当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、世界の神話・宗教の「原典(おおもとの書物)」を1巻ずつ解説していくシリーズの第1弾です。
各神話・宗教の物語が具体的にどの書物のどこに書かれているのか、そしてその中身がどのような流れで進んでいくのかを、原典の記述に沿って丁寧に追っていきます。
第1回として取り上げるのは、世界で最も多く読まれている書物であるキリスト教の「聖書」です。
なお、各神話・宗教に登場する神々や英雄の「強さ」については以前ランキング形式で紹介しているので、合わせて参考にしてみてください。
聖書66巻の全体構成
まず大前提として、キリスト教の原典である「聖書(バイブル)」は1冊の本ではなく、66巻もの書物を1つにまとめた文書の集大成です。
聖書は大きく「旧約聖書(39巻)」と「新約聖書(27巻)」に分かれ、それぞれがさらにいくつかの区分に分けられます。
その全体像を図にまとめると、以下のようになります。
この66巻すべてを1記事で扱うと膨大になるため、本シリーズでは以下の4記事に分けて解説します。
| 記事 | 区分 | 巻数 | 本記事 |
|---|---|---|---|
| 旧約① | 律法(モーセ五書) | 5巻 | 本記事 |
| 旧約② | 歴史書 | 12巻 | 次記事 |
| 旧約③ | 詩歌・知恵文学 + 預言書 | 22巻 | |
| 新約 | 福音書〜黙示録 | 27巻 |
そして本記事で解説するのは、旧約聖書の最初の区分である「律法(モーセ五書)」の5巻です。
それでは、聖書全体の土台となるこの5巻を1巻ずつ見ていきましょう。
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律法(モーセ五書)とは
旧約聖書の冒頭を飾る5巻は「モーセ五書」、ユダヤ教では「トーラー(律法)」と呼ばれ、聖書全体の最も重要な土台とされています。
伝統的に預言者モーセが記したとされ、内容は「世界の創造」から始まり、イスラエル民族が神と契約を結び、約束の地を目前にするところまでが、ほぼ時系列に沿って描かれます。
| 巻 | 巻名 | 章数 | 中心的な内容 |
|---|---|---|---|
| 第1巻 | 創世記 | 50章 | 世界と人類の創造、族長たちの物語 |
| 第2巻 | 出エジプト記 | 40章 | エジプト脱出、シナイ契約と十戒 |
| 第3巻 | レビ記 | 27章 | 礼拝・いけにえ・聖さに関する律法 |
| 第4巻 | 民数記 | 36章 | 荒野での40年の放浪 |
| 第5巻 | 申命記 | 34章 | モーセ最後の説教、律法の再確認 |
第1巻 創世記(そうせいき)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 章数 | 全50章 |
| 主な舞台 | メソポタミア 〜 カナン 〜 エジプト |
| 主な登場人物 | アダム、エバ、ノア、アブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフ |
| 中心テーマ | 世界・人類の起源と、イスラエル民族の父祖たちの歩み |
創世記は大きく「原初史(1〜11章)」と「族長史(12〜50章)」の2部に分かれます。前半は人類全体の物語、後半はイスラエル民族の父祖たちの物語です。
その流れを図にすると以下のようになります。
原初史(1〜11章)— 世界と人類のはじまり
物語は、あまりにも有名な天地創造の場面から始まります。
天地創造(1〜2章)
神は「光あれ」という言葉だけで光を生み出します。そして6日間で、1日目に光(昼と夜)、2日目に大空(天)、3日目に陸と海・植物、4日目に太陽・月・星、5日目に魚と鳥、6日目に地の動物と人間を造り、7日目に休まれました。この「7日目に休んだ」ことが、ユダヤ教・キリスト教の「安息日(あんそくび)」の起源とされています。
