当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、ゾロアスター教の原典を解説するシリーズの第1弾です。
今回は、ゾロアスター教の開祖である預言者「ザラスシュトラ」と、その教えを伝える聖典「アヴェスター」を取り上げます。
ゾロアスター教の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。
ザラスシュトラとは ― 謎に包まれた預言者
ゾロアスター教の開祖は「ザラスシュトラ(スピターマ家のザラスシュトラ)」です。私たちがよく使う「ゾロアスター」という呼び名は、この名前を古代ギリシア人が「ゾロアストレス」となまって伝えたものです。
その生涯は深い謎に包まれています。とりわけ難しいのが、彼がいつの時代の人物なのかという問題です。
| 説 | 年代 |
|---|---|
| 伝統的な説 | 紀元前6世紀ごろ |
| 現代の言語学的研究 | 紀元前1500〜1000年ごろ(より古い) |
彼が遺したとされる讃歌「ガーサー」の言語が非常に古い形であることから、現代の研究では紀元前1000年ごろ、あるいはさらに古いとする見方が有力です。いずれにせよ、ブッダや孔子、イエスよりはるかに昔に生きた、人類最古級の宗教家の一人ということになります。活動の舞台は、現在のイランや中央アジアにあたる古代イラン世界でした。
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アフラ・マズダーからの啓示
伝承によれば、もともと祭司であったザラスシュトラは、30歳ごろに決定的な体験をします。川で身を清めていたとき、まばゆい光とともに天使が現れ、最高神「アフラ・マズダー(智恵の主)」のもとへと導かれ、啓示を授かったというのです。
当時の古代イランは、多くの神々にいけにえを捧げる多神教の世界でした。しかしザラスシュトラは、アフラ・マズダーこそが唯一の崇拝にふさわしい至高の神であると説き、当時の祭司や信仰のあり方を鋭く批判しました。
そのため彼は、はじめ激しい反発と迫害にあい、信者はなかなか増えませんでした。転機となったのは、ウィシュタースパ王という有力な王が彼の教えに帰依したことです。これを足がかりに、ゾロアスター教は古代イラン世界へと広まっていきました。迫害を受けた預言者が、王の帰依で教えを広めるという展開は、後のイスラム教(ムハンマド)などとも重なる、啓示宗教に共通の物語です。
なお、後世のヨーロッパでは、哲学者ニーチェが著書『ツァラトゥストラはこう語った』でこの開祖の名を借りており、ザラスシュトラの名は思想史にも刻まれています。
聖典アヴェスター ― ガーサーを核心として
ザラスシュトラの教えと、それに連なる信仰を伝える聖典が「アヴェスター」です。これは一冊の本ではなく、用途の異なる複数の文書の集まりで、古代の「アヴェスター語」で記されています。
その中で、最も古く最も神聖とされるのが「ガーサー」です。これはザラスシュトラ自身が詠んだ讃歌と伝えられる、17の詩篇からなる珠玉の部分です。アフラ・マズダーへの祈りと、善と悪をめぐる深い思索が、力強い詩の形で歌われています。
ガーサーを含む「ヤスナ」が礼拝の中心となる全72章で、これに祭儀を補う「ヴィスペラード」、清浄や悪霊払いの規定を集めた「ヴェンディダード」、神々への讃歌集「ヤシュト」などが加わります。さらに、信者が日々となえる祈りを集めた「コルダ・アヴェスター(小アヴェスター)」もあります。
失われた聖典 ― 口承から文字へ
アヴェスターには、もう一つ知っておきたい歴史があります。それは、現存するアヴェスターは、本来あった全体のごく一部にすぎないということです。
ゾロアスター教でも、聖典は長らく口頭で暗誦して伝えられていました。文字に書き留められたのは、ようやくササン朝ペルシア(3〜7世紀)の時代になってからです。伝承では、それ以前にアレクサンドロス大王のペルシア征服などによって多くが失われたとされ、ササン朝で必死に集成されたものの、往時の規模には遠く及ばなかったといいます。
また、アヴェスター語が次第に理解されなくなると、中世ペルシア語(パフラヴィー語)による翻訳・注釈「ザンド」が作られました。さらに同じパフラヴィー語で、創造から終末までの世界観を体系的に記した『ブンダヒシュン』や、教義の百科全書『デーンカルド』といった重要な文献も編まれました。これらは、アヴェスター本文だけでは分かりにくいゾロアスター教の神話・教義を知るうえで、欠かせない原典となっています。
ガーサーが伝えるザラスシュトラの肉声
数あるゾロアスター教の原典の中で、別格の重みを持つのが、開祖ザラスシュトラ自身の作とされる17篇の讃歌「ガーサー」です。後世の神話的・儀礼的な文章とは違い、ここにはザラスシュトラその人の、神への切実な問いかけが、詩の形で生々しく刻まれています。
ガーサーの中で、ザラスシュトラは唯一神アフラ・マズダーに向かって、次々と根源的な問いを投げかけます。「この世界を支えているのは誰か。太陽と星々の道を定めたのは誰か。月を満ち欠けさせるのは誰か」――そして、「正しい者がなぜ虐げられ、悪しき者がなぜ栄えるのか」という、信仰者を悩ませ続ける問いにまで及びます。こうした問いを通して、彼は世界を「善(アシャ=真理・正義)」と「悪(ドゥルジ=虚偽)」の戦いの場としてとらえ、人は自らの意志でどちらに与するかを選ぶ責任がある、と説いていきます。
神話の登場人物としてではなく、一人の人間が神と向き合い、悩み、思索した言葉がそのまま残されているという点で、ガーサーは世界の宗教文献の中でもきわめて稀有な原典なのです。
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まとめ
本記事では、ゾロアスター教の開祖ザラスシュトラと、聖典アヴェスターを詳しく解説しました。如何だったでしょうか。
ザラスシュトラは、人類最古級の預言者であり、多神教の世界にあって最高神アフラ・マズダーへの信仰を説きました。その言葉とされる讃歌「ガーサー」を核心とする聖典アヴェスターは、長い口承と喪失を経て、ササン朝でようやく文字に残された貴重な原典です。
次回の記事②では、ザラスシュトラが説いた教えの核心である「善悪二元論」と、最高神アフラ・マズダーの世界を、詳しく解説していきます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:ゾロアスター教の原典解説(2/5)