当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、アステカ神話の原典を解説するシリーズの第3弾です。
今回は、アステカ神話を彩る多彩な神々と、その守護神ウィツィロポチトリが導いた都テノチティトランの建国神話を見ていきます。前回のケツァルコアトルと並ぶ、もう一柱の主役が登場します。
神々の姿や誕生神話は、サアグン編『フィレンツェ写本』に最も詳しく、建国神話は『メンドーサ写本』や、ドミニコ会修道士ドゥランの記録などに伝えられています。本記事でも、要所でどの原典に拠るのかを示しながら解説します。
アステカ神話の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。
アステカの主要な神々
アステカ神話には、自然の力や人間の営みを司る、数多くの神々が登場します。まずは特に重要な神々を押さえておきましょう。
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ウィツィロポチトリ ― アステカの守護神
「ウィツィロポチトリ」は、太陽と戦いの神であり、アステカ(メシカ)民族の守護神です。前回のケツァルコアトルがメソアメリカ全体で古くから崇められた神であるのに対し、ウィツィロポチトリはアステカ民族に固有の、若く猛々しい守護神です。その名は「南方のハチドリ」を意味し、戦死した戦士の魂はハチドリになって彼に従うと信じられました。
誕生神話 ― コアテペックの戦い
ウィツィロポチトリの誕生神話は、アステカ神話の中でも特に劇的で、サアグン編『フィレンツェ写本』第3巻に語られています。
母なる大地の女神コアトリクエ(「蛇のスカートをまとう者」)は、ある日、天から落ちてきた羽毛の玉を胸元にしまったところ、それによって身ごもりました。しかし、すでに多くの子を持つ母の突然の懐妊は、子どもたちの怒りを買います。
娘である月の女神コヨルシャウキは、400人の兄弟(南の星々、センツォン・ウィツナワ)を率いて、「母が我らに恥をかかせた」と、母コアトリクエを殺そうと、聖なる山コアテペック(蛇の山)へ攻め上りました。
母が殺されようとした、まさにその瞬間――胎内にいたウィツィロポチトリが、完全に武装した姿で生まれ出ました。彼は「シウコアトル(火の蛇)」と呼ばれる武器を手に、襲い来る姉コヨルシャウキを討ち取ります。そして姉の首と手足を切り落とし、その体を山の上から下へと投げ落としたのです。バラバラになった姉の体は、ふもとへ転がり落ちていきました。続いてウィツィロポチトリは、400人の兄弟たちも次々と打ち破り、四方へ追い散らしました。
この神話は、太陽(ウィツィロポチトリ)が、夜明けとともに月(コヨルシャウキ)と無数の星々(400の兄弟)を打ち破って昇ることを、神話として描いたものとされます。アステカの大神殿テンプロ・マヨールの基部からは、バラバラに切り刻まれたコヨルシャウキを描いた巨大な円盤石が発掘されており、この神話が儀礼の中心にあったことを物語っています。
テスカトリポカ ― 煙る鏡
「テスカトリポカ」は、その名が「煙る鏡」を意味する、夜・運命・呪術・争いを司る神です。黒曜石でできた魔法の鏡を持ち、それで世界のすべてと、人々の心の奥までを見通すとされます。片足が大地の怪物に食われて失われている姿でも描かれます。
テスカトリポカは全能でありながら、気まぐれで気難しい神です。人間に富や栄光を与えることもあれば、気まぐれにそれを奪い、破滅をもたらすこともあります。前回(記事②)見たように、トルテカの聖王ケツァルコアトルを策略で陥れたのも彼でした。記事①の創世神話でも、ケツァルコアトルと協力して大地を造る一方、太陽の座をめぐって何度も世界を滅ぼし合う永遠の好敵手(ライバル)として描かれます。善悪では割り切れない、運命そのもののような神だといえます。
トラロック ― 雨と水の神
「トラロック」は、雨・水・農耕の恵みを司る神です。ぎょろりとした目(ゴーグルのような縁取り)と牙を持つ独特の姿で描かれます。
農業に生きる人々にとって、雨をもたらすトラロックは、生死を左右する重要な神でした。その信仰はアステカよりはるかに古く、メソアメリカ全体で長く崇められてきました。彼が支配する楽園トラロカンは、水に関わって死んだ者が行く緑豊かな楽土とされます(記事④で後述)。アステカの都テノチティトランの中心にそびえた大神殿「テンプロ・マヨール」は、戦の神ウィツィロポチトリと、雨の神トラロックの2柱に捧げられた二重の神殿でした。戦争(太陽)と農耕(雨)――この2つこそ、アステカの国家を支える両輪だったのです。
