当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、ギリシア神話の原典を解説するシリーズの第1弾です。
今回は、ギリシア神話の「創世神話」にあたる、ヘシオドスの2つの作品『神統記』と『仕事と日』を取り上げ、世界と神々がどのように生まれたのかを詳しく見ていきます。
ギリシア神話の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。
ヘシオドス『神統記(テオゴニア)』とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 著者 | ヘシオドス(前700年頃の詩人) |
| 主な内容 | 世界の始まりと、神々の誕生・系譜・支配権の移行 |
| 重要な点 | ギリシア神話の「創世神話」にあたる最重要原典 |
『神統記』は、約1000行の詩によって世界がどのように生まれ、神々がどのように誕生し、3度の世代交代を経てゼウスの支配が確立したかを歌った、ギリシア神話の根幹をなす原典です。
その壮大な系譜の流れは、以下のようになります。
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世界の始まり ― カオスからの誕生
物語は、何よりも先に「カオス(混沌)」が生じるところから始まります。これは「無秩序」というより、「ぽっかりと口を開けた空虚」を意味するとされています。
カオスに続いて、胸の広い大地の女神「ガイア」、奈落の底「タルタロス」、そして最も美しく神々の心を支配する愛「エロス」が生まれます。さらにカオスからは闇「エレボス」と夜「ニュクス」が、そしてその夜からは光「アイテル」と昼「ヘメラ」が生まれました。
このように『神統記』は、抽象的な概念そのものが神として次々と生まれていくことで、世界が形作られていく様子を描きます。なお夜の女神ニュクスからは、死「タナトス」や眠り「ヒュプノス」、運命の三女神「モイライ」など、人間の宿命に関わる神々も生まれています。
第1世代 ― ウラノスとガイアの子供たち
ガイアはまず、自分と同じ大きさを持つ天空の神「ウラノス」を単独で生み出し、これを自らの夫とします。さらに山々(ウーレア)や海(ポントス)も生み出しました。
ガイアとウラノスの間からは、世界を支配する第1世代の神々が誕生します。
| 種族 | 内容 |
|---|---|
| 12人のティタン神族 | オケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペトス、テイア、レイア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、テテュス、そして末子クロノス |
| 3人のキュクロプス | 額に一つ目を持つ巨人。鍛冶に長け、後にゼウスへ「雷霆(らいてい)」を与える |
| 3人のヘカトンケイル | 50の頭と100の腕を持つ、凄まじい怪力の巨人 |
ティタン神族の中には、後の神話で重要な役割を果たす神が多くいます。たとえば「イアペトス」はプロメテウスやアトラスの父であり、「ムネモシュネ(記憶)」は後にゼウスとの間に芸術を司る9人のムーサ(ミューズ)を生みます。
ところがウラノスは、わが子であるこれらの神々を醜く恐ろしいものとして嫌い、生まれてくるそばから母ガイアの胎内(大地の奥)に押し込めてしまいます。
第2世代 ― クロノスの反逆と支配
子供たちを閉じ込められて苦しんだガイアは、巨大な鎌(アダマスの鎌)を作り、子供たちに父への反逆を呼びかけます。しかし恐ろしいウラノスに立ち向かう勇気を持てたのは、末子で最も大胆なティタン「クロノス」だけでした。
クロノスは、夜にガイアのもとへやってきた父ウラノスを待ち伏せし、鎌で父を去勢してその支配権を奪い取ります。
このとき切り落とされた部分が海に落ち、その泡(アフロス)から美の女神「アフロディテ」が誕生したとされています。また、地に流れ落ちた血からは、復讐の女神「エリニュス」や、巨人ギガスたちが生まれました。
