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【ユダヤ教の原典②】トーラーと契約 ― モーセ五書・選民思想・613の戒律を解説

【ユダヤ教の原典②】トーラーと契約 ― モーセ五書・選民思想・613の戒律を解説

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、ユダヤ教の原典を解説するシリーズの第2弾です。

前回(記事①)は、ユダヤ教の聖書「タナハ」の全体像を見ました。今回は、その中で最も神聖な核心である「トーラー(モーセ五書)」と、ユダヤ教の信仰を貫く最重要のキーワード「契約」を、詳しく見ていきます。

ユダヤ教の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。

【神話・宗教の原典解説】ユダヤ教の原典まとめ ― タナハとタルムードの全記事一覧senkohome.com/myths-religions-origins-judaism/

ユダヤ教を貫く「契約」という考え方

ユダヤ教を理解する最大の鍵は、「契約(ヘブライ語でブリート)」という考え方です。

ユダヤ教の神は、人類と、そして特にイスラエルの民と、「あなたがたの神となろう。あなたがたは私の民となりなさい」という約束(契約)を、歴史の節目ごとに結んできた――トーラーは、その契約の積み重ねの物語として読むことができます。

トーラーが語る「契約」の連鎖 ノアの契約 洪水の後、二度と 滅ぼさない約束(虹) アブラハム契約 子孫・土地の約束 しるしは割礼 シナイ契約 モーセを通じ律法 (十戒・613戒律) 選民の使命 律法を守り、 神の民として生きる ※ 神と人との「約束」が積み重なり、シナイ山での律法授与で頂点に達する

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創世記 ― 創造とアブラハムの契約

トーラーの最初の書「創世記」は、天地創造から始まります。神が6日間で世界を造り、7日目に休んだ――この記述が、後で見る安息日(シャバット)の根拠になります。アダムとエバ、カインとアベル、そしてノアの大洪水と続く前半は、人類全体の物語です。

物語が大きく動くのは、「アブラハム」の登場からです。神はアブラハムに、「あなたを大いなる国民とし、子孫にこの土地(カナン)を与えよう」と約束します。これが「アブラハム契約」で、ユダヤ民族の出発点です。そのしるしとして定められたのが「割礼」でした。アブラハムの信仰は、イサク、ヤコブ(イスラエルと改名)へと受け継がれ、ヤコブの12人の息子が、後の「イスラエル12部族」の祖となります。

なお、このアブラハムはキリスト教・イスラム教でも「信仰の父」として共通して敬われる人物です。3つの宗教がいずれも「アブラハムの宗教」と呼ばれる理由が、ここにあります。

出エジプトとシナイ契約 ― モーセと律法

創世記の終わりで、ヤコブ一族はエジプトへ移り住みますが、年月を経て奴隷の身分に落とされてしまいます。ここから始まるのが、2番目の書「出エジプト記」の壮大な解放の物語です。

神に召された預言者「モーセ」は、10の災いでエジプト王(ファラオ)を屈服させ、奴隷であったイスラエルの民を脱出させます。海を二つに割って民を渡らせた「葦の海(紅海)の奇跡」は、あまりにも有名です。

そして物語は頂点を迎えます。脱出した民は「シナイ山」のふもとに集い、モーセが山上で神から律法を授かるのです。これが「シナイ契約」であり、その中心が有名な「十戒」です。

  1. 私のほかに神々があってはならない 2. 偶像を造ってはならない 3. 神の名をみだりに唱えてはならない 4. 安息日を守りなさい 5. 父母を敬いなさい 6. 殺してはならない 7. 姦淫してはならない 8. 盗んではならない 9. 偽証してはならない 10. 隣人のものを欲しがってはならない

この十戒を含む膨大な律法によって、イスラエルは「神の民」として生きる道を示されました。残るレビ記・民数記・申命記には、祭礼や日常生活の細かな規定、荒野の40年の旅、そしてモーセ最後の説教が記されています。

選民思想 ― 「選ばれた民」の本当の意味

ユダヤ教を語るうえで避けて通れないのが「選民思想」です。ユダヤ人は自らを「神に選ばれた民」と考えますが、これはしばしば誤解されます。

これは「他の民族より優れている」という特権の主張ではありません。むしろ「律法を守り、神の教えを世界に示すという、重い使命を引き受けた」という、責任の引き受けを意味します。「選ばれた」とは「優遇された」ではなく「役目を負わされた」に近いのです。