特に人間については「神のかたちに似せて造られた」と記されており、これが「人間は他の被造物と区別された特別な存在である」というキリスト教の人間観の根拠になっています。神は土の塵から最初の人間「アダム」を形づくり、その鼻に命の息を吹き込みました。そして、アダムが独りでいるのは良くないとして、彼のあばら骨から妻「エバ」を造り、2人を豊かな「エデンの園」に住まわせます。
失楽園(3章)
エデンの園で何不自由なく暮らしていたアダムとエバでしたが、神は園の中央にある「善悪の知識の木」の実だけは、決して食べてはならないと命じていました。
ところが、狡猾な蛇がエバに「それを食べても死なない。むしろ目が開け、神のようになれる」とささやきます。誘惑に負けたエバは実を食べ、アダムにも分け与えてしまいました。すると2人は初めて自分が裸であることを恥じ、神から身を隠します。
罪を問われたアダムはエバに、エバは蛇に責任を転嫁しました。神は、蛇には地を這う呪いを、女には産みの苦しみを、男には額に汗して糧を得る労苦を与え、ついに2人を楽園から追放します。こうして人間に労苦と死が入り込みました。これが、人間が生まれながらに罪を負っているとする「原罪」という、キリスト教の極めて重要な教えの出発点になります。
カインとアベル(4章)
アダムとエバの子が、兄「カイン」(農耕を営む)と弟「アベル」(羊を飼う)です。2人が神に捧げ物をした際、神はアベルの供え物には目を留めましたが、カインの供え物は顧みませんでした。
これを妬んだカインは、弟アベルを野に誘い出して殺害します。人類最初の殺人です。神が「弟はどこにいるのか」と問うと、カインは「知りません。私は弟の番人なのですか」と答えました。神はカインを放浪者となるよう罰しますが、彼が殺されないよう「カインのしるし」を付けたとされます。こうして世界には、急速に罪が広がっていきました。
ノアの洪水(6〜9章)
人類の悪が地に満ちたのを見て、神は人間を造ったことを後悔し、大洪水によって世界を一掃することを決意します。しかし、ただ一人「ノア」だけは神に従う正しい人でした。
神はノアに、巨大な「箱舟(はこぶね)」を造るよう命じます。ノアは家族と、すべての動物を雌雄ひとつがいずつ箱舟に乗せました。やがて40日40夜の雨が降り続き、水は地上のあらゆる生き物を滅ぼし尽くします。
水が引き始めると、ノアは鳩を放ちました。鳩がオリーブの葉をくわえて戻ってきたことで、水が引いたことを知ります。箱舟を出たノアに、神は「二度と洪水で全生物を滅ぼさない」という約束のしるしとして、空に「虹」をかけました。
バベルの塔(11章)
原初史の最後を飾るのが「バベルの塔」です。当時、人類はみな同じ一つの言葉を話していました。人々は「天まで届く塔のある町を建てて、自分たちの名を高めよう」と、傲慢な計画を進めます。
これを見た神は、人間の高慢を戒めるため、人々の言葉を互いに通じないように乱し、世界中に散らしました。これが、世界に多くの言語と民族が存在することの神話的な説明になっています。
族長史(12〜50章)— イスラエル民族の父祖たち
11章までで人類全体を描いた物語は、12章から一気に視点を絞り、ひとりの人物に焦点を当てます。それが「アブラハム」です。
アブラハムと神の契約(12〜25章)
神は、メソポタミアに住んでいたアブラハムに「生まれ故郷を離れ、わたしが示す地へ行きなさい。わたしはあなたを大いなる国民にする」と命じます。アブラハムはこれに従い、約束の地カナンを目指しました。ここに神とイスラエル民族との契約(アブラハム契約)が結ばれます。
高齢で子のなかったアブラハムに、神は夜空を見上げさせ「あなたの子孫を、この星の数のように増やす」と約束します。アブラハムがこれを信じたことが「義と認められた」とされ、これは後のキリスト教の「信仰によって救われる」という教えの原点となりました。
