当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「選択盲(チョイス・ブラインドネス)」について解説します。
選択盲は、自分が選んだはずのものを、選ばなかったほうとこっそりすり替えられても気づかず、それどころか、実際には選んでいないものを「選んだ理由」まで、すらすら説明してしまう現象のことです。スウェーデンのルンド大学の研究者たちが、手品の技法を使って2005年に発表しました。
2枚の顔写真から好みのほうを選んでもらい、選ばなかったほうの写真を手渡すと、多くの人はそのまま受け取って、「笑顔が好きだから」「イヤリングがいいから」などと理由を話し始めます。すり替えに気づいたのは、多く見積もっても4回に1回ほどでした。
自分の好みや意見は、自分が一番よく分かっている、と私たちはふつう思っています。選択盲の実験は、その思い込みに、かなり意地の悪い角度から切り込んだ研究でした。
手品で写真をすり替える
ペッター・ヨハンソンとラース・ホールたちの実験は、とても単純な手順でできています。参加者の前に、2枚の女性の顔写真のカードを並べ、どちらがより魅力的かを選んで指さしてもらいます。選ぶ時間は、2秒、5秒、好きなだけ、の3通りが用意されていました。
参加者が選ぶと、実験者は2枚のカードを伏せて、選ばれたほうのカードを参加者の前に差し出し、もう一度見ながら、なぜそちらを選んだのかを説明してもらいます。これを15組の写真で繰り返すのですが、そのうちの何回かでは、手品で使う二重カードの技によって、差し出されたカードが、実は選ばなかったほうの写真にすり替わっていました。
すり替えに気づいたかどうかは、その場の反応と、実験後の聞き取りの両方で確かめられています。その場ですぐに「これは選んだほうじゃない」と気づいたのは、すり替えた回のうち13%ほどで、実験後の聞き取りで「何かおかしいと思った」という答えまで含めても、26%を超えませんでした。好きなだけ時間をかけて選べる場合でも、多くのすり替えは気づかれないままだったそうです。
選んでいない写真の「選んだ理由」
この実験で本当に驚かされるのは、すり替えに気づかなかった人たちが、選んでいないほうの写真について語った理由のほうです。ある参加者は、実際には選ばなかったほうの写真を見ながら、「この人は輝いて見える。バーで声をかけるならこっちの人。イヤリングもいい」という趣旨の説明をしたと報告されています。元々選んでいた写真の女性は、イヤリングをつけていませんでした。
研究者たちは、すり替えた回とすり替えなかった回の説明を比べ、話の具体性、感情のこもり方、自信のありそうな話しぶりに違いがあるかを調べました。その結果、どの点でも、はっきりした違いは見つからなかったそうです。選んでいないものについての理由も、選んだものについての理由と、見分けがつかないほど自然だったわけです。
理由は後から作られているのかもしれない
この結果は、1977年にリチャード・ニスベットとティモシー・ウィルソンが発表した、人は自分の行動の本当の理由を、思っているほど知らないという有名な論文とつながっています。ニスベットとウィルソンは、人が自分の選択について語る理由は、心の中を直接のぞいた報告というより、もっともらしい説明を後から組み立てたものであることが多い、と論じていました。
ヨハンソンたちは、選択盲をこの問題を実験で確かめる道具として位置づけています。すり替えた回の理由は、少なくとも「選んだときに考えていたこと」ではありえません。それでも人は、目の前の写真を手がかりに、自分が選んだ理由をその場で作り上げてしまうようです。
スーパーでジャムと紅茶をすり替える
顔写真は、ぱっと見ただけでは違いが分かりにくいから気づかなかったのではないか、という疑問もありえます。そこで2010年に、ホールたちはスウェーデンのスーパーに試食のコーナーを作り、買い物客に2種類のジャムを味見してもらったり、2種類の紅茶の香りをかいでもらったりする実験を行いました。
使われたのは、上下に2つの部屋がある特別な瓶でした。客がどちらかを選ぶと、もう一度味見してもらうために瓶を差し出すのですが、そのとき瓶をひっくり返すことで、選ばなかったほうの中身が出てくるようになっていました。
その結果、すり替えに気づかれたのは、全体で3回に1回にも届きませんでした。シナモンとリンゴのジャムと苦いグレープフルーツのジャム、甘いマンゴーの紅茶とアニスの香りのリキュールのペルノーのように、まったく違う味や香りの組み合わせでも、気づかれたのは半分以下だったと報告されています。目で見る顔写真だけでなく、舌や鼻で確かめた好みでも、選択盲は起きていたようです。
意見まですり替わる
選択盲は、好みだけでなく、意見の領域でも確かめられています。2012年の研究では、道徳や社会問題についての質問紙に答えてもらいました。この質問紙はクリップボードに挟まれていて、ページをめくると、仕掛けによって質問文の一部がはがれ、参加者の答えが正反対の意見を示す形に変わるようになっていました。
その後、参加者に自分の答えを読み返してもらい、いくつかの質問について考えを説明してもらうと、書き換えの多くは気づかれないままでした。2つの書き換えのうち少なくとも1つに気づかなかった人は、69%にのぼっています。しかも参加者の多くは、さっき自分が反対していたはずの意見を支持する、筋の通った理由を語っていたそうです。
選挙の前に、答えを反対の陣営に書き換える
