼は、当時アテナイがクレタ王ミノスに、生贄として若者たちを定期的に差し出していることを知ります。テセウスはその生贄に自ら志願し、怪物を倒すために迷宮へ乗り込みました。

このとき彼を助けたのが、テセウスに恋したクレタの王女「アリアドネ」です。彼女が授けた「糸玉」を入り口に結び、糸をたどることで、テセウスはミノタウロスを倒した後、二度と出られないはずの迷宮から無事に脱出できました。この逸話は「アリアドネの糸」として、問題解決の手がかりを意味する言葉にもなっています。

ところがテセウスは、帰路に立ち寄ったナクソス島に、恩人であるアリアドネを置き去りにしてしまいます(彼女はのちに酒神ディオニュソスの妻になったとも語られます)。さらに悲劇が重なります。出発の際、父アイゲウスは「無事なら白い帆で、死んだら黒い帆で帰れ」と約束させていましたが、テセウスは帆を白に替えるのを忘れて黒帆のまま帰港します。それを見た父アイゲウスは、息子が死んだと思い込んで絶望し、海に身を投げてしまいました。この海が「エーゲ海(アイガイオン)」と呼ばれるようになった、とされています。

アルゴ船の冒険 ― 金羊毛を求めて

英雄「イアソン」は、奪われた王位を取り戻す条件として、遠い異国にある「金羊毛(金色の羊の毛皮)」を持ち帰るよう命じられます。

イアソンは、ヘラクレスやオルフェウス、双子のカストルとポリュデウケスら当代きっての英雄たちを集め、巨大な船「アルゴ号」に乗り込んで冒険の旅に出ます(この乗組員を「アルゴナウタイ」と呼びます)。彼らは、ぶつかり合う二つの岩「シュンプレガデス」の関門を、先に鳩を放って通過の間合いを計るなどして、数々の難所を越えていきました。たどり着いたコルキスの地で、イアソンは王女で魔女の「メデイア」の助けを借り、火を吐く牡牛で畑を耕し、竜の歯をまくとそこから武装した兵士が生え出すという試練を、彼らに同士討ちをさせて切り抜け、最後は眠らぬ竜を魔法で眠らせて、ついに金羊毛を手に入れます。

しかし、この物語の真の悲劇はその後にありました。メデイアは、祖国も肉親も捨ててイアソンに尽くしたにもかかわらず、帰国後、イアソンが別の国の王女と結婚するために彼女を捨ててしまいます。裏切られたメデイアは、復讐として新しい花嫁を毒で殺し、さらにイアソンとの間に生んだ我が子までも手にかけて姿を消しました。この凄絶な復讐劇は、エウリピデスの悲劇『メデイア』として、今も上演され続ける名作になっています。

ベレロポン ― 天馬に乗った英雄

天馬ペガサスを駆った英雄として名高いのが「ベレロポン」です。彼は、ある王妃の言い寄りを退けたところ、逆恨みされて濡れ衣を着せられ、「持参した者を殺せ」と書かれた手紙を持たされて、リュキアの王のもとへ送られます。手紙の意味を知った王は、ベレロポンに、ライオン・山羊・蛇が合体した怪物「キマイラ」退治という、死を約束したような難題を課しました。

しかしベレロポンは、女神アテナの助けで天馬ペガサスを手なずけ、空からキマイラを攻撃して、見事に討ち取ります。数々の難業を成し遂げて名声を得た彼でしたが、思い上がってペガサスで神々の住む天界へ昇ろうとしたため、ゼウスの怒りを買って落馬し、地上をさまよう身となったと伝えられます。英雄の慢心への戒めが込められた物語です。

オイディプス ― 逃れられぬ悲劇

テーバイの王子「オイディプス」の物語は、ギリシア悲劇の代表として知られます。彼には「父を殺し、母を妻とする」という恐ろしい予言がかけられていました。

予言を避けようと故郷を離れたオイディプスは、旅の途中の諍いで、それと知らずに実の父である王を殺してしまいます。さらに、人々を苦しめていた怪物「スフィンクス」の謎かけ(朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足のものは何か=答えは「人間」)を解いて退治した褒美として、空位だったテーバイの王位と、前王の妃を得ます。その妃こそ、実の母だったのです。

