神話・宗教・伝説

【インド神話の原典⑦】ラーマーヤナ ― 全7巻でたどる王子ラーマの物語

【インド神話の原典⑦】ラーマーヤナ ― 全7巻でたどる王子ラーマの物語

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、インド神話・ヒンドゥー教の原典を解説するシリーズの第7弾(最終回)です。

最終回となる今回は、マハーバーラタと並ぶもう一つの大叙事詩「ラーマーヤナ」を取り上げます。理想の王子ラーマが、さらわれた妃を救い出す――善が悪に打ち勝つ、一本の筋の通った英雄譚を、原典の全7巻(カーンダ)の構成に沿ってたどっていきます。

インド神話・ヒンドゥー教の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。

【神話・宗教の原典解説】インド神話・ヒンドゥー教の原典まとめ ― ヴェーダから二大叙事詩までsenkohome.com/myths-religions-origins-indian/

ラーマーヤナとはどんな原典か

項目内容
意味「ラーマが歩んだ道(ラーマの物語)」
作者詩人ヴァールミーキ(「最初の詩人」とされる)
構成全7巻(カーンダ)、約2万4000詩節
主人公王子ラーマ(維持神ヴィシュヌの7番目の化身)

『ラーマーヤナ』は、コーサラ国の王子「ラーマ」を主人公とする叙事詩で、詩人「ヴァールミーキ」の作とされます。彼は「最初の詩人(アーディ・カヴィ)」と称えられ、ラーマーヤナはインド文学の出発点に位置づけられています。

マハーバーラタが複雑な群像劇であるのに対し、ラーマーヤナは「理想の王ラーマが、さらわれた妃を救い出す」という、明快な勧善懲悪の物語です。ラーマは「理想の人間・理想の王」、妃シーターは「理想の女性」、弟ラクシュマナは「理想の兄弟」として、インドの人々の生き方の模範とされ、絶大な人気を誇ってきました。

物語は、以下の7つの巻(カーンダ)で構成されています。本記事では、この巻立てに沿って解説します。

ラーマーヤナ 全7巻(カーンダ)の構成 ① 幼年の巻 ― 誕生と結婚 ② アヨーディヤーの巻 ― 追放 ③ 森林の巻 ― シーター誘拐 ④ 猿の王国の巻 ― 同盟 ⑤ 美しの巻 ― ハヌマーン ⑥ 戦いの巻 ― 決戦と帰還 ⑦ 後の巻 ― 後日譚 ※ 第1巻と第7巻は後世の付加とも言われるが、全体で一つの物語をなす

インド神話物語 マハーバーラタ 上インド神話物語 マハーバーラタ 上Amazonで見る → いちばんわかりやすい インド神話いちばんわかりやすい インド神話Amazonで見る →

第1巻 幼年の巻(バーラ・カーンダ)― 誕生と結婚

物語は、コーサラ国の都アヨーディヤーから始まります。老いたダシャラタ王には世継ぎがなく、祭祀によってようやく4人の王子を授かりました。長男が「ラーマ」、そしてバラタラクシュマナら異母兄弟です。

実はこの誕生には、天界の事情がありました。羅刹(ラークシャサ)の王ラーヴァナが、苦行によって「神にも魔にも殺されない」という恩恵を得て、世界を脅かしていたのです。神々の願いを受けた維持神ヴィシュヌが、ラーヴァナを倒すために、あえて人間の王子ラーマとして地上に生まれた――これがラーマの正体です(ヴィシュヌの7番目の化身。記事④参照)。

成長したラーマは、賢者ヴィシュヴァーミトラに伴われ、修行の妨げとなる羅刹を退治するなど、早くから武勇を示します。そして隣国ミティラーで、誰も持ち上げられなかったシヴァ神の巨大な弓を、ラーマがやすやすと引いて折ってみせたことで、王女「シーター」を妃に迎えました。シーターは、大地から生まれたとされる、徳高く美しい女性です。

第2巻 アヨーディヤーの巻(アヨーディヤー・カーンダ)― 追放

物語が暗転するのが、この第2巻です。

年老いたダシャラタ王は、人徳あふれるラーマを次の王にしようと、立太子(王位継承)を決めます。国中が喜びに沸きました。ところが、その直前に悲劇が起こります。

王の側妃「カイケーイー」が、邪悪な侍女「マンタラー」にそそのかされ、かつて王から授かっていた「2つの願い」を持ち出したのです。彼女が要求したのは、「我が子バラタを王に、ラーマを14年間国外へ追放せよ」という、あまりに非情なものでした。

王に二言はありません。父王の苦しい立場を察したラーマは、王位への執着を一切見せず、父の約束(言葉の重み)を守るため、自ら進んで森での追放生活を受け入れます。妃シーターと、忠実な弟ラクシュマナも、ラーマに付き従って森へ入りました。

