心理学実験

ストループ効果とは|「あか」と青で書かれた文字の色を答えると遅くなる実験と、その使われ方

ストループ効果とは|「あか」と青で書かれた文字の色を答えると遅くなる実験と、その使われ方

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ストループ効果」について解説します。

ストループ効果は、「あか」という文字が青いインクで書かれているときのように、文字の意味とインクの色が食い違っていると、インクの色を答えるのにふだんより時間がかかったり、言い間違えたりする現象のことです。1935年にアメリカの心理学者ジョン・リドリー・ストループが論文で報告したもので、その後90年近くにわたって、心理学の中でもっとも多く再現されてきた実験の1つになっています。

文字を読むことに慣れた大人にとって、目に入った文字は、読もうと思わなくても勝手に読めてしまいます。ストループ効果は、その「勝手に読めてしまう」働きが、色を答えるという別の作業の邪魔をしていることを示したもので、人の注意がどのように働き、何かを抑えるときに脳がどう頑張っているのかを調べる手がかりとして、今も研究や医療の現場で使われています。

この記事のシリーズで紹介してきた実験の多くは、後の追試で結論が揺らいだり、解釈が見直されたりしてきました。その中でストループ効果は、何度やり直しても同じ結果が出る、数少ない「揺るがない」実験の代表だと思います。派手な結論はありませんが、なぜこの現象が起きるのか、そして今どんな場面で使われているのかまで知ると、この地味な実験の見え方も少し変わってくると思います。

まずは試してみてください

ストループ効果は、説明を読むより、実際に体験してみるのが一番分かりやすいと思います。下の図の上の段と下の段、それぞれについて、文字を読むのではなく、文字のインクの色を声に出して答えてみてください。

図解

上の段は、文字の意味とインクの色が一致しているので、すらすら答えられたと思います。下の段は、たとえば青いインクで「あか」と書かれているので、つい「あか」と言いそうになったり、答えるまでに一瞬ためらったりしたのではないでしょうか。この、色を答えるのにひっかかる感じが、ストループ効果です。

1935年の3つの実験

ストループがこの研究を行ったのは、アメリカのジョージ・ピーボディ教員養成大学で博士論文を書いていたときのことだったそうです。論文には、3つの実験が報告されています。

読むほうは邪魔されなかった

1つ目の実験では、参加者に、色の名前を表す単語を声に出して読んでもらいました。一方のカードでは単語が黒いインクで印刷されていて、もう一方のカードでは、単語の意味とは違う色のインクで印刷されていました。

結果として、インクの色が単語の意味と食い違っていても、単語を読む速さはほとんど変わらず、100語を読むのにかかった時間の差は、平均で数パーセント程度だったとされています。つまり、インクの色は、文字を読む作業の邪魔にはほとんどならなかったことになります。

色を答えるほうは大きく遅れた

2つ目の実験では、反対に、インクの色を答えてもらいました。比較のためのカードには、文字ではなく、色のついた四角形が印刷されていて、その色を答えるだけです。もう一方のカードには、意味とは違う色のインクで色の名前が印刷されていました。

結果は、四角形の色を100個答えるのに平均で約63秒かかったのに対し、意味と食い違う色の単語では、約110秒もかかりました。色を答えるという同じ作業なのに、そこに文字が書かれているだけで、時間がおよそ1.7倍に延びたことになります。

1つ目の実験では色が文字の邪魔をしなかったのに、2つ目の実験では文字が色の邪魔を大きくしていました。この一方向だけの干渉が、ストループ効果の一番の特徴です。

練習すると縮まった

3つ目の実験では、色を答える練習を何日も続けると、この遅れが小さくなっていくことが確かめられました。ただし、遅れは小さくはなっても完全には消えず、練習をやめた後には戻っていく傾向も見られたと報告されています。また、色を答える練習をしたことで、今度は逆に、単語を読むときにインクの色が少し邪魔になるという変化も起きていたそうです。

なぜ一方向だけなのか

ストループ効果がなぜ起きるのかについては、いくつかの説明が出されてきました。

読むことは自動的に起きる

もっとも広く知られているのが、自動性による説明です。文字を読むことは、子どもの頃から何万回、何十万回と繰り返してきた作業なので、大人にとってはほとんど意識しなくても自動的に起きてしまいます。一方、インクの色に名前を付けることは、ふだんそれほど練習していない作業です。

そのため、色を答えようとしても、文字が目に入った瞬間に自動的に読みの処理が始まってしまい、その答えを抑え込まないと正しい色が言えない、というわけでしょう。逆に、文字を読むときには、色に名前を付ける処理はそれほど自動的に起きないので、邪魔になりにくいのでしょう。3つ目の実験で、色を答える練習をすると逆向きの干渉が少し生まれたことも、この説明とよく合っています。

2つの答えがぶつかり合う

もう少し細かく見ると、色を答えるときには、頭の中で「あお」(インクの色)と「あか」(文字の意味)という2つの答えの候補が同時に用意され、そのどちらを口に出すかで競争が起きていると考えられています。

1990年には、神経回路の働きをコンピュータで再現するモデルを使った研究も発表されていて、読む処理と色を答える処理の強さの違いだけで、ストループ効果の多くの性質が説明できることが示されました。速いか遅いかではなく、どちらの処理の結びつきが強いかが大事だ、という考え方です。

