法則

【法則】マーフィーの法則 ─ 「失敗するものは失敗する」は悲観論ではなく安全思想だった

【法則】マーフィーの法則 ─ 「失敗するものは失敗する」は悲観論ではなく安全思想だった

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は世界一有名な経験則「マーフィーの法則」について解説します。

「洗車をすると雨が降る」「急いでいるときに限って信号が赤になる」「トーストは必ずバターを塗った面から床に落ちる」。こうした「なぜか悪いことばかり起きる」という感覚を一言で表したのが、マーフィーの法則です。ユーモラスな愚痴として世界中で親しまれていますが、実はこの法則、悲観論として生まれたのではなく、ロケット実験の現場で「事故を防ぐための教訓」として誕生したという、意外な素顔を持っています。その本当の物語を紹介します。

図解

マーフィーの法則とは

マーフィーの法則(英語では Murphy’s law)とは、「失敗する可能性のあるものは、いつか必ず失敗する」という経験則です。英語の原文は「Anything that can go wrong will go wrong」で、直訳すると「うまくいかなくなる可能性のあることは、うまくいかなくなる」となります。

この法則が愛されているのは、誰もが身に覚えのある不運を、あるあるネタとして言い当てているからです。大事なプレゼンの日に限ってパソコンが起動しない、傘を持っていない日に限って雨が降る、レジで隣の列のほうが速く進む。こうした日常の小さな不運を、「ああ、これぞマーフィーの法則だ」と笑い飛ばすための便利な言葉として、世界中に広まりました。

日本では1993年頃に書籍『マーフィーの法則』が大ブームになり、「バターを塗ったトーストは必ずバターの面を下にして落ちる」といったユーモラスな派生形が数多く生まれました。多くの人はこれを「世の中は意地悪にできている」という自虐的なジョークとして受け取っています。しかし、その誕生の現場はまったく笑いごとではありませんでした。

ロケットそり実験の現場で生まれた

マーフィーの法則の由来には、はっきりした説があります。舞台は1949年、アメリカ空軍のロケットそり実験です。

当時、人間が急減速に耐えられる限界を調べるため、ロケットで加速したそりを急停止させ、乗った人間にかかる力を測定する危険な実験が行われていました。この実験に、エドワード・マーフィーという航空技術者が、加速度を測るセンサーの担当として関わっていました。

ある日の実験で、取り付けた16個のセンサーが1つ残らず、すべて誤ったデータしか出さないという事態が起きました。原因を調べると、センサーは2通りの向きで取り付けられる構造になっていて、16個すべてが正しくない向きに取り付けられていたのです。この失敗にマーフィーは、担当技術者を指して「もし失敗するやり方が2通りあれば、彼は必ず間違ったほうを選ぶ」という趣旨のことを言ったと伝えられています。これがマーフィーの法則の原型とされています。

つまり、この言葉の本来の意味は「世の中は意地悪だ」という受動的な嘆きではありませんでした。「間違った付け方ができる設計になっている限り、いつか必ず誰かが間違って付ける。だから、そもそも間違った付け方ができないように設計すべきだ」という、能動的な設計思想だったのです。愚痴どころか、その正反対の教訓でした。

「事故が起きなかった理由」として世に出た

面白いのは、この言葉が世間に広まった経緯です。

このロケットそり実験の責任者だったジョン・スタップという軍医は、自らの体を実験台にして急減速に耐える壮絶な研究で知られていました。彼は数々の危険な実験を、大きな事故を出さずにやり遂げていました。その安全記録の秘訣を記者会見で尋ねられたとき、スタップは「我々は常にマーフィーの法則を考慮しているからだ」と答えたのです。

「失敗しうることは失敗する」と常に想定し、あらゆる失敗の可能性を先回りしてつぶしておく。だからこそ、危険な実験でも事故が起きなかった。マーフィーの法則は、悲観論としてではなく、優れた安全管理の哲学として世に出たわけです。

この考え方は、現代のあらゆる安全設計に生きています。コンセントの形が上下逆に挿せないようになっているのも、重要な操作に確認ダイアログが出るのも、すべて「間違えられる余地があれば人は必ず間違える」というマーフィー的な発想の産物です。この「うっかりミスを、人の注意力ではなく仕組みで防ぐ」という設計思想は、専門的にはフールプルーフ(うっかり防止)と呼ばれ、製品設計の基本原則になっています。愚痴から生まれたと思われがちな法則が、実は私たちの安全な暮らしを支える思想だったのです。

トーストは本当にバター面から落ちるのか

では、「バターを塗った面から落ちる」という有名な派生形は、ただのジョークなのでしょうか。ここに、科学者が本気で挑んだ愉快な研究があります。

イギリスの物理学者ロバート・マシューズは、「トーストがバター面から落ちやすいのは、実は本当だ」ということを物理的に示しました。ポイントはバターの重さではありません。テーブルの高さです。