その他の神々
アステカ神話には、このほかにも生活のあらゆる面を司る神々がいます。
| 神 | 司るもの |
|---|---|
| シペ・トテック | 春・農耕・再生。皮を剥いだ姿で表され、種が殻を破る再生を象徴する |
| ミクトランテクートリ | 死者の国ミクトランの王。妻ミクテカシワトルと冥界を治める |
| ショチケツァル | 花・愛・美・技芸の女神 |
| センテオトル | トウモロコシの神。人々の主食を体現する |
| トラソルテオトル | 浄化と豊穣の女神。人の罪や汚れを食べて清めるとされる |
| ウェウェテオトル | 「老いた神」と呼ばれる、最古の火の神 |
これらの神々が、自然の力や人間の運命を分けあって司り、アステカの人々の世界を形づくっていました。多くの神が慈悲と恐ろしさ、創造と破壊という相反する面をあわせ持つのも、二元論を重んじるアステカ神話の特徴です。
なかでも独特なのが、ケツァルコアトルの双子の兄弟とされる「ショロトル」です。彼は犬の頭を持つ姿で描かれ、夕方に西へ沈む金星(宵の明星)を司ります。死者が冥界ミクトランへ下る危険な旅に付き添う案内役ともされ、アステカで死者とともに犬が葬られたのは、この神への信仰と結びついています。また先述のテオティワカン神話では、第五の太陽を動かすため、ショロトルが最後まで犠牲を拒んで魚(アショロトル=ウーパールーパーの語源)に姿を変えて逃げた、とも語られます。一柱の神に、金星・犬・死の案内・変身といった多くの顔が重なり合う点に、アステカ神話の重層性がよく表れています。
テノチティトラン建国神話 ― 鷲とサボテン
最後に、アステカ民族の歩みそのものを語る建国神話を見ておきましょう。守護神ウィツィロポチトリが、深く関わります。この物語は『メンドーサ写本』の冒頭の絵や、ドゥラン『新スペインとインディアスの歴史』などに伝えられています。
アステカ(メシカ)の人々は、もともと北方の伝説の故郷「アストラン」を旅立った、各地を放浪する貧しい部族でした。その長い旅を導いたのが、守護神ウィツィロポチトリのお告げです。神は、こう告げていました。
「鷲(わし)が、サボテンの上にとまって蛇をくわえている。その場所を見つけ、そこに都を築け」
幾世代もの放浪の末、彼らはついにメキシコ盆地のテスココ湖にたどり着きます。そして湖に浮かぶ小さな島で、サボテンの上にとまり、蛇をくわえた一羽の鷲を、まさに目にしたのです。お告げのとおりのその地に、アステカの人々は1325年、都テノチティトラン(現在のメキシコシティ)を建設しました。
この「鷲・サボテン・蛇」の光景は、今もメキシコの国旗の中心に描かれています。神のお告げに導かれた放浪の民が、湖上に大帝国の都を築く――この建国神話は、アステカの人々の誇りそのものでした。
登場キャラクターの強さは? ― 最強ランキング
本記事に登場した神々・英雄は、「神話・宗教・伝説 最強ランキング」でも強さ順に紹介しています。原典での活躍と、その「強さ」をあわせてお楽しみください。
テスカトリポカ(15位)・ウィツィロポチトリ(23位)・トラロック(33位)
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まとめ
本記事では、アステカの神々と建国神話を、原典に沿って詳しく解説しました。如何だったでしょうか。
アステカの守護神ウィツィロポチトリは、コアテペックの戦いで姉や兄弟を打ち破って生まれた、太陽そのものを体現する神でした。運命を操るテスカトリポカ、恵みの雨のトラロック、そして再生のシペ・トテックや死のミクトランテクートリら、多彩な神々がアステカの世界を支えていました。
そして人々は、ウィツィロポチトリのお告げに導かれ、鷲とサボテンの地に都テノチティトランを築いたのです。
次回の記事④(最終回)では、これらの神々(とりわけ太陽)を支えるために行われた人身供犠と、暦・宇宙論・死後の世界という、アステカの世界観の核心を解説していきます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:アステカ神話の原典解説(4/5)