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【イスラム教の原典①】クルアーン(コーラン)とは ― 啓示・編纂・構成を詳しく解説

【イスラム教の原典①】クルアーン(コーラン)とは ― 啓示・編纂・構成を詳しく解説

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、イスラム教の原典を解説するシリーズの第1弾です。

今回は、イスラム教の根本聖典である「クルアーン(コーラン)」そのものを取り上げます。それがどのように下され、どのように一冊の書物にまとめられ、どのような構成になっているのか――聖典としての成り立ちを、じっくり見ていきます。

イスラム教の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。

【神話・宗教の原典解説】イスラム教の原典まとめ ― クルアーンとハディースの全記事一覧senkohome.com/myths-religions-origins-islam/

クルアーンとは ― 「神の言葉そのもの」という特別な位置づけ

「クルアーン」とは、アラビア語で「読誦されるもの(誦むべきもの)」を意味します。日本では英語経由で「コーラン」とも呼ばれてきました。

ここで、他の宗教の聖典と決定的に違う点を押さえておく必要があります。イスラム教において、クルアーンは唯一神アッラーが天使を通じて預言者ムハンマドに下した「神の言葉」そのものとされます。

聖書が「神に霊感を受けた人間(モーセやパウロら)が書いたもの」とされるのに対し、クルアーンは一字一句、語順や響きに至るまで、すべてが神に由来すると信じられています。ムハンマドは「著者」ではなく、神の言葉をそのまま人々へ伝えた「伝達者」にすぎません。

この考え方ゆえに、クルアーンには独特の性質が生まれました。

  • 翻訳は「原典」とは認められない。各国語版はあくまで「意味の解説」とされ、礼拝で読誦されるのは必ずアラビア語の原文
  • 神の言葉そのものなので、その音の響き・韻律も含めて完全であると考えられ、「読誦(朗誦)」が極めて重視される
  • 一点一画も変えてはならない、改変・要約してはならないとされ、1400年にわたってほぼ同一の本文が保たれてきた

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啓示前のアラビア半島 ― 「無明時代」

クルアーンが下される前のアラビア半島が、どのような世界だったのかを知ると、その革新性がよくわかります。

イスラム以前の時代は、後に「ジャーヒリーヤ(無明時代)」と呼ばれます。当時のアラビア半島では、多くの部族がそれぞれの神々や精霊を崇める多神教が広まっていました。とりわけ商業都市「メッカ」の中心にあった聖殿「カアバ」には、数多くの偶像が祀られ、各地から巡礼者が訪れる宗教と交易の拠点となっていました。

部族間の抗争や略奪、富の偏り、弱者(孤児・寡婦・奴隷)の軽視など、社会的な矛盾も抱えていました。一方で、こうした多神教に飽き足らず、唯一神を求める「ハニーフ」と呼ばれる人々もいたと伝えられます。唯一神への信仰と、平等・公正を説くクルアーンのメッセージは、こうした時代を背景に登場したのです。

啓示の始まり ― ヒラー山の洞窟

物語の主人公「ムハンマド」は、570年頃メッカに生まれました。幼くして両親を失い、商人として誠実な人柄で知られ、年上の女性商人「ハディージャ」と結婚します。彼はしばしば、喧噪を離れて郊外のヒラー山の洞窟にこもり、瞑想にふけっていました。

西暦610年頃、40歳ほどになったムハンマドが洞窟で瞑想していると、突然、大天使「ジブリール(ガブリエル)」が現れ、こう命じました。

誦め(よめ)、創造なされる御方、あなたの主の御名において。

読み書きを学んでいなかったムハンマドは「私は誦めません」と戸惑いますが、天使は彼を強く抱きしめ、繰り返し「誦め」と迫りました。これが、クルアーン最初の啓示であり、現在は第96章「凝血(アル・アラク)」の冒頭として収められています。

恐れおののいて家に帰ったムハンマドを、妻ハディージャは支え、彼が神の使徒に選ばれたことを最初に信じた人物となりました。なお、ムハンマド自身が読み書きをほとんどしなかったとされることは、「これは人間の創作ではなく、神の言葉である証」として、イスラム教では重視されています。

23年間の啓示と、迫害から聖遷へ

最初の啓示の後、ムハンマドが亡くなるまでの約23年間にわたって、啓示は折に触れて断続的に下され続けました。状況に応じて、信仰の根本から具体的な指示まで、さまざまな内容が啓示されていきます。

