当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、イスラム教の原典を解説するシリーズの第3弾です。
前回(記事②)は、ムスリムが心の中で信じる「六信」を解説しました。今回は、その信仰を具体的な行動に移す実践の柱――「五行」と、ムスリムの日常を形づくる信仰生活を詳しく見ていきます。
イスラム教の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。
五行とは ― イスラムの5つの柱
「五行(ごぎょう)」とは、ムスリムが行うべき5つの基本的な宗教的義務であり、「イスラムの五柱」とも呼ばれます。信仰(六信)が心の土台だとすれば、五行はその信仰を体で実践し、形にするものです。
それでは、5つの柱を一つずつ詳しく見ていきましょう。
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① 信仰告白(シャハーダ)― イスラムの入り口
第1の柱「シャハーダ(信仰告白)」は、イスラム教のまさに入り口です。
アッラーのほかに神はなく、ムハンマドは神の使徒である。
この言葉を、心から信じて証言すること――これがシャハーダです。前半は唯一神への信仰(タウヒード)を、後半はムハンマドが神の使徒であることを言い表しています。
このわずか一文を、意味を理解し、心から信じて唱えることが、ムスリムであることの最も基本的な条件です。イスラム教に入信する際も、証人の前でこの言葉を唱えることで成立します。日々の礼拝の中でも繰り返し唱えられ、ムスリムの信仰生活のすべてを貫く言葉となっています。
② 礼拝(サラート)― 1日5回、神と向き合う
第2の柱「サラート(礼拝)」は、ムスリムの生活のリズムそのものを形づくります。
ムスリムは、夜明け前・正午過ぎ・午後・日没後・夜の1日5回、決められた時刻に礼拝を行います。礼拝の前には、手・顔・腕・足などを洗い清める「ウドゥー(小浄)」を行い、心身を清浄な状態に整えます。
礼拝は必ず、聖地メッカにある「カアバ神殿」の方角に向かって行われます。この方角を「キブラ」と呼びます。世界中のムスリムが、時刻に合わせて同じ一点へ向かって祈る――この光景は、国境や民族を越えた共同体(ウンマ)の一体感を象徴しています。
礼拝は、立つ・かがむ・額を地につけてひれ伏す(サジダ)といった一連の所作を、定められた回数繰り返します。神の前に額をつける動作には、創造主への完全な服従という意味が込められています。特に金曜日の正午の礼拝「金曜礼拝(ジュムア)」は、男性は原則モスクに集まって集団で行う、共同体にとって重要な礼拝とされています。
③ 喜捨(ザカート)― 富を清める施し
第3の柱「ザカート(喜捨)」は、一定以上の財産を持つ者が、その一部を貧しい人々や共同体のために差し出す義務です。
その割合は、一般に蓄えた財産の2.5%程度とされます。重要なのは、これが単なる任意の慈善ではなく、定められた宗教的な「義務」だという点です。
ザカートという言葉には「浄め」という意味があります。自分の財産の一部を施すことで、富そのものを清め、富める者と貧しい者の格差を和らげ、社会全体を支えるという考え方です。集められたザカートは、貧者・困窮者・負債者・旅人などのために使われると、クルアーンに定められています。なお、義務であるザカートとは別に、見返りを求めない自発的な施し「サダカ」も善行として広く奨励されています。
④ 断食(サウム)― ラマダーンの修養
第4の柱「サウム(断食)」は、イスラム暦第9の月「ラマダーン」の間に行われます。
この月の間、ムスリムは夜明け前から日没まで、いっさいの飲食を断ちます。水を飲むことも許されません。日没後には、家族や仲間とともに「イフタール」と呼ばれる食事をとって断食を解き、夜明け前にも食事をとって次の日の断食に備えます。
なぜ断食をするのでしょうか。その目的は、空腹と渇きを自ら体験することで、貧しい人々の苦しみへの共感を育み、自らの欲望を律し、神への感謝を新たにすることにあります。断食は単なる我慢ではなく、心を清め、信仰を深めるための修養なのです。
ラマダーン月は、ムスリムにとって一年で最も神聖な月とされ、人々はいつも以上にクルアーンを読み、善行に励みます。そして断食月が明けると、それを祝う盛大な祭り「イード・アル=フィトル(断食明けの祭り)」が、家族や地域で祝われます。
⑤ 巡礼(ハッジ)― 聖地メッカへ
第5の柱「ハッジ(巡礼)」は、体力的・経済的に可能な者が、一生に一度、聖地メッカへ巡礼する務めです。
巡礼月になると、世界中から数百万人ものムスリムがメッカに集まります。巡礼者たちは「イフラーム」と呼ばれる縫い目のない白い衣をまといます。これは、王も貧者も、あらゆる民族も、神の前ではみな平等であることを体現するものです。
巡礼では、定められた一連の儀式を行います。中心となるのが、カアバ神殿の周りを反時計回りに7周する「タワーフ」です。このほか、近くの2つの丘の間を往復する儀式や、アラファト山での祈り、悪魔を象徴する柱に小石を投げる儀式などが行われます。
