当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、日本神話の原典を解説するシリーズの第2弾です。
引き続き原典『古事記』の記述の順に沿って解説します。今回は上巻(神代)の後半にあたり、日本神話で最も有名なエピソードが集まるアマテラス・スサノオ・オオクニヌシの物語を詳しく見ていきます。
日本神話の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。
この第2弾でたどる物語の流れを、図で示しておきます。舞台が天上(高天原)から地上(出雲)へと移り、最後に再び天と地がつながる、という大きな流れがあります。
スサノオの追放と、誓約(うけい)
前回(記事①)、父イザナギから海原を治めるよう命じられた嵐の神「スサノオ」。しかし彼は任務に就かず、「亡き母イザナミのいる国へ行きたい」と泣きわめくばかりでした。あまりの泣きように山や海が枯れ果てたため、怒ったイザナギはスサノオを追放してしまいます。
スサノオは、母の国へ行く前に、姉である太陽神「アマテラス」に別れを告げようと、天上の高天原へ昇っていきます。
ところが、弟が攻めてきたのかと警戒したアマテラスは、武装して弟を迎えます。スサノオは身の潔白を証明するため、「誓約(うけい)」という占いを提案します。これは、互いの持ち物から神を生み出し、その結果で正邪を占うものでした。
この誓約では、アマテラスがスサノオの剣を噛み砕いて吹き出した息から宗像(むなかた)の三女神(タキリビメ・イチキシマヒメ・タキツヒメ)が、スサノオがアマテラスの勾玉を噛んで吹き出した息から5柱の男神が生まれます。生まれた神は「持ち物の持ち主の子」とされるため、スサノオの剣から生まれた三女神はスサノオの子、アマテラスの勾玉から生まれた五男神はアマテラスの子と定められました。スサノオは「自分の持ち物から清らかな女神が生まれたのは、心が潔白な証だ」として勝利を宣言しました。
ここで生まれた神々は、後の物語に深く関わります。三女神は海上交通の守り神として、現在の宗像大社(福岡)に祀られています。そして五男神の筆頭「アメノオシホミミ」は、のちに天孫ニニギの父となる神です。つまりこの誓約の場面は、地上を治めることになる皇室の祖先が生まれた、系譜上きわめて重要な一段でもあるのです。
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天岩戸 ― 太陽が隠れた世界
潔白が証明されたと考えたスサノオは、勝ち誇って高天原で乱暴の限りを尽くします。田の畔を壊し、神聖な御殿に糞をまき散らし、ついには機織りの神聖な小屋に、皮を剥いだ馬を投げ込み、驚いた織女を死なせてしまうという大事件を起こしました。
弟の度重なる狼藉に深く心を痛めたアマテラスは、ついに「天岩戸(あめのいわと)」という岩の洞窟に閉じこもり、入り口を固く閉ざしてしまいます。
太陽神が隠れたことで、高天原も地上もすべて真っ暗闇となり、あらゆる災いが一斉に噴き出しました。
困り果てた八百万(やおよろず)の神々は、天の川原に集まって対策を練ります。そして、以下のような入念な作戦を実行しました。
- 常世の長鳴鳥(鶏)を集めて、いっせいに鳴かせる
- 鍛冶の神や玉作りの神に、八尺の勾玉と、後に三種の神器となる「八咫鏡(やたのかがみ)」を作らせ、榊(さかき)の木に掛けて飾る
- 占いの神「フトダマ」が榊を捧げ持ち、祝詞(のりと)の神「アメノコヤネ」が荘重な祝詞を唱える
- 力自慢の神「タヂカラオ」を岩戸の脇に隠す
- 女神「アメノウズメ」が、桶を踏み鳴らし、胸をはだけ、神がかりになって滑稽に踊る
このとき神々が用いた鏡・勾玉・祝詞・榊は、いずれも現在の神道の祭祀の原型とされ、原典が祭りの由来そのものを語っていることがわかります。アメノウズメの踊りに、神々がどっと沸いて大笑いします。「自分が隠れて世界は暗いはずなのに、なぜ皆は楽しそうなのか」と不思議に思ったアマテラスが、わずかに岩戸を開けてのぞいた、まさにその瞬間。
神々はすかさず「あなたより貴い神が現れたのです」と鏡を差し出します。鏡に映る自分の姿を、その貴い神だと思って身を乗り出したアマテラスの手を、隠れていたタヂカラオがぐっと掴んで、一気に外へ引き出しました。すかさずフトダマが、岩戸の入り口に注連縄(しめなわ=尻久米縄)を張り渡し、「もう中へはお戻りになれません」と告げます。神社に張られる注連縄は、この場面に由来するとされます。
