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【ケルト神話の原典③】フィン・マックールとフィアナ騎士団 ― 知恵の鮭と常若の国を解説

【ケルト神話の原典③】フィン・マックールとフィアナ騎士団 ― 知恵の鮭と常若の国を解説

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、ケルト神話の原典を解説するシリーズの第3弾です。

今回は、アイルランドの「フィアナ物語群」を取り上げ、知恵の鮭で智を得た英雄フィン・マックールと、その戦士団フィアナの物語を詳しく見ていきます。

ケルト神話の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。

【神話・宗教の原典解説】ケルト神話の原典まとめ ― アルスター物語群と全記事の一覧senkohome.com/myths-religions-origins-celtic/

本記事で扱う「フィアナ物語群」と、次回(記事④)で扱うウェールズの「マビノギオン」の位置づけを、図で整理しておきます。

ケルト神話の2つの宝庫(本記事=フィアナ物語群) フィアナ物語群(本記事③) 英雄フィン・マックールと戦士団フィアナ 知恵の鮭/魔物アレン退治 常若の国へ渡ったオシーン ディルムッドとグラーニャの悲恋 マビノギオン(次回の記事④) 中世ウェールズの写本に伝わる物語集 「マビノギ四枝」が中心 巨人王ブラン/花の女ブロダイウェズ アーサー王伝説の源流の一つ

本記事でたどる、フィアナ物語群の主な内容は以下のとおりです。

物語内容
知恵の鮭少年フィンが全知の知恵を得る
魔物アレン退治フィンがフィアナ騎士団の長となる
鹿の妻サズヴ魔法で鹿にされた妻と、息子オシーンの誕生
常若の国オシーンが異界ティル・ナ・ノーグで300年を過ごす
ディルムッドとグラーニャ婚約者の駆け落ちと、フィンの非情な復讐
老人たちの語らい生き残りの戦士が聖パトリックに昔を語る

フィン・マックールと「知恵の鮭」

「フィアナ物語群」は、英雄「フィン・マックール」と、彼が率いる戦士団「フィアナ」の冒険を描く物語群です。前回のクー・フーリンが「悲劇の若き英雄」なら、フィンは知恵と統率に長けた、円熟した英雄として描かれます。

フィンの知恵の源を物語るのが、有名な「知恵の鮭」の逸話です。

幼いフィンは、詩人「フィネガス」のもとで学んでいました。フィネガスは、「食べた者にこの世のすべての知識を授ける」とされる「知恵の鮭」を、7年かけてようやく釣り上げます。彼はフィンに、その鮭を焼くよう命じ、「決して食べてはならない」と言いつけました。

ところがフィンは、鮭を焼く最中に、はじけた脂で親指をやけどし、思わずその指を口にくわえてしまいます。こうして、知恵の鮭の力を最初に得たのは、フィネガスではなくフィンでした。これ以後フィンは、親指を噛むと、あらゆる知識や未来を見通せるようになったとされています。

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魔物アレンを退治し、フィアナの長となる

フィンが戦士団フィアナの長となった経緯を語るのが、「タラを焼く魔物アレン」の物語です。

当時、王宮タラは毎年「サウィン祭(万聖節)」の夜になると、妖精族の魔物「アレン」に苦しめられていました。アレンは美しい竪琴の音色で人々を眠らせ、誰もが寝静まったところで口から火を吐いて王宮タラを焼き払うのです。これが23年も続き、誰一人として防げずにいました。

そこへ現れた若きフィンは、魔法の槍の穂先を額に押し当てて、その痛みと殺気で眠気に打ち勝ちます。そして眠りの音色に惑わされることなく、火を吐こうとしたアレンを討ち取りました。長年の脅威を取り除いた褒美として、フィンは戦士団フィアナの長に任じられたのです。

フィアナへの入団には、超人的な試練が課されました。たとえば、地面に腰まで埋まった状態で、9人が同時に投げる槍を盾だけで防ぐ森を髪一本乱さず、枝を一本も折らずに駆け抜ける走りながら、足のとげを抜くといった、いずれも常人には不可能なものばかりだったと伝えられます。

フィンの猟犬と、鹿となった妻サズヴ

フィンには、「ブラン」と「スコーラン」という、人間の言葉を解する2頭の賢い猟犬がいました。実はこの2頭は、魔法で犬に変えられた人間の甥にあたる、という出自を持っています。

この猟犬にまつわるのが、フィンの妻「サズヴ」の物語です。サズヴは、求愛を断った妖精の魔法によって「牝鹿」に変えられていました。あるときフィンが狩りで仕留めかけた牝鹿に対し、猟犬ブランとスコーランがなぜか襲わず、優しく寄り添います。フィンが鹿を館へ連れ帰ると、鹿は美しい女性サズヴの姿に戻りました。

