当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、ゾロアスター教の原典を解説するシリーズの第3弾(最終回)です。
最終回となる今回は、ゾロアスター教が描く世界の物語を、その始まり(創造)から終わり(終末)まで、一気に見ていきます。審判・天国地獄・救世主・復活――どこかで聞いたような言葉が、次々と登場します。
ゾロアスター教の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。
世界の創造 ― 善き世界と、その汚れ
ゾロアスター教の創造神話は、中世ペルシア語の書『ブンダヒシュン(原初の創造)』などに詳しく語られています。それは、これまで見てきた善悪二元論がそのまま物語になったような、壮大な筋書きです。
はじめ、善神アフラ・マズダーは上方の光の中に、悪の霊アンラ・マンユは下方の闇の中に、それぞれ離れて存在していました。アフラ・マズダーは、まず善き世界を完全なかたちで創造します。澄んだ天、清らかな水、大地、植物、そして原初の動物(聖なる牛)と、最初の人間(ガヨーマルト)――すべては、汚れも死もない理想の状態でした。
ところが、その完璧な世界にアンラ・マンユが侵入し、攻撃を加えます。彼は聖なる牛と最初の人間を死に至らしめ、世界に死・病・苦しみ・汚れを持ち込みました。こうして、善と悪が入り混じった現在の世界――いわば「混合」の時代が始まったのです。私たちが生きる今は、まさにこの善悪が争う途中の段階だとされます。そして、この戦いには定められた終わりがあり、最後には善が勝利して世界が浄化されると説かれます。それが、この記事で見ていく終末の物語です。
一万二千年の世界史
『ブンダヒシュン』は、この善悪の戦いを、全体で一万二千年に及ぶ、四つの時代として描きます。世界の歴史そのものに、始まりと終わりがある――この直線的な時間観こそ、ゾロアスター教が後世に与えた最も大きな贈り物の一つです。
| 時代 | 内容 |
|---|---|
| 第1期(〜3000年) | アフラ・マズダーが、まず霊的な状態で万物を創造する |
| 第2期(〜6000年) | 世界が物質的なかたちを得る。まだ汚れも死もない理想の時代 |
| 第3期(〜9000年) | アンラ・マンユが侵入し、善悪が入り混じる「混合」の時代(=現在) |
| 第4期(〜12000年) | 救世主サオシュヤントが現れ、悪が滅び、世界が浄化される「分離」の時代 |
円環をめぐって永遠に繰り返す、というインドや中国の時間観とは異なり、ゾロアスター教は「世界には目的があり、善の勝利という結末へ向かって一直線に進む」と考えました。後で見る救世主の到来や最後の審判も、この壮大な時間の枠組みの中に位置づけられているのです。
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死後の魂の旅 ― チンワト橋の審判
まず、一人ひとりの人間が死んだとき、その魂はどうなるのでしょうか。ゾロアスター教では、魂は数日のあいだ地上にとどまり、やがて「チンワト橋(選別の橋)」と呼ばれる、あの世への橋にたどり着くとされます。
この橋で、魂は生前の行いによる審判を受けます。その描写が、実に印象的です。
生前に善を積んだ魂にとって、チンワト橋は広々とした道となり、美しい乙女(生前の善行が姿をとったもの)に迎えられて、天国へと渡っていきます。逆に、悪を重ねた魂にとっては、橋は剃刀のように細くなり、足を踏み外して下の地獄へと落ちてしまうのです。
天国と地獄
審判の結果、魂が向かう先が「天国」と「地獄」です。
天国は「歌の家」とも呼ばれる、光と喜びに満ちたアフラ・マズダーのもとの楽園です。一方の地獄は、暗黒と悪臭、孤独と苦しみに満ちた世界とされます。さらにゾロアスター教には、善行と悪行がちょうど釣り合った人が行く「ハミスタガーン(中間の場)」という、いわば煉獄のような場所もあるとされました。
この「死後、行いに応じて天国か地獄へ振り分けられる」という考え方は、現代の私たちには馴染み深いものです。しかし宗教史的に見れば、これを明確に説いた最も古い宗教の一つがゾロアスター教なのです。
フラショ・クルティ ― 世界の刷新
個人の死後だけでなく、ゾロアスター教は世界そのものの終わりと、その後の完成までを壮大に描きます。それが「フラショ・クルティ(世界の刷新)」です。
冒頭で見た「混合」の時代――善と悪が争う長い戦いの末、ついに最終決戦のときが訪れます。そこで悪の霊アンラ・マンユ(アフリマン)は完全に滅ぼされ、世界からあらゆる悪・苦しみ・死が永久に取り除かれます。そして世界は、創造されたときの完全で清らかな姿へと刷新されるのです。
サオシュヤント ― 終末に現れる救世主
この世界の刷新を導くのが、終末に現れる救世主「サオシュヤント」です。
伝承によれば、サオシュヤントは開祖ザラスシュトラの血(種)を受け継いで生まれるとされます。その種は奇跡的に湖の中に保存されており、終末の時が近づくと、その湖で身を清めた処女から救世主が誕生すると語られます。サオシュヤントは死者の復活を成し遂げ、最後の審判を導いて、善の最終的な勝利を完成させます。
処女から生まれ、世界を救い、死者をよみがえらせる救世主――この物語が、後のキリスト教の救世主像などを思わせることは、言うまでもありません。
死者の復活と、溶けた金属の試練
終末には、過去に死んだすべての人間が、肉体をもってよみがえるとされます。これが「死者の復活」です。
よみがえった全人類は、最後の審判として溶けた金属の川をくぐる試練を受けます。『ブンダヒシュン』によれば、このとき善人にとっては温かいミルクの川のように感じられ、悪人は焼かれて清められるとされます。そしてこの試練を経たのち、最終的には悪人さえも浄化され、すべての魂が救われて、悪のいない完全な世界がもたらされる、とも説かれます。
最後にすべてが浄化され、善のもとに一つになる――この希望に満ちた終末観は、ゾロアスター教の大きな魅力の一つです。
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まとめ
本記事では、ゾロアスター教が描く世界の創造から終末までを詳しく解説しました。如何だったでしょうか。
ゾロアスター教は、アフラ・マズダーによる善き世界の創造に始まり、アンラ・マンユの侵入で善悪が入り混じった「混合」の時代を経て、死後は「チンワト橋」で審判を受けると説きます。そして終末には、救世主「サオシュヤント」のもと、死者の復活と世界の刷新(フラショ・クルティ)によって悪が滅び、世界が完成へと至ります。
創造・審判・天国地獄・救世主・復活――これらを古くから壮大な物語として説いた点に、この宗教の際立った独自性があります。
次回の記事④(最終回)では、こうしたゾロアスター教の思想が、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教に与えた影響と、ペルシア帝国からパールシーに至るその歴史を解説していきます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:ゾロアスター教の原典解説(4/5)