この頃、堕落した町「ソドムとゴモラ」が、天からの火と硫黄で滅ぼされる出来事も起こります。そして約束どおり、アブラハムが100歳のときに、待望の息子「イサク」が生まれました。
イサクの奉献(22章)
族長史で最も有名な場面が「イサクの奉献」です。神はアブラハムの信仰を試すため、「最愛の息子イサクを、いけにえとして捧げよ」という、あまりにも過酷な命令を下します。
アブラハムは苦悩しながらも従い、山の上で息子を縛り、まさに刃を振り上げたその瞬間、天使が現れて彼を止めました。「あなたが神を畏れていることがよく分かった」として、代わりに近くの茂みにいた雄羊が捧げられます。この物語は、神への絶対的な従順を示す逸話として知られています。
ヤコブ ― イスラエルの名の由来(25〜36章)
イサクの子が、双子の兄「エサウ」と弟「ヤコブ」です。ヤコブは、空腹の兄から「一杯の煮物」と引き換えに長子の権利を買い取り、さらに目の不自由な父イサクを欺いて、本来兄が受けるべき祝福を奪い取ってしまいます。
兄の怒りを恐れて旅に出たヤコブは、ある夜、「天に届く階段を天使が上り下りする夢」を見て神の祝福を受けます。長い年月を経て故郷へ戻る途中、ヤコブは何者か(神の使い)と夜通し格闘し、「イスラエル(神と闘う者)」という新しい名を与えられました。この名が、そのまま民族の名となります。
ヤコブには12人の息子がおり、これが後の「イスラエル12部族」の祖となりました。
ヨセフ ― 赦しと神の摂理(37〜50章)
創世記の最後を飾るのが、ヤコブの子「ヨセフ」の物語です。父に特別に愛されたヨセフは、「兄たちの束が自分の束にひれ伏す夢」を語ったことで兄たちの激しい妬みを買い、穴に投げ込まれた末に、エジプトへ奴隷として売られてしまいます。
エジプトで仕えた家では、無実の罪を着せられて投獄されますが、ヨセフは持ち前の「夢を解き明かす才能」を発揮します。やがてファラオ(エジプト王)の見た「7年の豊作と7年の飢饉」を予告する夢を解き明かしたことで、一気に国の宰相にまで取り立てられました。
予告どおり大飢饉が訪れると、食料を求めてエジプトへやって来たのは、かつて自分を売った兄たちでした。再会したヨセフは、彼らを赦してこう語ります。「あなたがたは私を売って悪をたくらんだが、神はそれを善に変えてくださった」この言葉は、人間の悪意さえも神は良い結果へ導くという「神の摂理」を象徴する一節です。
こうして一族はエジプトへ移り住み、創世記は幕を閉じます。この「イスラエル民族がエジプトにいる」という状況が、次の出エジプト記へとつながっていきます。
第2巻 出エジプト記(しゅつエジプトき)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 章数 | 全40章 |
| 主な舞台 | エジプト 〜 紅海 〜 シナイ山 |
| 主な登場人物 | モーセ、アロン、ファラオ(エジプト王) |
| 中心テーマ | 奴隷状態からの解放と、神との契約(律法)の授与 |
出エジプト記のテーマは、その名のとおりエジプトからの脱出(解放)です。物語は大きく「解放のドラマ」と「シナイ山での契約」の2段階で進みます。
解放のドラマ(1〜18章)
創世記の終わりでエジプトに移り住んだイスラエル民族は、その後数を増やしていきました。しかしそれを脅威に感じたエジプト王(ファラオ)は、彼らを奴隷として酷使し、ついには生まれた男児をすべて殺すよう命じます。
そんな中で生まれたのが「モーセ」です。彼はナイル川に流されたところをファラオの娘に拾われ、皮肉にもエジプトの王宮で育ちます。
成人したモーセは、同胞を虐げるエジプト人を殺してしまい、荒野へ逃亡します。その地で羊を飼っていたある日、彼は「燃えているのに燃え尽きない柴」の中から神に語りかけられます。
このときモーセが神に名を尋ねると、神は「私は在る(エフイェ・アシェル・エフイェ)」と答えました。ここから神の名「YHWH(ヤハウェ)」が生まれたとされ、聖書の中でも極めて重要な場面です。