こうして世界に光が戻ったのです。事件の張本人であるスサノオは、髭と爪を切られ、多くの品を科料として償わされた上で、高天原から追放されました。なお、このとき岩戸を投げ飛ばしたタヂカラオの力にちなみ、その岩が落ちた地が信濃の戸隠(とがくし)になった、という伝承も後世に生まれています。
ヤマタノオロチ退治
高天原を追われたスサノオは、出雲国の「肥河(ひのかわ)」のほとりに降り立ちます。川上から箸が流れてきたのを見て、上流に人がいると知った彼は、そこで泣いている老夫婦――足をなでる「アシナヅチ」と手をなでる「テナヅチ」――と、その娘に出会いました。
訳を聞くと、8つの頭と8つの尾を持ち、目はほおずきのように赤く、体には木が生い茂った巨大な大蛇「ヤマタノオロチ」が、毎年1人ずつ娘を食べに来ており、最後に残った娘「クシナダヒメ」も、今まさに食べられようとしている、というのです。
スサノオは、クシナダヒメを妻にもらうことを条件に、退治を引き受けます。そしてまず、クシナダヒメを神通力で「湯津爪櫛(ゆつつまぐし)」という櫛に変えて、自分の髪に挿し、彼女を守りながら戦いに臨みました。「クシナダ」の名が「櫛」に通じるのも、この場面に由来します。彼が立てた作戦は、知略に富んだものでした。
①8つの門を作り、それぞれに強い酒「八塩折の酒(やしおりのさけ)」を満たした酒桶を置く → ②現れたオロチが8つの頭を各桶に突っ込んで酒を飲み、酔いつぶれて眠る → ③その隙にスサノオが剣で寸断する
作戦は成功し、スサノオはオロチを退治しました。そして、その尾を切ったとき、中から立派な剣が出てきます。これが、後に三種の神器の一つとなる「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」です。スサノオはこの剣を、姉アマテラスへの詫びとして献上しました。
クシナダヒメと結ばれたスサノオは、出雲の須賀(すが)という地にやってきて、すがすがしい気持ちになったことから、その地に宮殿を建てて暮らします。このとき湧き立つ雲を見て詠んだのが、「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を(幾重にも雲が立ちのぼる出雲――妻とこもるために、幾重もの垣根をめぐらせよう。ああ、その八重の垣根よ)」という歌です。これは日本最古の和歌(三十一文字の短歌)とされ、和歌の伝統がこのスサノオの歌から始まったと語り継がれています。乱暴者だった嵐の神が、地上では妻を守る英雄となり、歌をも生み出す――その鮮やかな対照も、この物語の見どころです。
因幡の白兎とオオクニヌシ
スサノオの子孫(六世の孫とも)にあたるのが、「オオクニヌシ(大国主神)」です。彼は数々の試練を乗り越えて、出雲を中心とする国の主となります。なお、この神は原典の中でオオナムチ(大穴牟遅)・アシハラシコオ・ヤチホコ(八千矛)・ウツシクニタマなど、場面ごとに多くの名で呼ばれます。これは、各地で別々に信仰されていた神々が、出雲の大神オオクニヌシのもとに統合されていった歴史を映している、とも考えられています。
有名なのが「因幡の白兎」の物語です。オオクニヌシには大勢の意地悪な兄たち(八十神)がいました。兄たちが美しい姫に求婚しに行く道中、皮を剥がれて泣いている兎に出会います。兄たちは「海水を浴びて風に当たれ」と嘘の治療法を教え、兎はかえって苦しみます。
最後に通りかかった心優しいオオクニヌシは、「真水で体を洗い、蒲(がま)の花粉の上で休みなさい」と正しい治療法を教えて兎を助けました。すると兎は、「姫と結婚するのは、あなたです」と予言したとされています。
根の国の試練
予言どおりオオクニヌシが姫の心を射止めると、嫉妬した兄たちは、焼いた大岩を抱かせたり、木に挟んだりして、オオクニヌシを二度も殺してしまいます。しかしそのたびに、母神の助けによって生き返りました。
兄たちから逃れるため、オオクニヌシは、先祖スサノオがいる地下の「根の国(ねのくに)」へ向かいます。そこでスサノオの娘「スセリビメ」と恋に落ちますが、スサノオは婿を認めず、次々と過酷な試練を課します。
- 蛇がうごめく部屋で一晩過ごさせる
- ムカデと蜂がうごめく部屋で一晩過ごさせる
- 野原に放った矢を探させ、その野に火を放つ
オオクニヌシは、スセリビメが授けてくれた呪具や、ネズミの助けによって、これらの試練をことごとく切り抜けます。最後に、眠ったスサノオの隙をついて、「生大刀・生弓矢・琴」という宝物とスセリビメを連れて地上へ逃げ帰りました。
