心理学実験

ホーソン実験とは|照明を暗くしても生産性が上がった工場の実験と、ホーソン効果の再検証

ホーソン実験とは|照明を暗くしても生産性が上がった工場の実験と、ホーソン効果の再検証

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ホーソン実験」について解説します。

ホーソン実験は、1924年から1932年にかけて、アメリカのウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた、照明の明るさや休憩時間などの作業条件が、労働者の作業効率にどう影響するのかを調べた一連の研究です。照明を明るくしても暗くしても生産性が上がったという意外な結果から、人は物理的な条件よりも「注目されている」ことや職場の人間関係によって働き方が変わるのだと考えられるようになり、経営学の人間関係論が生まれるきっかけになりました。

観察されていると分かっただけで人の行動が変わる現象は、この工場の名前を取って「ホーソン効果」と呼ばれ、今でも医療の臨床試験や教育の研究で、結果をゆがめる要因として必ずと言っていいほど話題に出てきます。ところが、近年になって当時のデータを分析し直した研究では、教科書で語られてきたような劇的な効果は、記録からはほとんど確かめられなかったという結果も出ています。

本記事では、ホーソン実験として知られる4つの研究の中身を順番に紹介したうえで、そこから生まれた考え方と、その後の再検証で何が分かったのかを整理していきます。

電話機を作っていた巨大な工場

ウエスタン・エレクトリック社は、アメリカの電話会社AT&Tの製造部門にあたる会社で、ホーソン工場はシカゴ近郊のシセロという町にありました。電話機や交換機の部品を作る巨大な工場で、1920年代には数万人が働いていたと言われています。

当時のアメリカの工場では、作業を細かく分け、時間を計って一番効率のよいやり方を決めるという「科学的管理法」の考え方が広まっていました。働く人の効率は、作業の手順や道具、照明や温度といった物理的な条件で決まるはずだ、という前提に立った考え方です。ホーソン工場での研究も、最初はこの前提のもとで始まっています。

4つの研究で何をしたのか

ホーソン実験と呼ばれているものは、実は1つの実験ではなく、8年ほどのあいだに行われた性格の違う4つの研究の総称です。

図解

照明を暗くしても生産性は落ちなかった

最初の研究は、1924年から1927年にかけて、アメリカの全米研究評議会の委員会が中心になって行った照明の実験です。照明の明るさを上げれば作業効率も上がるはずだ、ということを確かめるのが目的でした(この研究には電球を売りたい電機業界の思惑もあったと言われています)。

実験では、照明を変えるグループと、照明を変えない比較用のグループを作って、両方の生産量を比べました。ところが、照明を明るくしたグループの生産量が上がっただけでなく、照明を変えなかった比較用のグループの生産量も同じように上がってしまいました。

さらに照明を少しずつ暗くしていったグループでも生産量は落ちず、月明かりほどの暗さになるまで、生産量はほぼ保たれたと報告されています。照明と生産量のあいだにはっきりした関係が見つからなかったので、研究は失敗とみなされ、正式な報告書もまとめられないまま終わりました。

5人の女性が働いた別室

照明の実験で説明のつかない結果が出たことから、工場では1927年から、もっと条件を細かく管理できる実験を始めます。電話の交換機に使うリレーという部品を組み立てていた女性作業者のうち5人(と、部品をそろえる係の1人)を、ほかの作業場から離れた別室に移して作業してもらうものでした。

この別室では、休憩時間を設ける、休憩の回数を増やす、軽食を出す、終業時刻を早める、週休を増やす、少人数のグループの成果で賃金が決まる仕組みにする、といった条件の変更が、何か月かごとに順番に試されていきました。部屋には観察者が常駐していて、作業者たちと話をしながら、生産量や体調、会話の様子まで細かく記録しています。

結果として、条件を変えるたびに生産量はおおむね上がっていき、数年のあいだに3割ほど増えたとされています。そして何より注目されたのが、休憩も軽食もなくして最初の条件に戻した時期にも、生産量がほとんど落ちなかったことでした。

この結果を見た研究者たちは、生産量を上げていたのは休憩や軽食そのものではなく、特別な部屋で、自分たちの意見を聞いてくれる観察者に見守られながら、仲のよいグループで働いていたことのほうではないかと考えるようになります。

