心理学実験

吊り橋実験(吊り橋効果)とは|揺れる橋の上で声をかけられた男性は、後で電話をかけたのか

吊り橋実験(吊り橋効果)とは|揺れる橋の上で声をかけられた男性は、後で電話をかけたのか

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「吊り橋実験」について解説します。

吊り橋実験は、1974年にカナダの心理学者ドナルド・ダットンとアーサー・アロンが、高く揺れる吊り橋の上と、低く頑丈な橋の上で、女性の調査員が男性の通行人に声をかけ、後で電話がかかってくる割合を比べた実験です。揺れる橋の上で声をかけられた男性のほうが女性に好意を持ちやすかったという結果から、恐怖や緊張によるドキドキを恋愛のドキドキと取り違えるという「吊り橋効果」の名前で、日本ではとりわけよく知られるようになりました。

デートでお化け屋敷や絶叫マシンに行くと距離が縮まる、といった話の根拠として紹介されることが多いので、心理学の実験の中でもかなり身近なものだと思います。ただ、実際の実験で何人が電話をかけたのかを知ると、多くの人は思っていたよりずっと小さな数字だったと感じるのではないでしょうか。

実験の手順と結果、その背景にある理論、そしてその後の研究で分かってきた「この効果が働く条件」まで知ると、恋愛のテクニックとして語られる吊り橋効果とは、少し違う姿が見えてくるはずです。

カナダの渓谷にかかる2本の橋

実験の舞台は、カナダのバンクーバー北部にあるキャピラノ渓谷です。ここには観光名所として知られるキャピラノ吊り橋がかかっていて、ダットンとアロンはこの橋と、同じ川の上流にある別の橋を使って実験を行いました。

キャピラノ吊り橋は、ワイヤーのケーブルに木の板を渡した長さ約140メートル、幅約1.5メートルの橋で、手すりは低く、歩くと左右に揺れたり傾いたりします。橋の下は約70メートルの高さで、岩と浅い急流が広がっていました。

比較用の橋は、太い杉の木で作られた幅の広いしっかりした橋で、下を流れる小川からの高さはわずか3メートルほどです。揺れることもなく、渡るときに怖さを感じる人はほとんどいなかったと思われます。

同じ渓谷の同じ川にかかっていて、来ている人の層もそれほど変わらないけれど、渡っているときの緊張だけが大きく違う、という2本の橋を選んだところに、この実験の工夫がありました。

図解

女性の調査員が渡したもの

実験では、女性と一緒ではない18歳から35歳くらいの男性が橋を渡っているところに、魅力的な若い女性の調査員が声をかけます。彼女は、景色の美しさが創造性にどう影響するかを調べている、と説明して、簡単なアンケートへの記入を頼みました。

アンケートの後半では、片手で顔を覆い、もう片方の手を差し出している若い女性の絵を見せて、その絵から思いつく短い物語を書いてもらいます。この絵を使った物語の課題は、書いた人が心の中で何を考えているのかを読み取るための心理検査の一種で、物語にどれだけ性的な内容が含まれているかが後で採点されることになっていました。

そして最後に、調査員はアンケートの紙の端を破り取って、自分の名前と電話番号を書いて渡し、「研究についてもっと知りたいことがあれば、後で電話をください」と伝えます。名前は橋によって変えてあり、どちらの橋で声をかけられた人からの電話なのかが分かるようになっていました。

電話をかけてきたのは9人と2人

結果は次のようなものでした。

吊り橋頑丈な橋
電話番号を受け取った人18人16人
実際に電話をかけてきた人9人2人
物語の性的な内容の点数高い低い

吊り橋の上で声をかけられた男性は、番号を受け取った人の半数が後で電話をかけてきたのに対し、頑丈な橋のほうでは16人中2人だけでした。絵を見て書いた物語にも、吊り橋の上の男性のほうが性的な内容をはっきり多く含めていたと報告されています。

一方で、同じ手順で男性の調査員が声をかけた場合には、どちらの橋でも電話をかけてきた人はほとんどおらず、物語の内容にも差は出ませんでした。つまり、吊り橋の上の男性が単に人なつっこくなっていたのではなく、女性に対する関心が高まっていたのではないか、というのがダットンとアロンの解釈です。

ドキドキの勘違いという説明

この結果の説明として持ち出されたのが、「感情の二要因理論」と呼ばれる考え方です。1962年に心理学者のスタンリー・シャクターとジェローム・シンガーが提唱したもので、人の感情は、心臓がドキドキするといった体の興奮と、その興奮が何によるものかという頭の中の解釈の2つが組み合わさってできている、とするものでした。

この考え方に立つと、体の興奮そのものには「恐怖」や「恋愛」といったラベルは付いていないことになります。揺れる吊り橋の上で心臓が高鳴っているときに魅力的な女性が目の前に現れると、その興奮の原因を橋の怖さではなく、目の前の女性に惹かれているせいだと取り違えてしまうのではないか、というわけです。この取り違えは、興奮の誤帰属と呼ばれています。

実験室で電気ショックを使ったもう1つの実験

ダットンとアロンは、吊り橋の結果が「そもそも吊り橋を渡るような人は冒険好きで、女性に電話をかけるのもためらわない」という違いのせいではないかという反論にも答えようとしています。

同じ論文の中では、吊り橋を渡り終えてしばらく休んでいた男性と、渡っている最中の男性を比べた実験や、大学の実験室で「これから強い電気ショックを受ける」と伝えた男性と「弱いショックだ」と伝えた男性を比べた実験も報告されていて、いずれも緊張している側のほうが女性への関心が高まる方向の結果が出ています。