ここはキリスト教・イスラム教との大きな違いです。キリスト教やイスラム教が、民族を問わず万人に開かれた「世界宗教」であるのに対し、ユダヤ教は基本的に「ユダヤ民族の宗教」という性格を強く残しています。だからこそ、積極的な布教(改宗の勧誘)も、ほとんど行いません。

613の戒律(ミツワー)

シナイ契約で授けられた律法は、十戒だけではありません。ユダヤ教の伝統では、トーラーの中に合計613の戒律(ミツワー)が含まれているとされ、これを「タルヤグ・ミツワー」と呼びます。

区分内容
「〜しなさい」(積極的戒律)248安息日を守る、両親を敬う、など行うべき命令
「〜してはならない」(禁止戒律)365偶像崇拝の禁止、特定の食物の禁止、など

合計で613。「248は人体の部位の数、365は1年の日数に対応する」と象徴的に語られます。この613という数を体系的に数え上げたのが、12世紀の大学者「マイモニデス」の『戒律の書(セフェル・ハミツワー)』です。

注目したいのは、ユダヤ教の信仰が「正しい教義を信じること」以上に、「律法を正しく行うこと(実践)」を重んじる点です。これはイスラム教(シャリーアという法を重んじる)と似た性格である一方、「律法の行いではなく、イエスへの信仰によって救われる」と説いたキリスト教とは、際立って対照的です。実は、この「律法か信仰か」という問いこそ、ユダヤ教からキリスト教が分かれていく、決定的な分岐点でもありました。

モーセの位置づけ ― 最大にして特別な預言者

トーラーの主役であるモーセは、ユダヤ教において「最も偉大な預言者」とされます。神と「顔と顔を合わせて」語った唯一の預言者であり、彼を超える者は二度と現れないとされます。

ここでも3宗教を比べると面白い違いが見えます。ユダヤ教ではモーセが最大の預言者であり続けますが、キリスト教ではモーセを偉大な先駆者としつつ、イエスを「神の子・救世主」という別格の存在とします。一方イスラム教は、モーセ(ムーサー)もイエス(イーサー)も預言者として敬いつつ、ムハンマドを「最後の預言者」と位置づけます。同じ人物への評価の違いに、各宗教の個性がはっきり表れているのです。

トーラーは誰が書いたのか ― 伝統と研究

トーラーの成り立ちについては、伝統的な信仰と、近代の学問とで、大きく見方が分かれます。

ユダヤ教の伝統では、トーラー全体が、シナイ山で神からモーセに授けられたとされてきました。モーセの死をしるす申命記の末尾さえ、神の口述によるとする説があるほど、その神聖さは絶対視されます。

一方、18〜19世紀以降の聖書学は、本文を精密に分析し、トーラーが一人の手による一気の著作ではなく、時代の異なる複数の資料が、長い年月をかけて編集・結合されたものだと考えるようになりました。これを「文書仮説」といい、神の呼び名(ヤハウェか、エロヒムか)や文体・関心の違いから、いくつかの源泉(資料)が見分けられる、とします。たとえば、創世記の冒頭に天地創造の物語が二つ続けて置かれていることなどが、その手がかりとされます。

信仰の立場からは「神の言葉」、学問の立場からは「編集の歴史を持つ文書」――。同じトーラーが、見る角度によって全く異なる相貌を見せることも、この原典の奥深さの一つです。

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まとめ

本記事では、ユダヤ教の核心トーラー(モーセ五書)と、契約の思想を詳しく解説しました。如何だったでしょうか。

トーラーは、創造からアブラハム契約、出エジプト、シナイ山での律法授与へと続く、神と民との「契約」の物語でした。そして、選ばれた民として613の戒律を実践することにこそ、ユダヤ教の信仰の核心があります。

「正しく信じる」よりも「正しく行う」を重んじるこの姿勢は、後にキリスト教が「信仰による救い」を掲げて分かれていく伏線にもなりました。

次回の記事③では、この成文トーラーと並ぶもう一つの原典、口伝トーラーの集大成「タルムード」を解説していきます。

【神話・宗教の原典解説】ユダヤ教の原典まとめ ― タナハとタルムードの全記事一覧senkohome.com/myths-religions-origins-judaism/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。