脳のどこが頑張っているのか

脳の画像を使った研究からは、意味と色が食い違う文字の色を答えるとき、脳の前のほうにある前頭前野や、前帯状皮質と呼ばれる部分が強く働いていることが分かっています。前帯状皮質は、2つの答えがぶつかっていることを検出する役割を、前頭前野は、自動的に出てきた答えを抑えて、目的に合った答えを選ぶ役割を担っていると考えられています。

こうしたことから、ストループ効果を測る課題は、何かを我慢したり、自動的な反応を抑えたりする「実行機能」の働きを調べる検査として広く使われるようになりました。

検査として使われるストループ課題

ストループ課題は、心理学の研究室だけでなく、医療の現場でも使われています。脳の前頭葉に損傷を受けた人や、注意欠如・多動症(ADHD)の人、認知症の初期の人などでは、意味と色が食い違う条件での遅れや間違いが、ほかの人より大きくなりやすいことが知られていて、診断の補助や経過の観察に使われることがあります。

また、年齢による変化も調べられていて、ストループ効果は子どもでは文字を読めるようになるにつれて現れ、大人で安定し、高齢になると遅れがやや大きくなる傾向があると報告されています。

ちなみに、「自我消耗」と呼ばれる研究、つまり「我慢を続けると意志の力がすり減る」という研究でも、我慢する作業の1つとしてストループ課題がよく使われていました。そちらの研究は後の大規模な追試で揺らいでしまったのですが、使われた道具であるストループ効果そのものは、揺らぐことなく再現され続けています。

不安な言葉で遅くなる「感情ストループ」

ストループ課題には、色の名前ではなく、さまざまな単語を色のついたインクで見せて、インクの色を答えてもらう応用版もあります。その中でもよく知られているのが、感情ストループ課題です。

たとえば、クモが苦手な人に、「クモ」「巣」「毛むくじゃら」のような単語と、ふつうの単語を色のついたインクで見せると、クモに関係する単語のときだけ、色を答えるのが遅くなることが分かっています。同じように、不安の強い人は不安に関係する言葉で、うつ状態の人は悲しみに関係する言葉で、色を答えるのが遅れやすい傾向があるそうです。

この場合、単語の意味は色の名前と競争しているわけではないので、元のストループ効果とは少し違う仕組みで遅れが生じていると考えられています。その人にとって気になる言葉が注意を引きつけて離さないために、色を答えるのが遅れる、という説明です。この課題は、不安や恐怖が注意をどう引きつけるのかを調べる研究で使われることが多いです。

ストループ本人のその後

これほど有名な実験を残したストループですが、彼自身が心理学の研究を続けたのは、ほんの数年だけだったようです。博士論文を書き上げた後、彼はテネシー州の大学で教えながら、聖書の研究と教育に人生の大半を捧げ、宗教に関する本を何冊も書いています。

1991年に心理学者のコリン・マクラウドがストループ効果の研究をまとめた総説では、それまでに700本を超える関連研究があったと数えられていて、その数は今ではさらに大きく増えているはずです。正直、本人がほとんど研究を続けなかった実験が、心理学の中でも屈指の頑丈さを誇る結果になったというのは、なかなか面白い巡り合わせだと思います。

ストループ効果についてよく出る疑問

漢字とひらがなで違いはあるのですか?

日本語を使った研究では、色の名前をひらがなで書くか漢字で書くかで、干渉の大きさが違うかどうかも調べられてきました。漢字は形から意味を直接読み取りやすいので、干渉が大きくなるのではないかと考えられ、条件によってはそうした違いを報告した研究もありますが、どの条件でも同じように差が出るわけではないようです。ストループ効果そのものは、ひらがなでも漢字でもはっきり起きることが確かめられています。

外国語ならストループ効果は起きないのですか?

まったく読めない外国語の文字であれば、意味が自動的に頭に浮かばないので、色を答える邪魔にはほとんどならないでしょう。一方で、ある程度読める外国語では、母語よりは小さいものの、はっきりした干渉が起きることが分かっています。外国語の習熟度が上がるほど干渉が大きくなっていくので、ストループ効果は、その言葉をどれだけ自動的に読めるようになっているかの目安として使われることもあります。

関連する実験と記事

目の前にあるものが見えるかどうかも、注意をどこに向けているかで大きく変わるとされています。注意の働きを調べた実験としては、見えないゴリラの実験とストループ効果を並べて読むと分かりやすいと思います。

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一度身についた見方から抜け出せなくなるという点では、問題を解くときに最初の見方に縛られてしまう論理パズルの記事も近い内容です。

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まとめ

本記事はストループ効果について解説しました。如何だったでしょうか。

「あか」という文字が青いインクで書かれていると、インクの色を答えるのに時間がかかるという、ごく単純な実験から、読むという働きは、読もうとしなくても自動的に起きてしまうことと、それを抑えるために脳が頑張っていることが見えてきました。この課題は今も、注意や実行機能を調べる検査として、研究と医療の両方で使われ続けています。

この記事のシリーズでは、後の追試で揺らいだ実験を数多く紹介してきましたが、ストループ効果は90年近く、数えきれないほどの研究で再現され続けている数少ない実験の1つです。派手な結論が無いぶん、誤解されたり誇張されたりすることも少なかったのが、かえってこの実験の強さになっている気がします。

ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。