巡礼の最後には、預言者イブラーヒーム(アブラハム)が息子を捧げようとした故事にちなみ、羊などを捧げる「イード・アル=アドハー(犠牲祭)」が祝われます。これはイスラム世界で最も大切な祭りの一つで、捧げられた肉は貧しい人々にも分け与えられます。
ハラールとハラーム ― 許されたものと禁じられたもの
五行に加えて、ムスリムの日常生活を律する大切な概念が「ハラール」と「ハラーム」です。
| 区分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| ハラール | 許されたもの・行い | 定められた作法で処理された肉、野菜・穀物など |
| ハラーム | 禁じられたもの・行い | 豚肉、酒(アルコール)、不正な利得など |
特に食に関する戒律はよく知られています。豚肉と酒(アルコール飲料)は明確に禁じられており、その他の動物の肉も、神の名を唱えて定められた方法で処理された「ハラール」なものでなければ食べられません。
これは単なる食習慣ではなく、日々の食事という最も身近な行為を通じて、神の定めに従って生きるという信仰の実践です。近年では、ハラール認証を受けた食品やレストランが世界中に広がっています。
利子の禁止 ― イスラムの経済倫理
ハラール/ハラームの考え方は、食べ物だけでなくお金や商売のあり方にも及びます。中でも特徴的なのが、「リバー(利子)」の禁止です。
クルアーンは、お金を貸して利子を取ること(不労所得)を、はっきりと禁じています。働かずに、ただお金がお金を生むことは、富める者をますます富ませ、弱い者を苦しめる不正だと考えられるためです。喜捨(ザカート)が「富を貧しい者へ循環させる」ことを義務づけるのと同じく、ここにも富の偏りを戒め、共同体の助け合いを重んじるイスラムの経済観が表れています。
では、現代の銀行はどうするのか。そこで発達したのが「イスラム金融」です。利子の代わりに、出資者と事業者が利益も損失も分け合う仕組み(共同出資や、銀行がいったん商品を買って利幅を乗せて売る方式など)を用いることで、リバーを避けながら経済活動を成り立たせています。信仰の戒めが、現代の金融の仕組みにまで生きているのは、生活のすみずみまでを神の教えで律しようとするイスラムらしさの表れです。
イスラム暦 ― 月の満ち欠けで進む暦
ムスリムの宗教生活は、「イスラム暦(ヒジュラ暦)」に沿って営まれます。これは月の満ち欠けを基準とする太陰暦で、預言者ムハンマドがメディナへ移住した西暦622年を元年とします。
太陰暦は1年が約354日と、太陽暦より11日ほど短いため、ラマダーン月や巡礼月といった宗教行事の時期は、太陽暦で見ると毎年少しずつ早まっていきます。そのため、断食月が真夏に巡ってくる年もあれば、冬に巡ってくる年もあるのです。
ジハード ― 本来の意味
イスラム教に関連して、しばしば誤解される言葉が「ジハード」です。
ジハードは、日本では「聖戦」と訳され、戦争のイメージで語られがちです。しかし、その本来の意味は「(神の道のための)努力・奮闘」です。
イスラムの伝統では、ジハードはしばしば2つに分けて語られます。自らの欲望や弱さと闘い、よりよい信仰者になろうとする内面の努力を「大ジハード」と呼び、こちらがより重要とされます。一方、共同体を守るための外的な戦いは「小ジハード」と位置づけられます。
つまりジハードの中心は、武力ではなく「自分自身との闘い」にあるのです。日々の礼拝や断食に励み、誘惑に打ち克って正しく生きようとする努力そのものが、ムスリムにとってのジハードと言えます。
モスクと共同体(ウンマ)
最後に、ムスリムの信仰生活の場である「モスク(マスジド)」に触れておきましょう。モスクは礼拝のための場所であり、その内部にはメッカの方角を示すくぼみ(ミフラーブ)があるだけで、神や預言者の像・絵は一切ありません。代わりに、クルアーンの美しいアラビア書道や幾何学模様が壁を飾ります。
モスクは単なる祈りの場ではなく、学びや集いの中心でもあり、ムスリムの共同体「ウンマ」を結びつける役割を果たしてきました。五行の多く――集団礼拝、断食明けの祝い、巡礼――が共同で行われることからも、イスラム教が「個人の信仰」であると同時に「共同体の宗教」であることがわかります。
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まとめ
本記事では、ムスリムが実践すべき「五行」と、ハラールやジハードといった信仰生活を詳しく解説しました。如何だったでしょうか。
五行は、信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼という、信仰を日々の行動として形にするものでした。1日5回の礼拝で生活にリズムを刻み、断食で欲望を律し、喜捨で富を清め、巡礼で平等を体現する――イスラム教が、生活のすみずみまで信仰と結びついた宗教であることが、おわかりいただけたかと思います。
次回の記事④では、クルアーンが語る物語――天地創造から、アダム、ノア、アブラハム、モーセ、イエスといった預言者たちの物語を詳しく解説していきます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
📚 シリーズ:イスラム教の原典解説(4/7)