神から民を救い出すよう命じられたモーセは、兄アロンとともにファラオへ解放を要求しますが、当然ながら拒否されます。そこで神は、エジプト全土に「十の災い」を下していきます。
| 順番 | 災い | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 血の災い | ナイル川の水がすべて血に変わる |
| 2 | 蛙の災い | 無数の蛙が国中にあふれる |
| 3 | ぶよの災い | 塵がぶよ(虫)となり人と家畜を襲う |
| 4 | あぶの災い | あぶの大群が押し寄せる |
| 5 | 疫病の災い | 家畜が疫病で死ぬ |
| 6 | 腫れ物の災い | 人と家畜の体に腫れ物ができる |
| 7 | 雹の災い | 火を伴う雹が農作物を打つ |
| 8 | いなごの災い | いなごの大群が残りの作物を食い尽くす |
| 9 | 暗闇の災い | 三日間、国中が暗闇に包まれる |
| 10 | 初子の死 | エジプト中のすべての初子(長子)が死ぬ |
最後の「初子の死」の際、イスラエルの民は子羊の血を家の戸口に塗ることで、死をもたらす存在に「過ぎ越して」もらいました。これがユダヤ教最大の祭の一つ「過越(すぎこし)」の起源です。
この災いに屈したファラオはついに民の解放を認めます。しかし直後に心変わりして軍を差し向け、民を追いつめます。逃げ場を失ったそのとき、モーセが手を差し伸べると海が真っ二つに割れ、民は海の中の乾いた道を渡りきりました。追ってきたエジプト軍は、元に戻った海に呑み込まれて滅びます(「紅海の奇跡」)。
シナイ山での契約(19〜40章)
エジプトを脱出した民は、荒野でマナ(天から降る食物)やうずら、岩から湧き出る水によって養われながらシナイ山に到着します。
ここで物語の中心となる出来事が起こります。モーセが山に登り、神から直接「十戒」をはじめとする律法を授かるのです。これによってイスラエルは、単なる民族ではなく「神と契約を結んだ神の民」となりました。
十戒の内容は以下のとおりで、前半が神に対する戒め、後半が人間社会の倫理となっています。
| # | 十戒の内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 1 | わたしのほかに神があってはならない | 神への戒め |
| 2 | 偶像を造ってはならない | 神への戒め |
| 3 | 神の名をみだりに唱えてはならない | 神への戒め |
| 4 | 安息日を覚えて、これを聖とせよ | 神への戒め |
| 5 | あなたの父母を敬え | 人への戒め |
| 6 | 殺してはならない | 人への戒め |
| 7 | 姦淫してはならない | 人への戒め |
| 8 | 盗んではならない | 人への戒め |
| 9 | 隣人について偽証してはならない | 人への戒め |
| 10 | 隣人のものを欲してはならない | 人への戒め |
ところが、モーセが山にこもっている間、しびれを切らした民は「金の子牛」の像を造って拝んでしまいます。これは結ばれたばかりの契約への重大な裏切りであり、山を下りたモーセは怒って十戒の石板を砕いてしまいました。
出エジプト記の後半では、神を礼拝するための移動式の聖所「幕屋(まくや)」の設計と建設が詳しく語られます。そして完成した幕屋に神の栄光が満ち、神が民とともに歩むという形で物語は締めくくられます。
第3巻 レビ記(レビき)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 章数 | 全27章 |
| 主な舞台 | シナイ山のふもと(幕屋) |
| 主な登場人物 | モーセ、アロンとその子ら(祭司) |
| 中心テーマ | 神に近づくための礼拝と、聖く生きるための掟 |
レビ記は、モーセ五書の中では物語的な要素がほとんどなく、礼拝と生活に関する細かな掟(おきて)が中心となる、いわば「規定集」です。
巻名は、祭司を務める一族「レビ族」に由来します。