ムハンマドがメッカで唯一神信仰を説き始めると、偶像崇拝と巡礼で利益を得ていた有力者たちは激しく反発し、信者たちは厳しい迫害を受けます。そこでムハンマドは、西暦622年、信者とともに北の都市「メディナ」へ移住しました。

この移住を「ヒジュラ(聖遷)」と呼び、ムスリムの共同体(ウンマ)が築かれた決定的な出来事として、この年がイスラム暦(ヒジュラ暦)の元年と定められました。メディナで共同体の指導者となったムハンマドのもとには、礼拝・断食・戦い・結婚・相続といった、共同体の運営に関わる実践的な啓示が多く下されるようになります。

クルアーンの編纂 ― 一冊の書物になるまで

意外に思われるかもしれませんが、ムハンマドの存命中、クルアーンはまだ一冊の書物にはまとまっていませんでした。下された啓示は、次の2つの形で保たれていました。

  1. 信者たちによる暗誦(クルアーンを完全に暗記した人を「ハーフィズ」と呼びます)
  2. ナツメヤシの葉・石板・革・骨などに書き留められた断片的な記録
クルアーンが「一冊の書物」になるまで 啓示(610〜632年) 暗誦+断片的な記録 収集(初代カリフ期) 暗誦者の戦死で散逸を危惧 統一(ウスマーン期) 表記を統一した正典を制定 現在のクルアーン 世界共通の本文として継承 ※ 暗誦という「人間の記憶」と書写の両輪で、本文がほぼ完全に保たれた点が特徴

ムハンマドの死後、クルアーンを暗誦していた多くの信者が戦いで相次いで亡くなり、神の言葉が失われる危機が生じます。そこで初代カリフ(後継者)アブー・バクルのもとで、散らばった記録と暗誦の収集が始まりました。

さらに、イスラム共同体が各地へ広がると、地域ごとに読み方の差が生じ始めます。これを憂えた第3代カリフ「ウスマーン」は、複数の写本を集めて校合し、表記を統一した公式の「正典(ウスマーン版)」を定め、各地に送りました。これが、現在まで世界中のムスリムが用いるクルアーンの本文です。暗誦という伝承が常に書写を支えてきたため、本文は驚くほど高い精度で保たれてきたとされています。

クルアーンの構成 ― 114章の並び方

クルアーンは、「スーラ」と呼ばれる114の章から成り、全体で約6200の「アーヤ(節)」を含みます。各章にはそれぞれ「雌牛」「光」「巡礼」などの名前が付けられています。

ここで重要なのが、その章の並び順です。クルアーンは、啓示が下された時系列順でも、物語の進行順でもありません。

クルアーンの章(スーラ)の並び方 第1章 開端章(ファーティハ)=7節 第2章「雌牛」=286節(最も長い章) 中盤の章(だんだん短くなる) 第114章=6節(最も短い章) ※ 第1章を除き、おおむね 「長い章 → 短い章」の順 時系列順でも物語順でもない

冒頭にわずか7節の短い第1章「開端章」が置かれ、それ以降は、おおむね長い章から短い章へという順序で並んでいます。最も長い第2章「雌牛」は286節もありますが、巻末の章はわずか数節です。各章の冒頭(第9章を除く)には「慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において(バスマラ)」という句が置かれます。また、読誦の便宜のため、全体は30の部分(ジュズ)にも区分されており、ラマダーン月に1日1ジュズずつ読めば1か月で読み終えられるよう工夫されています。

この構成のため、クルアーンは聖書のように「最初から順に読むと物語が進む」ものではありません。どの章にも、信仰・倫理・物語・法・終末といったテーマが織り込まれているのが特徴です。

メッカ啓示とメディナ啓示

各章は、下された時期によって大きく2つに分けられます。

区分時期内容の傾向
メッカ啓示預言者活動の前半(メッカ時代)唯一神・終末・最後の審判など信仰の根本。短く力強い章が多い
メディナ啓示後半(メディナ移住後)共同体の法・社会規範・戦いなど実践的な内容。長い章が多い