こうして世界の王となったクロノスは、姉妹のティタン神「レイア」を妻とし、ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドン、ゼウスという6人の子をもうけます。これが後の「オリュンポスの神々」の中心となります。
しかしクロノスは、両親であるガイアとウラノスから「お前もまた、自分の子に倒されるだろう」という予言を聞かされていました。これを恐れたクロノスは、妻レイアが子を産むたびに、生まれた赤子を片端から呑み込んでしまいます。
我が子を次々と失ったレイアは深く嘆き、末子ゼウスを産むときに一計を案じます。赤子の代わりに「産着でくるんだ石」をクロノスに呑ませ、本物のゼウスはクレタ島の洞窟に隠して、ニンフや精霊たちに育てさせたのです。
第3世代 ― ゼウスの勝利「ティタノマキア」
成長したゼウスは、まず(祖母ガイアや知恵の女神メティスの助けで)父クロノスに薬を飲ませ、呑み込んでいた兄弟たちを、最後に呑んだものから順に吐き出させます。最初に呑まれた身代わりの石も吐き出され、後にこの石は聖地デルフォイに祀られました。
こうして救い出された兄弟たちと力を合わせ、ゼウスはクロノス率いるティタン神族との全面戦争に突入します。これが10年に及ぶ大戦争「ティタノマキア」です。
戦いはなかなか決着がつきませんでしたが、ゼウスは、かつてウラノスやクロノスによって地下に閉じ込められていた「キュクロプス」と「ヘカトンケイル」を解放して味方につけます。
解放の礼として、鍛冶に長けたキュクロプスは3兄弟にそれぞれ強力な武器を授けました。
| 神 | 授かった武器 |
|---|---|
| ゼウス | 雷霆(かみなり) |
| ポセイドン | 三叉の銛(トリアイナ) |
| ハデス | 姿を消す隠れ兜 |
そして100本の腕で一度に300の岩を投げつけるヘカトンケイルの猛攻もあり、ゼウス側はついにティタン神族を打ち破ります。敗れたティタンたちは、奈落の底「タルタロス」に幽閉され、ヘカトンケイルがその番人となりました。
しかし、これで終わりではありませんでした。ティタンの敗北に怒った大地の女神ガイアが、最後の切り札として、奈落タルタロスとの間に史上最強の怪物「テュフォン」を生み出します。
100の竜の頭を持ち、口から炎を吐くこの巨大な怪物との壮絶な戦いにもゼウスは雷霆で勝利し、テュフォンをタルタロス(一説には火山エトナの下)に封じ込めました。こうしてゼウスは、名実ともに全世界の支配者となったのです。
オリュンポス十二神 ― 新しい世界の支配者たち
ゼウスを頂点とする新しい神々は、天にそびえる「オリュンポス山」を住まいとしたことから「オリュンポスの神々」と呼ばれます。その中心となる主要な12柱は「オリュンポス十二神」と総称されます。
| 神(ギリシア名) | 司るもの |
|---|---|
| ゼウス | 全神々の王。天空・雷・秩序を司る |
| ヘラ | ゼウスの妻。結婚と家庭の女神 |
| ポセイドン | 海・地震・馬を司る、ゼウスの兄 |
| デメテル | 大地の実り・穀物・農耕の女神 |
| アテナ | 知恵・戦略・工芸の女神。ゼウスの頭から生まれた |
| アポロン | 太陽・音楽・予言・医術の神 |
| アルテミス | 月・狩猟・純潔の女神。アポロンの双子の姉妹 |
| アレス | 戦争(戦いの狂乱)を司る神 |
| アフロディテ | 愛と美の女神 |
| ヘファイストス | 鍛冶と炎・職人の神 |
| ヘルメス | 旅・商業・伝令を司り、神々の使者を務める |
| ディオニュソス | 酒と豊穣、演劇を司る神 |
これらの神々の多くは、ゼウスの数多くの恋愛から生まれた子供たちです。
たとえば、知恵の女神「アテナ」は、ゼウスが最初の妻メティスを呑み込んだ後、その頭を割って完全武装した姿で飛び出したとされます。「アポロンとアルテミス」はゼウスと女神レトの双子、伝令神「ヘルメス」はマイアとの子、酒神「ディオニュソス」は人間の女セメレとの子です。