約2万人への面接

1920年代の終わりからは、ハーバード大学の研究者エルトン・メイヨーらが研究に深く関わるようになり、工場で働く人への大規模な面接調査が始まりました。面接を受けた従業員は約2万人にのぼっています。

最初は決められた質問に答えてもらう形でしたが、従業員の話がどうしても質問の外に広がっていくので、やがて従業員が自由に話したいことを話し、面接者はひたすら聞き役に回るという形に切り替えられ、その中で、不満の多くが作業条件そのものではなく、上司との関係や家庭の事情、職場での人間関係に根ざしていることが見えてきました。

話を聞いてもらうだけで気持ちが軽くなったという声も多く、この面接の手法は後のカウンセリングの考え方にも影響を与えたと言われています。

14人の男性が決めていた「ちょうどいい量」

最後の研究は、1931年から1932年にかけて行われたバンク配線作業の観察です。電話交換機の配線をする14人の男性のグループを別室に移し、今度は条件を変えずに、ただ観察者が働く様子を記録しました。

ここで分かったのは、グループの中に「1日にこれくらい作れば十分」という暗黙の決まりがあったことです。会社は作れば作るほど賃金が増える仕組みにしていたのですが、作業者たちはその決まりを超えて作りすぎる仲間を「ガツガツするやつ」と冷やかし、腕を軽く叩いて制止するようなことまでしていました。逆に、決まりより明らかに少ない仲間も「ずるいやつ」として白い目で見られていたそうです。

会社が作った公式の組織とは別に、働く人たちの中には仲間内の決まりや上下関係でできた「非公式組織」があり、それが生産量をかなり左右しているということが、この観察からはっきり見えてきました。

人間関係論の始まり

これらの研究の結果は、1939年にフリッツ・レスリスバーガーとウィリアム・ディクソンが出した報告書や、メイヨーの著作を通じて広く知られるようになりました。

そこで打ち出されたのが、働く人は賃金や作業条件といった経済的・物理的な条件だけで動く存在ではなく、職場の人間関係や、自分が認められているという感覚、仲間の中での居場所によって大きく動かされる存在だ、という考え方です。これは人間関係論と呼ばれ、科学的管理法への反省として、その後の経営学や組織論の流れを大きく変えることになりました。

上司が部下の話を聞く、チームの雰囲気を大事にする、といった今では当たり前の考え方も、源流をたどるとこのホーソン工場の研究に行き着きます。日本でも経営学や看護、教育の教科書でホーソン実験が必ずと言っていいほど取り上げられているのは、そのためだと思います。

「ホーソン効果」という名前

一方、照明の実験やリレー組立の実験の結果は、「人は観察されている、注目されていると感じるだけで、行動を変える」という形でも要約されるようになりました。1950年代になって、この現象には工場の名前を取って「ホーソン効果」という名前が付けられています。

この考え方は研究の方法論の中で特に大きな意味を持ちました。新しい教え方や治療法を試すときに、参加者が「自分は特別な研究に参加している」と感じるだけで成績や症状が良くなってしまうなら、その方法そのものに効果があったのかどうかが分からなくなるからです。医療の臨床試験で比較用のグループにも同じように注目を向ける、といった工夫には、この問題への配慮も込められています。

残っていたデータを分析し直すと

ところが、ホーソン実験の結果そのものについては、かなり早い時期から疑問が出されていました。

リレー組立の5人は途中で入れ替わっていた

1967年にアメリカの社会学者アレックス・ケアリーは、報告書を細かく読み直し、リレー組立の実験では5人のうち2人が、実験の途中で態度が悪いとして別の作業者に入れ替えられていたことを指摘しました。新しく入った2人のうち1人は、家庭の事情でお金を必要としていて、とても熱心に働く人だったと言われています。生産量の伸びのかなりの部分は、この入れ替えで説明できるのではないか、というのがケアリーの主張でした。

その後の研究者からは、別室の作業者は自分たちの生産量の記録を毎日見ることができたので、それが目標になっていたのではないか、少人数のグループの成果で賃金が決まる仕組みに変わったことが大きかったのではないか、といった指摘も出ています。1929年に始まった大恐慌で工場が人員を減らしていく中、別室に選ばれた人たちは職を失わずに済んでいたという事情も無視できないでしょう。