後に真実を知ったオイディプスは絶望し、自らの目を突いて盲目となり、放浪の旅へ出ます。この物語は、「人は運命から逃れられるのか」という問いを投げかけ、ソポクレスの戯曲『オイディプス王』として不朽の名作となりました。

オウィディウス『変身物語(へんしんものがたり)』とは

項目内容
著者オウィディウス(古代ローマの詩人)
構成全15巻(約250の物語)
主な内容「変身」を共通テーマに集めた神話の一大叙事詩

最後に紹介するのは、古代ローマの詩人オウィディウスによる作品です。ローマ神話はギリシア神話を多く受け継いでいるため、ギリシア神話を知る上でも欠かせない原典です。

その名のとおり、神や人間が動物・植物・星などに「姿を変える(変身する)」という共通テーマで、天地創造から始まり、最後はローマのカエサルが星になるまで、約250もの物語が一つの大きな流れとしてつなげられています。

収められた物語には、後世の絵画や文学に絶大な影響を与えたものが数多くあります。

物語内容
アポロンとダフネ愛から逃れようとしたニンフのダフネが、月桂樹に姿を変える
ナルキッソスとエコー水面に映る自分の姿に恋い焦がれて死に、水仙の花になる(ナルシシズムの語源)
ミダス王触れたものすべてが黄金に変わる力を願い、食べ物も娘も金に変えてしまい苦しむ
ピュグマリオン彫刻家が自作の女性像に恋し、女神アフロディテの力で像が人間になる
ダイダロスとイカロス蝋で固めた翼で飛ぶが、息子イカロスが太陽に近づきすぎて墜落する
オルフェウスとエウリュディケ亡き妻を取り戻すため冥界へ下るが、「振り返るな」の禁を破り永遠に失う
アラクネ機織りの腕を女神アテナと競った娘が、罰として蜘蛛に変えられる
ピュラモスとティスベ引き裂かれた恋人たちが悲劇的な死を遂げる(『ロミオとジュリエット』の原型とされる)

このように『変身物語』は、バラバラだったギリシア・ローマの神話を「変身」というテーマで一冊に編み上げた、神話文学の集大成と言える原典です。

登場キャラクターの強さは? ― 最強ランキング

本記事に登場した神々・英雄は、「神話・宗教・伝説 最強ランキング」でも強さ順に紹介しています。原典での活躍と、その「強さ」をあわせてお楽しみください。

ヘラクレス(66位)ヒュドラ(70位)メドゥーサ(74位)ケイローン(78位)ペルセウス(94位)ベレロポーン(95位)ケルベロス(96位)テセウス(100位)

もっと深く知りたい方へ

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まとめ

本記事では、アポロドーロス『ギリシア神話』とオウィディウス『変身物語』をもとに、ヘラクレスの12の功業をはじめとする英雄譚と、数々の変身神話を詳しく解説しました。如何だったでしょうか。

ギリシア神話の英雄たちは、怪物退治の武勇だけでなく、知恵や、時には逃れられない運命との戦いを通して、人間の様々な姿を描き出していることがおわかりいただけたかと思います。

これで、ギリシア神話の原典シリーズ全4記事が完結しました。神々の誕生から英雄たちの冒険まで、ギリシア神話の世界をたっぷり味わっていただけたなら幸いです。

ギリシア神話の原典の全体像や、他の記事へのリンクは、以下のまとめ記事を参照してください。

【神話・宗教の原典解説】ギリシア神話の原典まとめ ― 主要な古典と全記事の一覧senkohome.com/myths-religions-origins-greek/

ギリシア神話の神々や英雄の強さについては、こちらのランキング記事も参考にしてみてください。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。