こうしたゼウスの恋愛遍歴と、それに嫉妬する正妻ヘラの物語は、ギリシア神話の数多くのエピソードの源泉となっています。
『神統記』が描く、もう一つの系譜 ― 夜と海の神々
『神統記』は、オリュンポス十二神だけを語る詩ではありません。その大半は、「どの神から、どの神が生まれたか」を延々と歌い継ぐ、壮大な家系図(カタログ)です。ここには、後の神話に欠かせない神々や怪物が、続々と登場します。
まず、夜の女神「ニュクス」からは、夫を持たずに、人間の運命を左右する暗い神々が次々と生まれました。
| ニュクスの子ら | 司るもの |
|---|---|
| モロス/ケール | 定められた死・破滅 |
| ヒュプノス/タナトス | 眠り・死 |
| モイライ(三女神) | 運命の糸を紡ぎ、測り、断ち切る |
| ネメシス | 神々の怒り・応報 |
| エリス | 争い・不和 |
一方、ガイアが単独で生んだ海「ポントス」の子孫からは、海の神々と、数々の怪物の系譜が広がります。「海の老人」ネレウスとその50人の娘ネレイデス(英雄アキレウスの母テティスもその一人)、そして恐ろしい女神ケトからは、見る者を石に変えるゴルゴン三姉妹(メドゥサら)や、一つ目を分け合う老女グライアイが生まれました。さらに上半身は美女・下半身は蛇という怪物エキドナと、テュフォンとの間からは、冥界の番犬ケルベロス、九つ首のヒュドラ、キマイラといった、後に英雄たちが立ち向かう怪物たちが、次々と生み出されていきます。
また、大洋の神オケアノスと姉妹テテュスからは、世界中の三千の河川と、三千のオケアニデス(水の妖精)が生まれたとされ、世界が無数の神格で満たされていく様子が描かれます。『神統記』の中ほどには、ゼウスがとりわけ重んじた女神「ヘカテ」を、天・地・海のすべてに力を及ぼす存在として長々と讃える一節(ヘカテ讃歌)も置かれており、ヘシオドスがどの神を特別に敬っていたかまでうかがい知ることができます。
ヘシオドス『仕事と日(しごととひ)』とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 著者 | ヘシオドス |
| 主な内容 | 人類の歴史(五時代)と、勤労・正義の教訓 |
| 重要な点 | プロメテウスとパンドラの神話が語られる原典 |
もう一つのヘシオドスの作品『仕事と日』は、神々ではなく人間がどう生きるべきかに焦点を当てた教訓詩です。ヘシオドスが、遺産をめぐって争った怠け者の弟ペルセスを諭す、という形式で書かれています。
詩はまず、「不和(エリス)には、じつは二種類ある」という洞察から始まります。一つは戦争や争いを生む悪い不和。もう一つは、隣人の豊かさを見て「自分も負けまい」と勤勉に励ませる、善い不和(健全な競争心)です。ヘシオドスは、この善い不和こそ人を働かせ、世を栄えさせると説き、怠けて他人の財をあてにする弟を戒めます。神話の説明から日々の倫理へと話を進めるこの導入は、『仕事と日』が単なる物語集ではなく、古代ギリシアの「生き方の教科書」であったことをよく示しています。
プロメテウスとパンドラ ― 人類の苦難の起源
なぜ人間は、苦労して働かなければ生きていけないのか。その理由として語られるのが、有名な「プロメテウス」と「パンドラ」の神話です。
知恵者の神プロメテウスは、人類をひいきにしていました。彼はまず、神々と人間が初めて「いけにえの分け前」を取り決めたメーコーネーという地で、ゼウスをはかります。屠った牛を二つに分け、一方はうまそうな脂で包んだ、中身は骨だけの山、もう一方は見栄えの悪い胃袋で包んだ、中身は上等な肉の山とし、ゼウスに選ばせたのです。脂につられたゼウスは骨の山を取ってしまいました。これ以後、人間は神への供犠で骨と脂を焼いて捧げ、肉は自分たちで食べるようになった――と、この神話は現実の祭儀の由来を説明しています。