照明実験の元データが見つかった

2011年には、シカゴ大学の経済学者スティーブン・レヴィットとジョン・リストが、失われたと思われていた照明実験の元データを見つけ出し、現代の統計の方法で分析し直した論文を発表しています。

彼らの分析によると、照明を変えたときに生産量がわずかに上がる傾向は一応見られたものの、それは教科書で語られてきたような劇的なものではなく、季節や曜日の影響でかなり説明できるものだったそうです。照明の変更はすべて工場が休みの日曜日に行われていて、もともと生産量が高くなりやすい月曜日がいつも変更の直後にくる形になっていた、というデータの偏りも指摘されています。

2014年にはイギリスの研究者ジム・マッケンブリッジらが、「研究に参加していること」が人の行動を変えるかどうかを調べた研究をまとめて分析しました。その結論は、研究に参加することで行動が変わる場合はあるものの、どんな条件でどれくらい変わるのかは、まだほとんど分かっていないというものでした。「ホーソン効果」という言葉が、中身のはっきりしないまま便利に使われすぎている、という指摘も出ています。

ホーソン実験から今も言えること

ここまでを見ると、ホーソン実験は失敗だったのかというと、私はそうは思っていません。照明実験やリレー組立実験から「注目されると生産性が上がる」と言い切るのは難しくなりましたが、面接調査やバンク配線の観察から分かった、職場には公式の組織とは別に人間関係の決まりがあり、それが働き方を大きく左右しているという発見は、今でもそのまま通用すると思います。

正直、ホーソン実験が有名になった理由は、照明を暗くしても生産性が上がったという意外な話の分かりやすさにあったのだと思いますが、研究として長く生き残ったのは、むしろ地味な面接や観察のほうだった、というのは少し皮肉な結果なのかもしれません。

ホーソン実験についてよく出る疑問

ホーソン工場は今も残っているのですか?

ホーソン工場は、生産をほかの工場に移していった結果、1983年に閉鎖が発表され、広大な敷地の建物は1990年代までにほとんど取り壊されて、今はショッピングセンターなどになっています。工場の象徴だった本館の塔も1987年に取り壊されましたが、給水塔と一部の建物は今も残っているそうです。

「観察者効果」とは違うのですか?

似た言葉として、観察する行為そのものが観察される対象に影響を与えるという意味の「観察者効果」がありますが、こちらは物理学などでも使われる、より広い意味の言葉です。ホーソン効果は、その中でも特に、人が「自分は研究の対象として注目されている」と感じることで行動を変える場合を指して使われることが多いと思います。

関連する実験と記事

数字を目標にしたとたんに、その数字が本来の意味を失ってしまうという法則は、ホーソン工場で生産量の記録が目標になっていたかもしれないという話とよく似ています。

【法則】グッドハートの法則 ─ 指標を目標にすると、良い指標でなくなるsenkohome.com/law-goodhart/

組織の中で人がどう動くかという点では、働く人を2割・6割・2割に分ける働きアリの法則の記事も近い内容になっています。

【法則】働きアリの法則(2-6-2の法則)─ なぜ2割は働かないのかsenkohome.com/law-262/

まとめ

本記事はホーソン実験について解説しました。如何だったでしょうか。

照明を明るくしても暗くしても生産性が上がったという話は、「人は注目されると頑張る」という分かりやすい教訓とともに、100年近く語り継がれてきました。ただ、後の研究では、作業者の入れ替えや賃金の仕組み、大恐慌といった別の要因が見つかり、照明実験の元データからも劇的なホーソン効果はほとんど確かめられなかったことが分かってきています。

一方で、約2万人への面接や、配線作業のグループの観察から見えてきた、職場の人間関係や仲間内の決まりが働き方を左右するという発見は、今の職場にもそのまま当てはまる話だと思います。有名になった派手な結果より、地味な観察のほうが長く生き残った研究として読むと、ホーソン実験はかなり面白いものなのかなと私は考えています。

ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。

有名な心理学実験の一覧|ミルグラム実験・スタンフォード監獄実験などの結論は今も正しいのかsenkohome.com/psych-experiment-list/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。