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【道教の原典③】神仙思想と不老不死 ― 仙人・錬丹術・八仙を詳しく解説

【道教の原典③】神仙思想と不老不死 ― 仙人・錬丹術・八仙を詳しく解説

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。本記事は、道教の原典を解説するシリーズの第3弾です。

前回まで(記事①②)は、老子・荘子の哲学を解説しました。今回は、道教を他の宗教と一線を画す存在にしている、不老不死を目指す「神仙思想(しんせんしそう)」の世界を見ていきます。

道教の原典全体の見取り図については、以下のまとめ記事を参照してください。

【神話・宗教の原典解説】道教の原典まとめ ― 老荘思想と道蔵の全記事一覧senkohome.com/myths-religions-origins-taoism/

神仙思想とは ― 死なない「仙人」を目指す

多くの宗教が「死後の救い」を説くのに対し、道教には「そもそも死なずに、この世で永遠に生きる」という、極めて現世的で大胆な願望があります。それが「神仙思想」です。

その目標は、「仙人(神仙)」になることです。仙人とは、修行によって不老不死を得て、自在に空を飛び、霞を食べて生きるとされる超越的な存在です。この願望は古代中国の信仰に根ざし、老荘思想(無為自然・道との一体化)と結びついて、道教の中核をなすようになりました。

その魅力は絶大で、不老不死を渇望した権力者たちをも動かしました。中国を初めて統一した秦の始皇帝は、家臣の徐福(じょふく)に命じ、不死の薬を求めて東方の仙島「蓬莱」へ船団を送ったと伝えられます。漢の武帝もまた、生涯を通じて不老不死を追い求めました。

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仙人になる方法 ― 錬丹術

では、どうすれば仙人になれるのでしょうか。その具体的な技法が「錬丹術(れんたんじゅつ)」です。これは大きく2つの方向に発展しました。

不老不死を目指す「錬丹術」 外丹(がいたん) 水銀や金などを調合し 不死の薬「丹薬」を作って飲む ※ 実際は有毒で命を落とす例も 内丹(ないたん) 体内の「気」を錬り、心身を整える 瞑想・呼吸法・気功・養生 後の気功・太極拳などへ

一つは「外丹(がいたん)」です。これは、水銀(丹砂)や金といった鉱物を炉で調合し、飲めば不死になるとされる「丹薬(仙丹)」を作り出そうとするものでした。化学実験の先駆けともいえますが、皮肉にも丹薬の多くは水銀などを含む猛毒で、それを飲んで命を縮めた皇帝や貴族も少なくありませんでした

そこで次第に主流となったのが、もう一つの「内丹(ないたん)」です。これは、薬に頼るのではなく、自分の体の中にある「気」を、瞑想・呼吸法・体操によって練り上げ、心身を整えて不死に近づこうとするものです。この内丹の技法は、後の気功や太極拳、さまざまな養生法(健康法)の源流となりました。

こうした神仙術の理論を体系的にまとめたのが、4世紀の道士「葛洪(かっこう)」が著した『抱朴子(ほうぼくし)』です。仙人は本当に存在するのか、どうすれば不死になれるのか、薬の作り方は何か――といった神仙思想の集大成として、道教の重要な原典となっています。

仙人になるための実践 ― 導引・服餌・胎息

外丹・内丹という大きな方向のもとで、道教は不老長寿を目指す具体的な養生術を数多く編み出しました。これらは、現代の健康法にも通じるものが少なくありません。

内容
導引(どういん)体を伸ばし関節を動かす体操。気の巡りを良くする。後の気功・太極拳の源流
服餌(ふくじ)松の実・茯苓・霊芝など、不老長寿に良いとされる薬草・鉱物を食べる
胎息(たいそく)母胎の赤子のように、ごく深く静かに呼吸する究極の呼吸法
存思(そんし)体内に宿るとされる神々を心に思い描き、心身を整える瞑想

道教では、人間の体内に「精・気・神(せい・き・しん)」という3つの生命エネルギー(三宝)が宿ると考えました。内丹とは、この精を気に、気を神へと練り上げ、不死の「聖なる胎児(聖胎)」を体内に育てるという、いわば体の中に丹薬を作り出す試みでした。一方で、長寿を妨げるとされた存在もいます。人の体内には「三尸(さんし)」という3匹の虫がいて、庚申(こうしん)の夜に体を抜け出し、天帝にその人の罪を告げ口して寿命を縮めると信じられました。これが、日本にも伝わった「庚申待ち(その夜は眠らずに過ごす)」の風習のもとになっています。

仙人にも段階がある ― 天仙・地仙・尸解仙

ひとくちに「仙人」といっても、その境地にはランクがあると考えられました。葛洪の『抱朴子』などは、仙人を大きく3つの段階に分けています。

仙人の等級内容
天仙(てんせん)最高位。肉体ごと天に昇り、天界で永遠に生きる
地仙(ちせん)天には昇らず、名山や仙境にとどまって不老長寿を保つ
尸解仙(しかいせん)いったん死んだように見せかけ、抜け殻(屍)を残して仙人となる

