心理学実験

ピグマリオン効果とは|「伸びる子」と告げられた生徒は本当に伸びたのか、教室の実験と批判

ピグマリオン効果とは|「伸びる子」と告げられた生徒は本当に伸びたのか、教室の実験と批判

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ピグマリオン効果」について解説します。

ピグマリオン効果は、先生や上司が「この人は伸びる」と期待をかけた相手が、実際にその期待どおりに成績や成果を伸ばしていくという現象のことです。1968年にアメリカの心理学者ロバート・ローゼンタールと小学校の校長レノア・ジェイコブソンが発表した実験で、無作為に選んだだけの生徒を「伸びる子」として先生に伝えたところ、その生徒たちの知能テストの点数が本当に伸びたと報告されたことから、教育やビジネスの世界で広く知られるようになりました。

名前は、自分が彫った女性の像に恋をした彫刻家ピグマリオンの願いを女神がかなえ、像が本物の人間になったというギリシア神話に由来しています。日本でも、部下や子どもを伸ばすには期待をかけることが大事だ、という話の根拠として、研修や子育ての本で繰り返し紹介されてきたと思います。

ただ、この実験は発表された直後から、使われたテストや結果の読み方に厳しい批判が向けられていて、その後の研究では、期待の効果は存在するものの、紹介されているほど大きなものではないという見方が強くなっています。

ネズミの迷路から始まった

ローゼンタールは、教室の実験の前に、研究者の期待が実験の結果をゆがめてしまう問題を研究していました。

1963年に行われた実験では、心理学の学生たちに、迷路を学習させるためのネズミを渡し、一方のグループには「迷路の得意な系統のネズミだ」、もう一方には「迷路の苦手な系統のネズミだ」と伝えました。実際には、どちらも同じ普通のネズミで、無作為に振り分けただけです。

ところが、数日後の結果では、「得意な系統」と言われたネズミのほうが、迷路を速く正確に抜けられるようになっていました。学生たちは、期待しているネズミを丁寧に扱ったり、より熱心に訓練したりしていたのではないかと考えられています。ネズミでこれほどの差が出るなら、人間の子どもと先生のあいだではどうなるのか、というのが、ローゼンタールの次の問いでした。

「伸びる子」と告げられた2割の生徒

ローゼンタールの論文を読んだ小学校の校長ジェイコブソンが連絡を取ったことから、2人の共同研究が始まったとされています。舞台になったのは、サンフランシスコ近郊にある公立の小学校で、本では「オーク・スクール」という仮の名前で呼ばれています。

1964年の春、学校の幼稚園から5年生までの子ども(翌年度の1年生から6年生)全員に知能テストが行われました。先生たちには、このテストは「これから急に学力が伸びる子どもを見つけ出すことができる新しいテスト」だと説明されています。実際には、言葉の知識などを使わずに推論の力を測る、既存の知能テストでした。

新学期が始まると、先生たちは、自分のクラスの中で「テストの結果、この1年で大きく伸びる可能性が高いと分かった生徒」の名前を知らされました。ところが、この生徒たちは、テストの結果とは関係なく、全体のおよそ2割を無作為に選んだだけだったのです。違いがあるのは、先生の頭の中だけでした。

図解

8か月後のテスト

学年の終わり、8か月ほどたったところで、同じ知能テストがもう一度行われました。学校全体で見ると、「伸びる子」と伝えられた生徒の点数は平均で約12ポイント上がり、そうでない生徒の約8ポイントより、4ポイントほど大きく伸びていたと報告されています。

ただし、この差はすべての学年で同じだったわけではありません。差がはっきり出たのは1年生と2年生だけで、1年生では「伸びる子」が約27ポイント、そうでない子が約12ポイントの伸び、2年生では約17ポイントと約7ポイントの伸びでした。3年生から6年生では、2つのグループのあいだにほとんど差がなかったのです。

ローゼンタールとジェイコブソンは、低学年の子どもは先生の働きかけに影響されやすく、まだ評判が固まっていないので先生の期待が入り込む余地が大きいのではないか、と考えました。そして1968年、この結果は『教室のピグマリオン』という本として出版され、教育関係者を中心に大きな反響を呼んだと言われています。

期待はどうやって伝わるのか

先生たちは、もちろん「伸びる子」を特別扱いしようと意識していたわけではなかったでしょう。それでも成績に差が出たのだとすれば、期待はどこかで生徒に伝わっていたと考えるのが自然でしょう。

ローゼンタールは後に、期待が伝わる経路を大きく4つに整理しています。期待している生徒には、温かい雰囲気で接し(笑顔やうなずきが増える)、より多くの、難しい内容を教え、答える機会を多く与えて答えを待つ時間も長くし、より詳しい反応を返す、という違いが、先生自身も気づかないうちに生まれていたのではないか、というものです。

こうした小さな違いが1年間積み重なれば、生徒の学び方や自信に影響が出てもおかしくない、という説明には、それなりの説得力があると思います。

テストそのものへの批判

ところが、『教室のピグマリオン』には、出版された直後から厳しい批判が向けられました。もっとも有名なのは、教育測定の専門家ロバート・ソーンダイクが1968年に書いた書評です。