実験室のほうの研究では、女性もサクラとして同じショックを受ける参加者のふりをしていたので、この場合は「怖い橋を選ぶ人だから」という説明は当てはまりません。ここまで揃えたうえで、ダットンとアロンは興奮の取り違えという解釈を出したわけです。

少ない人数と、別の読み方

とは言っても、吊り橋実験の結果には弱いところもあります。一番大きいのは人数で、話題の中心になっている「9人と2人」という差は、合わせて11人の電話をもとにしたものです。統計的には意味のある差だとされていますが、1人や2人の違いで印象がかなり変わってしまう規模だというのは、知っておいてよいと思います。

また、声をかけた女性の調査員は実験の狙いを知っていたので、無意識のうちに吊り橋の上では違う態度を取っていた可能性も否定できません。さらに、電話をかけてきた理由が本当に女性への好意だったのかも、実は確かめられていないのです。

別の説明として、緊張が解けたときのほっとした感覚が、その場にいた相手への好印象につながったのではないか、という見方も出されています。怖い状況から抜け出した安心感をくれた相手に好意を持つ、という説明で、こちらでも同じような結果は出てきそうです。

その後の研究で分かった条件

吊り橋実験そのものの追試は多くありませんが、「体が興奮しているとき、目の前の相手への評価が変わるか」という問いについては、その後もかなりの数の研究が行われています。1998年にはこうした研究をまとめて分析した論文も出ていて、全体としては、興奮が相手への好意を強める方向に働くという傾向が確かめられています。

ただし、その中で見えてきたのは、この効果がいつでも好意を強めるわけではない、ということでした。

魅力的でない相手には逆効果になる

1981年に行われた実験では、男性の参加者にその場で2分間走ってもらうか、15秒だけ走ってもらうかで興奮の度合いを変えたうえで、ある女性が話している映像を見せ、その女性の印象を答えてもらいました。

映像の女性が魅力的に見えるように撮られていた場合は、たくさん走った人のほうが彼女をより魅力的だと評価しました。ところが、魅力的でないように撮られていた場合は、たくさん走った人のほうが彼女をより魅力的でないと評価したのです。

つまり、体の興奮は好意そのものを生み出すというより、「もともと感じている印象を強める」方向に働くのではないかと考えられています。最初から印象が良い相手ならより良く、そうでない相手ならより悪くなるということで、恋愛のテクニックとして使うには、なかなか扱いが難しい話になってきます。

恋人と一緒だと変わらない

2003年にはアメリカの遊園地で、ジェットコースターに乗る前と乗った後の人に異性の顔写真を見せ、魅力を評価してもらう研究も行われています。ここでは、恋人ではない人と一緒に乗った人は乗った後のほうが写真の人物を魅力的と評価した一方で、恋人と一緒に乗った人では、乗る前と乗った後で評価がほとんど変わらなかったと報告されています。

すでに興奮の理由として分かりやすい相手が隣にいる場合には、取り違えが起きにくいのかもしれません。正直、恋人同士で絶叫マシンに乗っても写真の人を魅力的に感じない、というのは当たり前な気もしますが、興奮の取り違えがどんな条件で起きるのかを考えるうえでは面白い結果だと思います。

吊り橋実験についてよく出る疑問

女性が男性に声をかけられた場合も同じなのですか?

元の実験は男性の通行人だけを対象にしていて、女性の側の反応は調べられていません。その後の興奮と好意をめぐる研究には女性の参加者を含めたものもあり、女性でも同じ方向の傾向が見られたという報告はありますが、元の吊り橋の場面をそのまま男女を入れ替えて確かめたわけではないので、ここは分かっていない部分が多いと思います。

お化け屋敷のデートは本当に効果があるのですか?

実験で示されたのは、揺れる橋の上で会った相手への関心が高まったという結果までで、それが交際につながったかどうかは追跡されていません。先ほどの研究のように、興奮はもともとの印象を強める方向に働くという見方もあるので、相手がすでに好意を持ってくれているかどうかによって、結果は大きく変わってくるのではないかと考えられます。

関連する実験と記事

吊り橋実験と同じように、少ない人数の実験から生まれた結論が後の研究で見直されている例としては、マシュマロテストがよく似た道をたどっています。

マシュマロテストとは|待てた子は成功する?2018年の大規模な追試で小さくなった関係senkohome.com/psych-experiment-marshmallow/

最初に受けた印象がほかの評価にまで広がっていく心理は、認知バイアスの記事でも扱っています。

【認知バイアス】ハロー効果 ─ ひとつの長所が評価のすべてを塗り替えるsenkohome.com/cognitive-bias-halo/

まとめ

本記事は吊り橋実験について解説しました。如何だったでしょうか。

揺れる吊り橋の上で声をかけられた男性のほうが、後で女性に電話をかけてきやすかったという結果は、体のドキドキを恋愛のドキドキと取り違えるという分かりやすい説明とともに、50年近く語り継がれてきました。一方で、実際に電話をかけてきたのは9人と2人という小さな規模の結果で、その後の研究では、興奮はもともとの印象を強める方向に働くという、少し条件付きの話になってきています。

吊り橋効果を恋愛のテクニックとして紹介する記事は多いのですが、実験の中身を見てみると、どちらかというと人が自分の感情の理由をどれだけ取り違えやすいかを示した研究として読んだほうが、ずっと面白いと思います。

ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。

有名な心理学実験の一覧|ミルグラム実験・スタンフォード監獄実験などの結論は今も正しいのかsenkohome.com/psych-experiment-list/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。