とりわけ興味深いのが「尸解仙」です。これは、見かけ上は普通の人のように死を迎えながら、実はその肉体(屍)を脱ぎ捨てて仙人へと“羽化”するという考え方で、剣や杖だけを残して姿を消した、といった伝説が数多く残されています。「死」さえも仙人への通過点としてとらえ直すところに、なんとしても不死を求めた神仙思想の執念がにじみます。

八仙 ― 八人の人気者の仙人

数ある仙人の中でも、中国で絶大な人気を誇るのが「八仙(はっせん)」です。8人の個性豊かな仙人のグループで、めでたいしるしとして絵画や工芸品に好んで描かれてきました。

八仙特徴
鉄拐李(てっかいり)鉄の杖と瓢箪を持つ、足の悪い仙人
鍾離権(しょうりけん)団扇で死者をも蘇らせる
呂洞賓(りょどうひん)剣を背負う、八仙の中心的存在。人気が高い
張果老(ちょうかろう)白いロバを逆向きに乗りこなす老仙人
藍采和(らんさいわ)花籠を持つ、性別を超えた風変わりな仙人
韓湘子(かんしょうし)笛の名手
何仙姑(かせんこ)八仙で唯一の女性
曹国舅(そうこくきゅう)高貴な出自の仙人

彼らがそれぞれの宝物(神通力)を使って海を渡る物語「八仙、海を過る」は特に有名で、「各自が得意の力を発揮する」という意味のことわざにもなっています。仙人が、近寄りがたい超越者ではなく、酒を好み、人間味あふれる愛すべき存在として親しまれてきたことが、よくわかります。

西王母 ― 不死を司る女神

仙人の世界を統べる存在として崇められたのが、女神「西王母(せいおうぼ)」です。

西王母は、世界の西の果てにそびえる聖なる山「崑崙山(こんろんさん)」に住み、不老不死を司るとされます。その庭園には、3000年に一度だけ実をつける不死の桃「蟠桃(ばんとう)」が育つとされ、これを食べた者は永遠の命を得るといいます。

西王母は、中国神話においても重要な女神で、英雄・后羿(こうげい)に不死の薬を与えた話(妻の嫦娥が月へ昇る逸話)でも知られます。道教では、この西王母が仙女たちを束ねる最高位の女仙として、絶大な信仰を集めました。

仙境 ― 蓬莱・崑崙・桃源郷

神仙思想は、仙人たちが住むとされる理想郷(仙境)のイメージも豊かに育みました。

仙境内容
蓬莱(ほうらい)東方の海上に浮かぶ仙島。不死の仙人が住む。始皇帝が探させた
崑崙(こんろん)西方にそびえる聖なる山。西王母が住む
桃源郷(とうげんきょう)俗世から隔絶された、争いのない理想の村里

中でも「桃源郷」は、詩人・陶淵明(とうえんめい)の『桃花源記』に描かれた物語に由来します。漁師が川をさかのぼり、満開の桃の林の奥で、戦乱を逃れた人々が外界を知らず平和に暮らす「桃の花咲く理想郷」に迷い込む――この物語から、「桃源郷」は俗世を離れた理想郷の代名詞となりました。文明や争いから離れ、自然の中で素朴に生きるその姿は、老子の説いた「小国寡民」の理想とも深く響き合っています。

神仙思想を伝える原典

最後に、ここまで見てきた神仙思想が、どんな書物(原典)に記されてきたのかを整理しておきましょう。

原典内容
周易参同契(しゅうえきさんどうけい)後漢の魏伯陽の著。『易経』の理論で錬丹(丹薬づくり)を説いた、「万古丹経の王」と称される最古の錬丹書
抱朴子(ほうぼくし)東晋の葛洪(かっこう)の著。仙人の実在を論証し、外丹(金丹)の製法や薬草・呼吸法を体系的にまとめた、神仙思想の代表的原典
黄庭経(こうていきょう)体内の神々や気の巡りを観想する、内丹(体内で丹を練る修行)の根本経典
列仙伝・神仙伝古来の仙人たちの伝記集。さまざまな成仙(仙人になった)譚を伝える

とりわけ葛洪の『抱朴子』は、「不老不死は努力で達成できる」と力強く主張し、外丹術の理論的支柱となりました。やがて、水銀などの丹薬で命を落とす者が相次いだ反省から、丹薬を体外で作るのではなく自らの体内で気を錬る「内丹」へと、修行の重心は移っていきます。これらの原典は、「いかにして人は仙人になれるか」という、道教ならではの探求の記録なのです。

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まとめ

本記事では、道教の神仙思想と不老不死の世界を詳しく解説しました。如何だったでしょうか。

道教は、不老不死の「仙人」になることを目指すという、現世的で大胆な願望を持つ宗教でした。鉱物から薬を作る外丹、体内の気を練る内丹、人気者の八仙、不死を司る西王母、そして桃源郷――こうした豊かなイメージが、中国の文化や芸術を彩ってきたのです。

次回の記事④(最終回)では、こうした思想や信仰が組織化された「教団道教」と、その経典集成「道蔵」を解説していきます。

【神話・宗教の原典解説】道教の原典まとめ ― 老荘思想と道蔵の全記事一覧senkohome.com/myths-religions-origins-taoism/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。