2人は結ばれますが、フィンの留守中に、再び妖精の魔法でサズヴは鹿に戻され、連れ去られてしまいます。後にフィンは、森で発見された野生児を保護しました。それはサズヴが鹿の姿で産んだ息子で、「オシーン(小鹿)」と名づけられます。このオシーンこそ、次に語る、常若の国へ渡る詩人にして戦士なのです。

常若の国へ渡ったオシーン

フィンの息子で、詩人にして戦士の「オシーン」には、切ない物語が伝わっています。

オシーンは、妖精の国の姫「ニアヴ」に見初められ、海の彼方の楽園「ティル・ナ・ノーグ(常若の国)」へと渡ります。そこは老いも死もない理想郷で、オシーンは幸せな日々を過ごしました。

やがて故郷が恋しくなったオシーンは、一時的に帰ることを許されますが、「決して地面に足をつけてはならない」と忠告されます。ところが故郷に戻ったオシーンは、常若の国での3年が、地上では300年もの歳月だったことを知ります。父フィンもフィアナも、とうに伝説の彼方でした。

そして、地上の人々を助けようとした拍子に、オシーンは誤って馬から落ち、地面に触れてしまいます。その瞬間、彼は一気に300年分の老人へと変わり果ててしまいました。時間の流れの違う異界と人間界の悲劇を描く、ケルトらしい物語です。

ディルムッドとグラーニャの悲恋

フィアナ物語群には、「ディルムッドとグラーニャ」という悲恋の物語もあります。

老いたフィンは、若く美しい姫「グラーニャ」を妻に迎えようとします。しかしグラーニャは、フィンの腹心の若き戦士「ディルムッド」と恋に落ち、2人で駆け落ちしてしまいました。

フィンは2人を執拗に追いますが、長い年月を経て、いったんは和解します。ところが後日、フィンは狩りの最中に手負いの猪に突かれて瀕死となったディルムッドを見つけます。フィンには「両手で水をすくって飲ませれば命を救える」力がありましたが、かつての恨みからわざと水をこぼし、ディルムッドを見殺しにしてしまったとされます。この物語は、後の『トリスタンとイゾルデ』の悲恋にも影響を与えたと言われます。

フィアナ物語はどう伝わったか ― オシーンと聖パトリック

フィアナ物語群が後世に伝わった、その「枠組み」自体も魅力的です。中世の代表的な原典『老人たちの語らい(アガラヴ・ナ・シェナラハ)』では、常若の国から戻って300年を生き延びた老オシーン(または同じく長命のキールタ)が、キリスト教を伝えに来た聖パトリックと出会い、語り合うという形で物語が進みます。

老いた異教の戦士オシーンが、過ぎ去った英雄たちの栄光――狩りの喜び、フィアナの誇り、惜しみない饗宴――を懐かしく語り、聖パトリックがそれを書き記させていく。古い異教の英雄世界と、新しいキリスト教世界とが向かい合うこの構図は、ケルトの神話が「滅びゆく古き良き時代への哀惜」とともに語り継がれたことを、よく物語っています。

そしてフィン自身については、死んだのではなく洞窟で眠っており、アイルランドが真に危機に陥ったとき、角笛の音とともに甦って国を救うという伝説も残されました。これは、ブリテンのアーサー王の「いつか帰還する王」伝説とよく似ており、ケルト世界に共通する「眠れる英雄」の主題を示しています。

もっと深く知りたい方へ

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まとめ

本記事では、アイルランドのフィアナ物語群を、原典に沿って詳しく解説しました。如何だったでしょうか。

知恵の鮭で全知を得た「フィン・マックール」、鹿となった妻サズヴ、常若の国から戻って老いた「オシーン」、そしてディルムッドとグラーニャの悲恋——神々の時代(記事①)とも英雄クー・フーリン(記事②)とも違う、騎士団と狩りと哀愁のケルト世界を味わっていただけたかと思います。

次回の記事④(最終回)では、ケルト神話のもう一つの宝庫、ウェールズの神話集『マビノギオン』を解説していきます。アーサー王伝説の源流が、そこにあります。

【ケルト神話の原典④】マビノギオン ― ウェールズ神話の四枝とアーサー王の源流を解説senkohome.com/myths-religions-origins-celtic-mabinogion/

これで、ケルト神話の原典シリーズ全3記事が完結しました。神々の戦いから英雄たちの冒険まで、ケルト神話の世界を堪能していただけたなら幸いです。

ケルト神話の原典の全体像や、他の神話・宗教の一覧は、以下のページを参照してください。

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。