前半の山場は「いけにえ」に関する規定です。神に動物や穀物を捧げる方法が、目的別に5種類定められています。
| いけにえ | 目的 |
|---|---|
| 燔祭(はんさい) | 動物を丸ごと焼いて神に捧げる、全面的な献身の表明 |
| 素祭(そさい) | 穀物を捧げる供え物 |
| 酬恩祭(しゅうおんさい) | 神との交わりと感謝を表す |
| 罪祭(ざいさい) | 過ちによって犯した罪の赦しを願う |
| 愆祭(けんさい) | 他者への損害を償うための賠償のいけにえ |
中でも最も重要なのが、年に一度「贖罪の日(ヨム・キプル)」に行われる儀式です。この日、大祭司は民全体の罪を背負わせた山羊を荒野へ追いやり、共同体全体の罪を清めます。ここから「身代わりに罪を負う」という、後のキリスト教の贖罪思想につながる考え方が生まれます。
また、食べてよい動物といけない動物を分ける食物規定や、年間の祭り(過越、七週の祭り、仮庵の祭りなど)の定めもここに記されています。
レビ記全体を貫くテーマは、神の「あなたがたは聖なる者となりなさい。あなたがたの神であるわたしが聖なる者だからである」という呼びかけです。
さらに「自分自身を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい」という一節もこの巻にあり、これは後にイエスが律法の中心として引用する、極めて重要な教えとなっています。
第4巻 民数記(みんすうき)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 章数 | 全36章 |
| 主な舞台 | シナイの荒野 〜 モアブの平野 |
| 主な登場人物 | モーセ、アロン、ヨシュア、カレブ、預言者バラム |
| 中心テーマ | 不信仰によって40年に及んだ荒野の放浪 |
巻名は、物語の冒頭と末尾で2度にわたって民の人口調査(数を数えること)が行われることに由来します。戦える成人男子だけで約60万人という規模でした。
シナイ山を出発した民は、いよいよ約束の地カナンを目指します。しかし、この旅路は不平と反逆の連続でした。
民は食料や水のことで何度も神とモーセに不平をこぼします。決定的だったのは、カナンの地へ送られた12人の偵察隊のうち10人が「あの土地の住民は強大で、とても勝てない」と弱気な報告をしたことでした。
これを聞いた民は約束の地に入ることを恐れ、神に逆らってしまいます。ヨシュアとカレブの2人だけは「神が共におられるのだから必ず勝てる」と訴えましたが、聞き入れられませんでした。
民の不信仰に対し、神は「この世代の大人は誰一人として約束の地に入れない」と宣告します。こうしてイスラエル民族は、不信仰の世代が世を去るまで、40年もの間荒野をさまようことになりました。
その途上では、印象的な事件が次々と起こります。
- モーセの権威に挑んだコラたちが、地に呑み込まれて滅ぼされる「コラの反逆」
- 民を罰するために神が遣わした毒蛇と、それを仰ぎ見れば癒やされた「青銅の蛇」
- イスラエルを呪うよう依頼された預言者バラムが、逆に祝福の言葉しか口にできなくなり、その途中で「ロバが人語を話す」という逸話
民数記は、約束の地を目前にしたモアブの平野で、不信仰な古い世代が去り、新しい世代が育ったことを示す2度目の人口調査をもって締めくくられます。
第5巻 申命記(しんめいき)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 章数 | 全34章 |
| 主な舞台 | モアブの平野(約束の地カナンの手前) |
| 主な登場人物 | モーセ、ヨシュア |
| 中心テーマ | モーセ最後の説教による、律法と契約の再確認 |
モーセ五書を締めくくる申命記は、約束の地を目前にしたモアブの平野が舞台です。
内容のほとんどは、指導者モーセが死を前にして民に語った「いわば遺言ともいえる3つの説教」で構成されています。