2013年には、さらに踏み込んだ研究が発表されています。舞台は、左派と右派の連合が接戦を繰り広げていた2010年のスウェーデンの総選挙でした。
研究者たちは、有権者に投票先を尋ねたあと、2つの陣営で意見が分かれる争点についての質問に答えてもらいました。そして手品の技法で、その答えの一部を反対の陣営寄りに書き換え、書き換えた答えについて理由を説明してもらいました。
書き換えられた答えのうち、気づかれたのは22%にとどまりました。書き換えた答えをもとに集計した結果を見せると、92%の人がその集計結果を受け入れ、最後にもう一度投票先を尋ねると、最大で48%ほどの人が、反対の陣営に投票することも考えうると答えました。当時の世論調査では、投票先を変えうる人は多くても1割ほどとされていたので、研究者たちは、人の政治的な意見は、世論調査が想定しているよりずっと柔らかいのではないか、と論じています。
選択盲はどこまで確かなのか
ここまでの研究をまとめると、次のようになります。
| 研究 | すり替えたもの | 結果 |
|---|---|---|
| 2005年・顔写真 | 選んだ顔写真 | 気づかれたのは多くて26% |
| 2010年・スーパー | ジャムの味・紅茶の香り | 気づかれたのは3回に1回未満 |
| 2012年・質問紙 | 道徳や社会問題についての意見 | 69%の人が少なくとも1つを見逃した |
| 2013年・選挙 | 争点についての答え | 気づかれたのは22% |
選択盲は、ヨハンソンとホールたちのグループを中心に、顔、味、香り、意見、さらには自分の過去の選択の記憶など、さまざまな場面で繰り返し報告されてきました。ほかの研究室でも、似た手順で同じような結果が出ていて、すり替えに気づかない人が多いこと自体は、かなりしっかりした現象だと考えられています。
一方で、慎重に読むべき点もあります。実験では、研究者が目の前でカードを差し出すので、参加者には「研究者が間違えるはずがない」「違うと言うのは気まずい」という気持ちも働いていそうです。実際、2025年には、実験者が頼りなさそうに見えるときには、すり替えに気づく人が増えるという研究も発表されていて、気づかないのか、気づいても言わないのかを完全に分けるのは難しいようです。
また、選挙の実験で「考えうる」と答えた人が、実際に投票先を変えたかどうかまでは分かりません。質問紙の上で意見が動いたことと、実際の行動が変わることのあいだには、まだ距離があると思います。
すり替えられた選択が、その後の好みを変える
それでも、選択盲の研究で個人的に一番考えさせられたのは、すり替えの「その後」です。のちの研究では、すり替えに気づかずに理由を語った人は、少し時間がたってからもう一度同じ写真の組から選ぶと、元々は選ばなかったはずの写真を選びやすくなることが報告されています。
自分で選んだと思い込み、その理由を自分の口で語ったことで、好みのほうが後からついてきてしまう、ということです。正直、選択に理由があるのではなく、理由を語ったことで選択のほうが固まっていく、という順番の逆転は、なかなか受け入れにくいものがあります。ただ、自分の好みを説明するとき、いつも本当にそれが理由なのかを少し疑ってみるくらいの余裕は、持っていてもよさそうです。
選択盲についてよく出る疑問
変化盲とは何が違うのですか?
変化盲は、目の前の光景の変化に気づかない現象で、注意の限界を示しています。選択盲は、変化に気づかないことに加えて、すり替えられたものを自分が選んだものとして受け入れ、その理由まで語ってしまう点に特徴があります。気づきの問題だけでなく、自分の選択をどう説明するかという、自己理解の問題を扱っている研究だと言えるでしょう。
認知的不協和とは関係があるのですか?
自分の選んだものを後から高く評価するようになる、という点では、認知的不協和の研究とよく重なります。ただ、選択盲の研究では、実際には選んでいないものでも、選んだと思い込むだけで好みが変わりうることが示されていて、選んだという事実より、選んだという思い込みのほうが大事なのかもしれません。
関連する実験と記事
自分の行動と気持ちが食い違うと、気持ちのほうを行動に合わせて変えてしまうという認知的不協和の実験は、選択盲の「理由が後からついてくる」という結果とよく似ています。
道を尋ねてきた人が途中で別人に入れ替わっても気づかない変化盲は、選択盲の研究者たちが出発点にした、注意の限界を示す実験です。
まとめ
本記事は選択盲について解説しました。如何だったでしょうか。
顔写真をすり替えても、気づかれたのは多く見積もっても26%で、気づかなかった人は、選んでいない写真について、選んだ写真と見分けのつかない自然な理由を語りました。スーパーのジャムと紅茶、道徳の質問紙、そして選挙の争点でも、同じようなことが起きています。
実験者への遠慮がどこまで混じっているのかなど、まだ議論の残る点もありますが、私たちが語る「選んだ理由」は、選んだ後で作られていることがあるという指摘は、なかなか重いものです。「自分はなぜこれを選んだのか」と考えるとき、少しだけ立ち止まりたくなる研究でした。
ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。
それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
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