息子を失った悲しみのあまり、父王ダシャラタはほどなく世を去ります。事情を知らずに帰国した弟バラタは、母カイケーイーの企みに激怒し、森のラーマに王位を継ぐよう懇願しました。しかしラーマは父の言葉を守って固辞します。そこでバラタは、ラーマの「サンダル(履物)」を玉座に据え、ラーマの代理として国を治めたとされます。王位を譲り合うこの兄弟の姿は、ラーマーヤナが「理想の物語」とされる理由の一つです。

第3巻 森林の巻(アラニヤ・カーンダ)― シーター誘拐

森での平穏な暮らしの中で、運命を変える事件が起こります。

ある日、羅刹の王「ラーヴァナ」の妹「シュールパナカー」が森を訪れ、ラーマに一目惚れして言い寄ります。拒まれて逆上した彼女が暴れたため、弟ラクシュマナによって鼻と耳を削がれてしまいました。

辱められた妹の復讐と、シーターの美しさへの横恋慕から、10の頭と20の腕を持つ強大な魔王ラーヴァナが、シーターの略奪を企てます。彼は配下の魔物「マーリーチャ」を美しい黄金の鹿に化けさせました。シーターがその鹿を欲しがり、ラーマが捕らえに向かいます。続いて、ラーマの声をまねた偽の助けを求める声に、弟ラクシュマナも引き離されました。

その隙に、ラーヴァナはシーターをさらい、空飛ぶ戦車でランカ島(現在のスリランカとされる)へ連れ去ってしまいます。このとき、聖なる禿鷲「ジャターユ」が身を挺してシーターを救おうとラーヴァナに挑みますが、翼を斬られて落命し、駆けつけたラーマに事の次第を伝えて息絶えました。最愛の妃を奪われたラーマは、弟とともに、シーターを救う長い旅に出ます。

第4巻 猿の王国の巻(キシュキンダー・カーンダ)― 同盟

シーターを探すラーマは、旅の途上で猿の王国と運命的な同盟を結びます。

ラーマは、兄に王位と妻を奪われていた猿の王子「スグリーヴァ」を助け、その兄「ヴァーリン」を倒して、スグリーヴァを王位に就けました。その見返りに、スグリーヴァは猿の大軍をラーマに貸すことを約束します。

この猿の軍勢の中で、ラーマーヤナ全体で絶大な人気を誇るのが、猿の英雄「ハヌマーン」です。彼は風の神の子で、空を飛び、自在に体を巨大化・縮小できる超人的な力と、ラーマへの絶対的な忠誠心を併せ持ちます。猿たちは四方に散り、シーターの行方を捜索しました。

第5巻 美しの巻(スンダラ・カーンダ)― ハヌマーンの活躍

第5巻は、ハヌマーンが主役となる、ラーマーヤナで最も愛される巻の一つです。

シーターがランカ島にいるとの手がかりを得たハヌマーンは、広大な海を一跳びで飛び越え、単身ランカ島へ潜入します。そして、ラーヴァナの宮殿の庭園に幽閉され、毅然と魔王を拒み続けるシーターを発見しました。ハヌマーンは、彼女にラーマの指輪を手渡して救援が近いことを伝え、勇気づけます。

その帰り際、ハヌマーンはわざと捕らえられ、ラーヴァナの前に引き出されます。罰として尾に火をつけられると、彼はその火を使ってランカの都を次々と焼き払い、悠々と海を渡って戻りました。この痛快な働きによって、ラーマ軍は反撃の足がかりを得たのです。

第6巻 戦いの巻(ユッダ・カーンダ)― 決戦とラーヴァナ討伐

シーターの居場所を突き止めたラーマは、猿の大軍を率いてランカ島へ攻め込みます。海を渡るため、猿たちは巨大な石を海に積んで橋を架けました(この「ラーマの橋」は実在の地形と結びつけて語られます)。

このとき、ラーヴァナの弟でありながら兄の悪行を諫め、追放されてラーマ側についた「ヴィビーシャナ」が、羅刹軍の弱点をラーマに伝えて大きく貢献します。ランカ島での戦いは熾烈を極めました。

  • クンバカルナ:ラーヴァナの弟。山のような巨体を持つが、呪いで1年の大半を眠って過ごす。戦いのために叩き起こされ、猿たちを次々と呑み込む暴れぶりを見せる
  • インドラジット:ラーヴァナの息子。雷神インドラをも破った魔術の使い手で、姿を消して矢を放ち、ラーマとラクシュマナを幾度も窮地に追い込む

戦いの最中、弟ラクシュマナが致命傷を負って倒れます。これを救ったのがハヌマーンでした。彼は治療に必要な薬草を求めてヒマラヤまで飛び、どれが薬草か分からないと見るや、薬草の生える山ごと丸ごと持ち上げて運んできたという、有名な逸話を残します。この薬草(サンジーヴァニー)でラクシュマナは一命を取り留めました。