スサノオは追いかけながらも、最後にはオオクニヌシを認め、「その宝で兄たちを倒し、立派な国を造れ」と励まします。地上に戻ったオオクニヌシは兄たちを討ち、いよいよ国造りに取りかかります。
このとき海の彼方から、ガガイモの実を割った小舟に乗り、蛾の皮を衣にまとった、ごく小さな神「スクナビコナ(少名毘古那神)」がやってきます。神産巣日神(カムムスヒ)の子だというこの小さな神と力を合わせ、オオクニヌシは農耕の方法や、病を治す医薬、害虫やけものを払う術を人々に広めて、葦原中国(あしはらのなかつくに=地上の国)を豊かに造り上げていきました。これを「国造り」といいます。
やがてスクナビコナが海の彼方の常世国(とこよのくに)へ去ってしまうと、オオクニヌシは「これからは誰と国を造ればよいのか」と途方に暮れます。すると海を照らしてやってきた神が、「私を大和の三輪山(みわやま)に祀れば、国造りを助けよう」と告げました。これが、三輪山に鎮まるオオモノヌシ(大物主神)であり、オオクニヌシの「幸魂奇魂(さきみたま・くしみたま)」=その分身ともされます。こうして出雲の国造りは、大和の信仰とも結びついていくのです。
国譲り ― 地上を天上の神々へ
地上の国が豊かに栄える様子を、天上の高天原から見ていたアマテラスは、「あの国は、私の子孫が治めるべきだ」と考えます。そして、オオクニヌシに国を譲るよう交渉する使者を送りました。
しかし交渉は難航します。
| 使者 | 結果 |
|---|---|
| アメノホヒ | オオクニヌシに従ってしまい、3年たっても報告しない |
| アメノワカヒコ | オオクニヌシの娘と結婚して8年も戻らず、最後は「天の返し矢」で命を落とす |
| タケミカヅチ | 武勇に優れた神。剣を波の上に逆さに立て、その切っ先にあぐらをかいて交渉する |
二番目の使者「アメノワカヒコ」の最期は、印象的です。彼が地上に居ついて戻らないのを怪しんだ高天原は、雉(きじ)の「ナキメ」を様子見に遣わします。ところがアメノワカヒコは、授かった弓矢でこの雉を射殺してしまいました。その矢は雉の体を貫いて高天原まで飛び上がり、神が「もし邪心があるなら、この矢に当たれ」と投げ返すと、矢は寝ていたアメノワカヒコの胸を貫いて、彼を死なせたといいます。「返し矢恐るべし」という言葉は、ここから生まれました。
そして最後に派遣された武神「タケミカヅチ」が、オオクニヌシに国譲りを迫ります。オオクニヌシは、息子たちの意見を聞くと答えました。
長男のコトシロヌシは、あっさりと国譲りに同意します。しかし次男の「タケミナカタ」は反発し、タケミカヅチに力比べを挑みます。ところがタケミカヅチの手をつかむと、その手は氷柱や剣に変わり、逆にタケミナカタの手は握りつぶされてしまいました。敗れたタケミナカタは諏訪まで逃げ、その地に留まることを誓います。
息子たちが屈したことで、オオクニヌシもついに国譲りを承諾します。ただし、その条件として「天にも届くほど壮大な宮殿を建ててほしい」と求めました。これが、現在の「出雲大社」の起源とされています。
こうして地上の国は、出雲の神々(国津神)から、天上の神々(天津神)へと譲り渡されました。
登場キャラクターの強さは? ― 最強ランキング
本記事に登場した神々・英雄は、「神話・宗教・伝説 最強ランキング」でも強さ順に紹介しています。原典での活躍と、その「強さ」をあわせてお楽しみください。
スサノオ(48位)・アマテラス(61位)・ヤマタノオロチ(64位)・タケミカヅチ(73位)
もっと深く知りたい方へ
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まとめ
本記事では、『古事記』上巻のうち、高天原と出雲を舞台とした神話を詳しく解説しました。如何だったでしょうか。
太陽神が隠れる「天岩戸」、スサノオの「ヤマタノオロチ退治」、数々の試練を乗り越えるオオクニヌシの「国造り」、そして「国譲り」と、日本神話の見どころが詰まった部分でした。
国譲りによって地上を手に入れた天上の神々は、いよいよ自らの子孫を地上へと送り込みます。次回の記事③では、「天孫降臨」から、初代神武天皇による建国までを解説していきます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:日本神話の原典解説(3/6)