一般的なテーブルの高さ(約70〜80センチ)からトーストが滑り落ちるとき、トーストは落下しながら回転を始めます。ところが、テーブルの高さでは、ちょうど半回転(180度)した時点で床に着いてしまうのです。トーストは普通バターを塗った面を上にしてテーブルに置かれているので、半回転すればバター面が下を向いて着地します。もしテーブルがもっと高ければ、一回転してバター面が上に戻る余裕がありますが、人間の使うテーブルはそこまで高くありません。人間の身長に合わせたテーブルの高さこそが、悲劇の犯人だったのです。この研究は、ユーモラスな研究に贈られるイグノーベル賞を受賞しました。

すべての派生形が科学的に本当なわけではありませんが、この一件は「くだらないと思われる問いにも、まじめに調べると面白い真実が隠れている」ことを教えてくれます。私はこのトーストの物語が、マーフィーの法則にまつわる逸話の中で一番好きです。

なぜ「悪いことばかり」と感じてしまうのか

とはいえ、日常のマーフィーの法則の大半は、物理ではなく私たちの心の仕組みが生み出しています。ここが、この法則を知るうえで一番実用的な部分です。

「洗車すると雨が降る」と感じるのは、洗車したのに雨が降らなかった大多数の日を、私たちがまったく記憶していないからです。強く印象に残るのは、洗車と雨が重なった悔しい日だけ。この「都合の悪い一致だけが記憶に残り、何もなかった日は忘れられる」という心の偏りが、あたかも世界が意地悪をしているかのような錯覚を生みます。

これは、当サイトで解説している「確証バイアス」「利用可能性ヒューリスティック」という認知バイアスの働きです。私たちは「やっぱり悪いことは重なる」という思い込みに合う出来事だけを拾い集め、思い込みに反する平穏な日々を数えないのです。マーフィーの法則を強く感じる人ほど、実は自分の記憶の偏りに気づくチャンスがある、とも言えます。不運を嘆く前に「うまくいった日を、自分は数え忘れていないか」と問い直すと、世界は思ったほど意地悪ではないと気づけるかもしれません。

マーフィーの法則をめぐる疑問

結局、マーフィーの法則は本当なのですか?

3つに分けて考えると整理できます。第一に、設計や安全管理の教訓としては本当に有効です。「間違えられる設計はいつか間違えられる」というのは、事故防止の鉄則です。第二に、物理的に本当な派生形もあります(トーストの例など)。第三に、しかし日常で感じるマーフィーの法則の多くは、記憶の偏りが作り出した錯覚です。「世界が自分を狙っている」わけではありません。この3層を区別できると、法則を賢く使い分けられます。

対策や、逆に利用する方法はありますか?

あります。安全思想としてのマーフィーの法則は、「最悪の事態を先に想定して、備えておく」という形で日常に活かせます。大事な資料は必ずバックアップする、締切には余裕を持たせる、旅行には常備薬を入れておく。「失敗しうることは失敗する」と一度想定してから準備すると、実際に何かあっても慌てずに済みます。悲観して立ちすくむのではなく、悲観を先回りの準備に変えるのが、この法則の正しい使い方だと思います。

「マーフィー」という人は実在したのですか?

実在します。前述のエドワード・マーフィーという航空技術者が由来とされる説が最も有力です。ただし、彼が実際に口にした言葉の正確な文言や、法則の命名の細かい経緯については諸説あり、関係者の証言も食い違う部分があります。「失敗しうるものは失敗する」という発想自体は、マーフィー以前から技術者や船乗りの間で言い古されていたものでもあります。誰か一人の発明というより、現場で経験を積んだ人々が共有していた知恵に、たまたまマーフィーの名が付いたと考えるのが実情に近いでしょう。

関連する法則・バイアス

不運が重なって見える心の仕組みを扱った「確証バイアス」、思い出しやすさが判断を歪める「利用可能性ヒューリスティック」、そして同じく仕事の現場から生まれた「パーキンソンの法則」の記事です。

まとめ

本記事は「マーフィーの法則」について解説しました。如何だったでしょうか。

世界が意地悪にできているという自虐ジョークが、その出発点では「だから失敗できない仕組みを作ろう」という前向きな安全思想だった。この逆転こそ、マーフィーの法則の一番面白いところだと思います。愚痴として笑うのも良いですが、その裏にある「最悪を想定して備える」という知恵まで持ち帰ると、この法則は一気に実用的な道具に変わります。

次にトーストを床に落としてバター面を見つめるときは、テーブルの高さと自分の記憶の偏り、両方を思い出してみてください。世界はあなたを狙ってなどいない、と少し気が楽になるはずです。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。

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