パラドックス

【世界のパラドックス】オルバースのパラドックス ─ 星が無限にあるなら夜空はなぜ暗いのか

【世界のパラドックス】オルバースのパラドックス ─ 星が無限にあるなら夜空はなぜ暗いのか

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「オルバースのパラドックス」について解説します。

夜空を見上げると暗い空に星が点々と光っています。当たり前の光景ですが、ここに深い謎が隠されています。もし宇宙が無限で星が均一に分布しているなら、どの方向を見ても必ず星に行き当たるはずです。つまり、夜空は星の光で隙間なく埋め尽くされ、太陽の表面のように明るくなるはずなのです。

なぜ夜空は暗いのか。この素朴な疑問が、宇宙の根本的な性質を暴き出すことになりました。

図解

パラドックスの論理

この問題は1823年にドイツの天文学者ハインリヒ・オルバースが体系的に論じたことで有名ですが、同じ疑問はそれ以前にも複数の天文学者が提起しています。1610年にケプラーが、1720年代にはイギリスのハレーやスイスのシェゾーもこの問題に取り組みました。

論理はこうです。宇宙が無限に広がり、空間が均一に星で満たされているとします。

地球を中心に薄い球殻を考えます。距離が2倍になると、1つの星からの光の明るさは逆二乗の法則で1/4になります。しかし、球殻の表面積は距離の2乗に比例して4倍になり、同じ厚さの球殻に含まれる星の数も4倍になります。明るさの減少と星の数の増加が正確に相殺されるため、どの距離の球殻も夜空の明るさに同じだけ貢献するのです。

これが無限に続くなら、夜空の明るさは無限大になるはずです。厳密に言えば、手前の星が奥の星の光を遮るため、明るさは無限大にはなりません。しかし、それでも夜空のあらゆる方向が星の表面で覆い尽くされることには変わりなく、夜空全体が太陽表面の温度(約5500℃)に輝くことになります。実際の夜空は暗い。これが矛盾です。

当時考えられた不十分な解答

オルバースの時代にもいくつかの解答が試みられましたが、いずれも不十分でした。

「星間ガスや塵が遠くの星の光を遮っているのではないか」という説がオルバース自身によって提案されました。しかし、この説には致命的な問題があります。光を吸収したガスや塵は温度が上昇し、いずれ自分自身が光を放つようになるからです。宇宙が永遠に存在していれば、ガスも塵もやがて星と同じ温度に達するため、遮蔽にはなりません。

「宇宙は有限の大きさで、星の数にも限りがあるのではないか」という説もありました。これは部分的に正しい方向ですが、当時の科学者たちは宇宙が有限であるという考えを受け入れがたいと感じていました。有限の宇宙の「外側」には何があるのか、という哲学的問題が生じるからです。

正しい解答 ── 宇宙の年齢と膨張

オルバースのパラドックスに対する解答は、20世紀の宇宙論から明確に与えられました。2つの要因が重要です。

第一に、宇宙の年齢が有限であることです。宇宙は約138億年前のビッグバンで始まりました。光の速度は有限(秒速約30万km)なので、138億光年以上離れた場所から光はまだ地球に届いていません。

私たちが光を受け取ることのできる宇宙の範囲(観測可能な宇宙)には限りがあり、無限遠の星の光を受け取ることはできないのです。球殻を無限に積み上げるという議論の前提が崩れます。

第二に、「宇宙の膨張」です。宇宙は膨張しており、遠くの銀河ほど速く遠ざかっています。これにより、遠方の星からの光は「赤方偏移」を起こし、波長が引き伸ばされます。可視光が赤外線に、赤外線がマイクロ波の領域にまでずれてしまい、人間の目には見えなくなるのです。

十分に遠い銀河からの光は、宇宙の膨張によってエネルギーを大幅に失った状態で届きます。この効果も夜空を暗くする要因の一つです。

宇宙マイクロ波背景放射 ── 夜空は完全には暗くない

興味深いことに、ある意味で夜空は完全には暗くありません。

宇宙が誕生してから約38万年後、宇宙が十分に冷えて光が直進できるようになった瞬間の光が、現在「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」として観測されています。この光は宇宙の膨張によって極度に引き伸ばされ、現在は温度にして約2.7ケルビン(マイナス約270℃)のマイクロ波として宇宙のあらゆる方向から均一に届いています。

つまり、夜空はマイクロ波では全方向から均一に光っているのです。肉眼では見えませんが、1960年代にペンジアスとウィルソンがこの放射を偶然発見し、ビッグバン理論の決定的な証拠となりました。

オルバースのパラドックスが予言した「全天が光で満たされる」という状況は、形を変えて実現していたとも言えます。

エドガー・アラン・ポーの直感

驚くべきことに、科学者でなくこの問題に本質的な解答を与えた人物がいます。アメリカの作家エドガー・アラン・ポーです。

ポーは1848年のエッセイ『ユリイカ』の中で、夜空が暗いのは「遠くの星から光がまだ届いていないから」だと述べました。宇宙の年齢が有限であるという現代宇宙論の核心的な回答を、ビッグバン理論の発見より100年以上前に、文学者の直感で言い当てていたのです。

科学史において、詩人の直感が天文学者の分析を先取りしたという、非常に珍しいエピソードです。

宇宙論への示唆

オルバースのパラドックスが教えてくれるのは、「宇宙が永遠不変で無限である」という古典的な宇宙像が間違っているということです。

19世紀の時点で、この矛盾を本気で追究していれば、宇宙の有限性や膨張を予測できたかもしれません。しかし当時は、宇宙が永遠不変であるという前提があまりにも強固な常識であり、パラドックスはあまり深刻に受け止められませんでした。アインシュタインですら、最初の一般相対性理論の宇宙モデルでは静的な宇宙を想定し、後にハッブルの膨張宇宙の発見を受けて「人生最大の過ち」と悔やんだほどです。

素朴な疑問を正面から受け止めることの大切さを、このパラドックスは教えてくれます。

宇宙観測の関連パラドックス

オルバースのパラドックスと同じく宇宙の観測に関わる不思議を扱う関連パラドックスです。

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まとめ

本記事は「オルバースのパラドックス」について解説しました。如何だったでしょうか。

「夜空はなぜ暗いのか」という子供でも思いつきそうな問いの中に、宇宙の有限性と膨張という壮大な答えが隠されていたのは驚きです。しかも、その解答をポーという文学者が直感的に先取りしていたというエピソードは、科学と人文学の境界を超えた知の面白さを感じさせます。

日常の中にこそ、宇宙の深い真理が潜んでいるのかもしれません。

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