そしてついにラーマは、神々から授かった武器をもって、10の頭を持つ魔王ラーヴァナを討ち取りました。こうしてシーターは救出されます。

ところが物語は、単純な大団円では終わりません。長く魔王のもとにいたシーターの貞節が疑われたため、彼女は身の潔白を証明しようと、自ら「火の中に入る試練(火神アグニによる審判)」を受けます。炎はシーターを傷つけず、その清らかさが証明されました。14年の追放期間を終えたラーマは、シーターとともに故郷アヨーディヤーへ凱旋し、人々の歓喜の中で王として即位します。ラーマが治めた平和で正義に満ちた時代「ラーマ・ラージヤ(ラーマの統治)」は、今もインドで「理想の世の中」の代名詞となっています。

第7巻 後の巻(ウッタラ・カーンダ)― 後日譚

最終巻は、後世の付加とも言われますが、ラーマとシーターのその後を描く、切ない後日譚です。

理想の統治を行うラーマでしたが、民の間に「魔王のもとに長くいたシーターの貞節は、本当に保たれていたのか」という噂が再び広がります。王として民の声を無視できなかったラーマは、苦渋の末、身ごもっていたシーターを森へと去らせてしまいます。

森に身を寄せたシーターは、奇しくも詩人ヴァールミーキ(ラーマーヤナの作者とされる)の庵で、双子の男児ルヴァとクシャを産み育てました。やがて成長した双子が、父とは知らぬままラーマの前でラーマーヤナを歌い、親子は再会します。

ラーマはシーターを呼び戻そうとしますが、度重なる貞節の証明を求められた彼女は、自らを生んだ大地の女神に「私が清らかであるなら、大地よ、私を迎えてください」と祈り、開いた大地の中へと還っていったとされます。勧善懲悪の輝かしい物語が、最後に深い哀しみをたたえて閉じられるのも、ラーマーヤナという原典の奥行きです。

アジアへ広がるラーマーヤナ

『ラーマーヤナ』の影響は、インドだけにとどまりません。東南アジアを中心に、アジア各地でそれぞれの「ラーマ物語」が育まれ、今も舞踊・影絵・絵画・祭礼として生き続けています。

地域ラーマーヤナの展開
タイ国民的叙事詩『ラーマキエン』。歴代の王が「ラーマ」を名乗るほど深く根づく
インドネシアジャワ・バリの影絵芝居(ワヤン)や舞踊劇の中心的な題材
カンボジア『リアムケー』として伝わり、アンコール遺跡の浮彫にも刻まれる
日本仏教説話などを通じて、猿王ハヌマーンの物語が『西遊記』の孫悟空の一源流になったとする説もある

中でも、ラーマに忠誠を尽くした猿神「ハヌマーン」は、インドで今なお最も人気のある神の一柱です。怪力・忠誠・無私の献身を体現する彼は、理想の信者(バクタ)の鑑とされ、困難を払う守護神として絶大な信仰を集めています。一つの物語が、国境と時代を越えてこれほど多様な姿で愛され続けていること自体に、ラーマーヤナという原典の生命力がよく表れています。

登場キャラクターの強さは? ― 最強ランキング

本記事に登場した神々・英雄は、「神話・宗教・伝説 最強ランキング」でも強さ順に紹介しています。原典での活躍と、その「強さ」をあわせてお楽しみください。

ラーヴァナ(45位)メーガナーダ(46位)ハヌマーン(50位)

もっと深く知りたい方へ

関連する書籍も紹介します。あわせて読むと、この世界がいっそう深く味わえます。

ゼロからわかるインド神話ゼロからわかるインド神話Amazonで見る → インド神話: マハーバーラタの神々インド神話: マハーバーラタの神々Amazonで見る →

まとめ

本記事では、大叙事詩「ラーマーヤナ」を、全7巻の構成に沿って詳しく解説しました。如何だったでしょうか。

誕生と結婚(第1巻)、追放(第2巻)、シーター誘拐(第3巻)、猿との同盟(第4巻)、ハヌマーンの活躍(第5巻)、決戦と帰還(第6巻)、そして後日譚(第7巻)――理想の王ラーマと、忠誠の猿ハヌマーン、そして魔王ラーヴァナが織りなすこの物語は、インドだけでなく東南アジア一帯にも広まり、各地の文化に深い影響を与えました。

これで、インド神話・ヒンドゥー教の原典シリーズ全7記事が完結しました。最古の聖典ヴェーダから、深遠なウパニシャッド哲学、豊かなプラーナの神話、ヴィシュヌの化身、そして二大叙事詩とバガヴァッド・ギーターまで、インド神話の広大な世界を味わっていただけたなら幸いです。

インド神話の原典の全体像や、他の神話・宗教の一覧は、以下のページを参照してください。

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。