メッカ時代の章は「何を信じるか」を、メディナ時代の章は「共同体としてどう生きるか」を、それぞれ強く語る傾向があります。

名高い章 ― クルアーンを代表する一節

114章のうち、特にムスリムに親しまれ、重要とされる章をいくつか紹介します。

通称特徴
第1章 開端章(ファーティハ)クルアーンの母1日5回の礼拝で必ず唱える。神への賛美と導きの祈り
第2章 雌牛(バカラ)最長の章信仰・法・物語を幅広く含む。玉座節を擁する
第36章 ヤー・スィーンクルアーンの心臓死者への祈りなどで読まれる、力強い章
第112章 純正(イフラース)唯一神信仰の精髄神の唯一性を凝縮した、わずか4節の章
第113・114章 守りの章避難の章悪からの守りを神に求める、巻末の2章

とりわけ第2章の中にある「玉座節(アーヤトゥル・クルスィー)」は、神の全知全能と支配を讃えた一節として、クルアーンで最も名高い節の一つです。また第112章「純正」は、「言え、かれはアッラー、唯一なる御方。何ものも生まず、生まれもしない」と、イスラムの唯一神観(タウヒード)を最も簡潔に表したものとして、繰り返し唱えられます。

言語的奇跡(イジャーズ)― 模倣できない言葉

クルアーンが「神の言葉そのもの」とされる根拠の一つに、「イジャーズ(模倣不可能性)」という考え方があります。

クルアーン自身が、その真正さを疑う者に対して「ならば、これと同じような章を一つでも作ってみよ」と挑戦する節を含んでいます。イスラム教では、その比類なく美しく荘厳なアラビア語の文体は人間には決して真似できないものであり、それ自体が神に由来する証(奇跡)だとされてきました。

他の預言者が「杖が蛇になる」「死者を生き返らせる」といった目に見える奇跡を示したのに対し、ムハンマドの最大の奇跡は「クルアーンという言葉そのもの」である、と理解されているのです。

朗誦と注釈 ― クルアーンとともに生きる

クルアーンは「読む」だけでなく「声に出して美しく誦む」ことが重んじられます。その正しい発音と抑揚の規則を「タジュウィード」と呼び、クルアーンを朗々と誦み上げる名手は世界中で尊敬されます。今なお、全章を完全に暗記する「ハーフィズ」が数多く育てられているのも、この伝統によります。

一方で、神の言葉は時に難解で、文脈の説明を必要とします。そこで、各節がいつ・なぜ・どういう意味で下されたのかを解き明かす「タフスィール(クルアーン注釈学)」が発達しました。さらに、神を文字や偶像で描くことが禁じられているため、その言葉を視覚的に表現する手段として「アラビア書道」や幾何学模様の装飾芸術が高度に発展しました。モスクを飾る流麗な文字は、神の言葉そのものへの敬意の表れなのです。

なぜ「翻訳クルアーン」は存在しないのか

ここで、ほかの聖典と決定的に異なる、クルアーンの大きな特徴に触れておきましょう。それは、他言語に訳されたものは、もはや「クルアーン」とは呼ばれないということです。

クルアーンは、アラビア語で下された、神の言葉そのものとされます。その響き・リズム・多層的な意味は、別の言語に置き換えた瞬間に失われてしまう――。そのためイスラム教では、日本語や英語に訳されたものは、あくまで「クルアーンの意味の解釈(翻訳)」と位置づけられ、原典そのものとは区別されます。礼拝(サラート)でも、世界中どこの国の信者であっても、必ずアラビア語の原文のままクルアーンを誦むのが原則です。

この姿勢は、聖書が各国語に翻訳され、その翻訳もまた「聖書」として読まれるキリスト教とは、好対照をなします。言葉そのものに神聖さが宿るという考え方が、アラビア語という一つの言語を、14世紀ものあいだ世界中のムスリムの共通の祈りの言葉として保ち続けてきたのです。

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まとめ

本記事では、イスラム教の根本聖典「クルアーン」の成り立ちと構成を詳しく解説しました。如何だったでしょうか。

クルアーンは、神アッラーが預言者ムハンマドに約23年かけて下した「神の言葉そのもの」であり、暗誦と書写の両輪でほぼ完全に保たれ、ウスマーンの時代に統一された正典でした。114の章が長い順に並ぶ独特の構成を持ち、模倣できない言語的奇跡として、今も原語のまま朗誦され続けています。

次回の記事②では、このクルアーンが説く信仰の根本――ムスリムが信じるべき「六信」を、唯一神アッラーから天使・啓典・預言者・来世・定命まで、一つずつ詳しく解説していきます。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。