これに気づいて怒ったゼウスが、人間から火を取り上げると、今度はプロメテウスが天界の火を盗み出し、茴香(ういきょう)の茎に隠して人間に与えてしまいます。
激怒したゼウスは、2つの罰を下します。1つは、プロメテウス自身を岩山に鎖でつなぎ、日中は鷲に肝臓をついばまれ、夜になると再生するという終わりのない責め苦を与えたことです(後にこの責め苦は、英雄ヘラクレスによって終わらされます)。
もう1つが、人類への罰です。ゼウスは神々に命じて、最初の女性「パンドラ」を作らせました。彼女は美しさや魅力を与えられる一方で、好奇心や偽りの性質も埋め込まれていました。
パンドラは、決して開けてはならない「壺(一般に“パンドラの箱”と呼ばれる)」を持たされて地上へ送られます。やがて好奇心に負けた彼女がその蓋を開けてしまうと、病・苦労・悲しみ・争いといった、あらゆる災いが世界中に飛び出してしまいました。慌てて蓋を閉じたとき、中に残っていたのは「希望(エルピス)」だけだったとされています。
これ以後、人間は災いに満ちた世界で、額に汗して働かなければ生きられなくなった、と説かれます。
人類の五時代
ヘシオドスはまた、人類の歴史を5つの時代に分け、時代を追うごとに堕落していくと説きます。
| 時代 | 特徴 |
|---|---|
| 黄金の種族 | クロノスの治世。苦労も老いもなく、神々のように暮らした理想の時代 |
| 銀の種族 | 愚かで神々を敬わず、ゼウスによって滅ぼされる |
| 青銅の種族 | 武器と戦いを好み、互いに殺し合って自滅する荒々しい時代 |
| 英雄の種族 | テーバイ攻めやトロイア戦争で戦った、半神の英雄たちの高貴な時代 |
| 鉄の種族 | 労苦・不正・争いに満ちた、ヘシオドス自身が生きる「現在」の時代 |
興味深いのは、本来なら「青銅 → 鉄」とだんだん悪くなるはずの流れに、「英雄の種族」という例外的に高貴な時代が差し挟まれている点です。これは、ヘシオドスの時代の人々が、トロイア戦争などで活躍した英雄たちを特別な存在として敬っていたことを反映しています。
そのうえでヘシオドスは、弟ペルセスに対して「不正(ヒュブリス)ではなく正義(ディケ)に従い、まじめに働くことこそが繁栄への道だ」と繰り返し説きます。
後半では、いつ種をまき、いつ収穫するかといった農作業の暦や、航海に適した時期、さらには日常生活の細かな禁忌まで具体的に語られており、当時の農民の暮らしを知る貴重な原典にもなっています。
登場キャラクターの強さは? ― 最強ランキング
本記事に登場した神々・英雄は、「神話・宗教・伝説 最強ランキング」でも強さ順に紹介しています。原典での活躍と、その「強さ」をあわせてお楽しみください。
クロノス(11位)・ゼウス(13位)・テュポーン(14位)・ポセイドン(30位)・ヘカトンケイル(41位)・モイライ(49位)・ハデス(52位)・アポロン(67位)・ヘパイストス(69位)・ヘルメス(71位)・アレス(84位)
もっと深く知りたい方へ
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まとめ
本記事では、ギリシア神話の創世神話として、ヘシオドス『神統記』と『仕事と日』を詳しく解説しました。如何だったでしょうか。
『神統記』では、カオスから始まり、ウラノス → クロノス → ゼウスという3度の世代交代を経て、ようやくオリュンポス十二神による安定した秩序が確立するという、ギリシア神話全体の土台となる物語が描かれていました。
そして『仕事と日』では、プロメテウスの火とパンドラ、人類の五時代を通して、人間の苦難の起源と、正しく勤勉に生きることの大切さが説かれていました。
次回の記事②では、こうして整った神々の世界を舞台に繰り広げられる、ホメロスの英雄叙事詩『イリアス』、すなわち「トロイア戦争」の物語を解説していきます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:ギリシア神話の原典解説(2/5)