| 説教 | 章 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1の説教 | 1〜4章 | エジプト脱出から現在までの40年を回顧する |
| 第2の説教 | 5〜26章 | 十戒を改めて示し、律法を語り直す(中心部分) |
| 第3の説教 | 27〜30章 | 律法を守れば祝福、破れば呪いがあると説く |
モーセは、新しい世代の民に対して、過去の出来事を振り返りながら十戒をはじめとする律法をもう一度語り直します。
特に有名なのが「聞け、イスラエルよ(シェマ)」という言葉で始まる一節です。
聞け、イスラエルよ。わたしたちの神、主は唯一の主である。あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。
この言葉は、唯一神への信仰と愛を端的に示すものとして、現代に至るまでユダヤ教・キリスト教の信仰の核心とされています。
説教を終えたモーセは、後継者として「ヨシュア」を指名し、民を約束の地へ導く役割を託します。
そして物語は、静かな最期を迎えます。モーセはネボ山に登り、約束の地を遠くから眺めるだけで、自らはそこに足を踏み入れることなく120歳で生涯を終えました。
こうして律法(モーセ五書)は幕を閉じ、物語の舞台は、いよいよ約束の地カナンへの侵入を描く次の「歴史書」へと引き継がれていきます。
モーセ五書を貫く一本の糸 ―「契約」
5つの書を読み終えて振り返ると、ばらばらの物語に見えたものが、実は一つの大きな筋でつながっていることが見えてきます。それが「契約(ベリート)」です。
天地創造と人間の堕落(創世記前半)から始まった物語は、神が一人の人間アブラハムを選び、「あなたの子孫を大いなる民とし、約束の地を与える」と契約を結ぶところで、大きく動き出します(創世記後半)。その子孫がエジプトで奴隷となり、モーセに率いられて脱出し(出エジプト記)、シナイ山で「あなたがたはわたしの民となり、わたしはあなたがたの神となる」という民族全体の契約を結びます。そして、その契約に生きる民がどう歩むべきかを定めたのが、レビ記・民数記・申命記の律法でした。
| 五書 | 契約の物語における役割 |
|---|---|
| 創世記 | 創造と堕落、そしてアブラハムへの約束の始まり |
| 出エジプト記 | 奴隷からの解放と、シナイ契約・十戒 |
| レビ記 | 契約の民が聖く生きるための規定 |
| 民数記 | 約束の地を目指す、荒野40年の旅 |
| 申命記 | 契約の更新と、モーセの遺言 |
「神が人間を選び、約束し、導き、契約を結ぶ」――この一連の流れこそ、モーセ五書全体の背骨であり、続く歴史書・預言書、さらには新約聖書(イエスによる「新しい契約」)へと貫かれていく、聖書全体の根本主題なのです。
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まとめ
本記事では、キリスト教の原典である聖書66巻のうち、旧約聖書の最初の区分「律法(モーセ五書)」5巻を1巻ずつ解説しました。如何だったでしょうか。
天地創造に始まり、アダムとエバ、ノア、アブラハムからヨセフへと続く創世記、モーセによるエジプト脱出と十戒を描く出エジプト記、そして礼拝の掟(レビ記)、荒野の放浪(民数記)、モーセ最後の説教(申命記)――この5巻は、世界の創造から、イスラエル民族が神と契約を結び、約束の地を目前にするまでを描く、聖書全体の土台でした。
特に、「神との契約」と「それに対する人間の忠実さと背信」という、聖書全体を貫くテーマが、すでにこの律法の中に現れていることがおわかりいただけたかと思います。
次回の記事では、約束の地カナンに入ったイスラエル民族の、栄光と滅亡、そして再建の約700年を描く「歴史書」(ヨシュア記〜エステル記)の12巻を解説していきます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:キリスト教の原典(聖書66巻)解説(2/5)