ソーンダイクが問題にしたのは、使われた知能テストが、もともと幼い子どもに使うことを想定していないものだった点でした。実際に結果の数字を見ると、1年生のあるクラスでは推論の力を測る部分の平均点が極端に低く、ほとんど知的障害と判断されるような点数の子どもが多数含まれていたと指摘されています。テストが年齢に合っていなかったので、最初の点数がでたらめに近く、そこからの「伸び」にも意味が無いのではないか、というのがソーンダイクの主張です。

差がはっきり出たのが、ちょうどテストの信頼性が最も低い1年生と2年生だけだったことも、この批判を裏付けるものとして受け止められました。ソーンダイクは書評の中で、この研究は技術的にあまりに欠陥が多く、研究者自身の目の届く範囲から外に出るべきではなかったとまで書いています。

効果は出るのか、出るならどれくらいか

その後、教室での期待の効果を確かめようとする研究は数多く行われました。結果はまちまちで、同じような効果が出たものもあれば、まったく出なかったものもあるようです。

1984年に教育学者のスティーブン・ラウデンブッシュが、それまでの研究をまとめて分析したところ、興味深い傾向が見つかりました。期待の効果が出ていたのは、主に先生が生徒と知り合ってまだ2週間もたたないうちに「この子は伸びる」と伝えられた場合で、すでに生徒をよく知っている先生に伝えた場合には、効果はほぼゼロだったのです。

これは考えてみれば当然の話かもしれません。先生がすでに自分の目で生徒の力を見ている場合には、外から伝えられた情報よりも自分の観察のほうを信じるので、期待が入り込む余地はほとんどないのでしょう。

小さいけれど、ゼロではない

2005年には、社会心理学者のリー・ジャシムとケント・ハーバーが、35年分の研究をまとめた総説を発表しています。彼らの結論は、教室での期待の効果は確かに存在するが、平均すると小さく、時間がたつと薄れていくことが多い、というものでした。

一方で、経済的に恵まれない家庭の子どもや、偏見を受けやすい集団の子どもには、期待の効果がより大きく出る場合があることも報告されています。先生の期待が低いことが、そうした子どもの成績をさらに下げてしまう可能性があるという点では、むしろ低い期待のほうが問題だと考える研究者も少なくないようです。期待が低いことで成績が下がる現象は、ピグマリオン効果に対して「ゴーレム効果」と呼ばれることもあります。

職場のピグマリオン効果

ピグマリオン効果は、学校だけでなく職場の研究でも調べられています。イスラエルの研究者ドブ・イーデンは、1980年代に軍の訓練の場で、指揮官に「この訓練生たちは能力が高い」と伝える実験を行い、訓練生の成績が上がったことを報告しました。

ただ、職場の研究でも、効果は男性の上司と部下の組み合わせでははっきり出る一方、女性の上司の場合にはあまり出ないなど、条件によってばらつきがあるようです。正直、研修などで「期待をかければ部下は伸びる」と言い切って紹介されているのを見ると、実際の研究はもう少し慎重な話なんだけどな、と思います。

ピグマリオン効果についてよく出る疑問

「ホーソン効果」とはどう違うのですか?

ホーソン効果は、研究の対象として注目されていることを本人が意識するだけで行動が変わる、という現象を指しています。ピグマリオン効果では、変わるのは期待をかけられた本人の意識ではなく、期待をかけた側の接し方で、その違いを通じて相手の成果が変わる、という点が異なります。どちらも、教室や職場の研究で結果をゆがめる要因として注意される点では共通しています。

子育てでも期待をかけたほうがいいのでしょうか?

研究から言えるのは、期待そのものより、期待によって生まれる接し方、たとえば話をよく聞く、答えを急かさず待つ、少し難しいことにも挑戦させるといった関わり方のほうが、子どもに影響している可能性が高いということのようです。逆に、根拠のない過剰な期待は、子どもにとってプレッシャーになることもあるので、期待を口にするより、日々の接し方を少し意識するほうが現実的なのかもしれません。

関連する実験と記事

注目されると成果が上がるという話としてよく並べられるのが、工場での照明の実験から生まれたホーソン効果です。こちらも、元のデータを分析し直すと話がかなり変わってきます。

ホーソン実験とは|照明を暗くしても生産性が上がった工場の実験と、ホーソン効果の再検証senkohome.com/psych-experiment-hawthorne/

1つの良い印象がほかの評価にまで広がっていく心理は、認知バイアスの記事で扱っています。先生が「伸びる子」に向ける見方にも、この働きが関わっていると考えられます。

【認知バイアス】ハロー効果 ─ ひとつの長所が評価のすべてを塗り替えるsenkohome.com/cognitive-bias-halo/

まとめ

本記事はピグマリオン効果について解説しました。如何だったでしょうか。

無作為に選んだだけの生徒を「伸びる子」として先生に伝えたら、その生徒たちの知能テストの点数が本当に伸びたという結果は、人の期待が相手の成果を変えうることを示したものとして、教育やビジネスの世界で広く受け入れられてきました。

ただ、差が出たのは1年生と2年生だけで、その学年ではテストそのものの信頼性が低かったことや、その後の研究では効果が小さく、先生が生徒をまだよく知らないときにしか出にくいことが分かっています。期待をかければ人は伸びる、という単純な話ではないというのが今の理解で、むしろ低い期待が子どもの可能性を狭めてしまうことのほうに目を向けるのが、この研究の生かし方なのかなと思います。

ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。

有名な心理学実験の一覧|ミルグラム実験・スタンフォード監獄実験などの結論は今も正しいのかsenkohome.com/psych-experiment-list/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。