心理学実験

ボボ人形実験とは|大人が人形を殴る姿を見た子どもは、同じ言葉と動きで殴り始めた

ボボ人形実験とは|大人が人形を殴る姿を見た子どもは、同じ言葉と動きで殴り始めた

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ボボ人形実験」について解説します。

ボボ人形実験は、カナダ出身の心理学者アルバート・バンデューラが1961年にスタンフォード大学で行った、大人が「ボボ人形」と呼ばれる空気で膨らませた起き上がりこぼしの人形を殴ったり蹴ったりする様子を子どもに見せ、その後で子どもが同じように人形を攻撃するかを調べた実験です。子どもたちは、大人がしていた動きや言葉をそっくりそのまままねて人形を攻撃し、人は自分で体験しなくても、他人の行動を見るだけで新しい行動を学ぶことを示した実験として知られるようになりました。

この実験は、テレビやゲームの暴力表現が子どもに影響するのか、という議論の中で、半世紀以上にわたって繰り返し引用されてきました。一方で、そもそも殴るために作られたおもちゃを殴っただけで、本当の攻撃性を測ったことにはならないという批判も、早い時期から出されています。

続編の実験で分かったことまで含めて読むと、この実験の結果が現実の暴力の話にどこまで当てはまるのかは、紹介されているほど単純な話ではないように思います。

罰も褒美もなく学ぶことはあるのか

当時の心理学では、スキナーのオペラント条件づけのように、人も動物も、自分の行動が褒められたり罰されたりすることで学んでいく、という考え方が主流だったようです。ただ、それだけだと、子どもが言葉や振る舞いをあれほど速く身につけていくことをうまく説明できないのではないでしょうか。

バンデューラは、人はいちいち自分で試して報酬や罰を受けなくても、他人の行動を見て、それをまねすることで学べるのではないかと考えていました。その考えを確かめるために、攻撃という、はっきり観察できて真似されているかどうかも分かりやすい行動を選んだのでしょう。

大人が人形を殴るのを見た子どもたち

実験に参加したのは、スタンフォード大学の付属保育園に通う3歳から6歳くらいの子ども72人で、男の子と女の子が36人ずつでした。子どもたちは、次のようなグループに分けられています。

グループ見たもの
攻撃的なお手本大人がボボ人形を激しく攻撃する様子
穏やかなお手本大人がボボ人形を無視して、静かにおもちゃで遊ぶ様子
対照群大人のお手本を見ない

お手本を見るグループは、さらに大人が男性か女性か、子どもと同じ性別か違う性別かでも分けられていて、全部で8つの条件と対照群に分かれていました。

図解

小槌で叩き、上に座り、「鼻を殴れ」と言った

攻撃的なお手本の条件では、子どもが部屋の隅で工作をしているあいだに、同じ部屋の大人がボボ人形への攻撃を始めます。人形を床に倒してその上に座り、何度も鼻を殴り、木の小槌で頭を叩き、空中に放り投げ、部屋の中で蹴り回す、という一連の行動を、「鼻を殴れ」「やっつけろ」「ポーン」といった決まった言葉とともに、10分ほど続けたそうです。

ここで大事なのは、大人の攻撃が、普通の子どもが自然にはしないような独特の動きと言葉で組み立てられていたことです。人形の上に座る、小槌で頭を叩く、「ポーン」と言うといった行動は、子どもが後でそれをしたときに、お手本をまねたものだとはっきり分かるように選ばれていました。

わざと少し不機嫌にさせてから

お手本を見た後、子どもは別の部屋に連れて行かれ、とても魅力的なおもちゃで遊ばせてもらいます。ところが遊び始めて少しすると、実験者が「このおもちゃはほかの子のためにとっておくことにした」と言って、取り上げてしまいます。

この手順は、子どもを少し不機嫌にさせて、どのグループの子どもにも同じくらい攻撃したくなる気持ちを起こさせるためのものだったとされています。その後、子どもはボボ人形や小槌、ボールやクレヨン、人形の家などが置かれた部屋に1人で入れられ、20分間の様子がマジックミラー越しに観察されました。

まねされた動きと言葉

結果は、バンデューラの予想どおりでした。攻撃的なお手本を見た子どもたちは、大人がしていた動きをそっくりそのまま再現し、人形の上に座って鼻を殴り、小槌で頭を叩き、「ポーン」と言いながら蹴り飛ばしたのです。

穏やかなお手本を見た子どもや対照群の子どもでも、ボボ人形を叩くことは多少ありましたが、お手本と同じ独特の動きや言葉はほとんど見られませんでした。攻撃的なお手本を見た子どもたちは、それに加えて、お手本が使っていなかった方法でも人形を攻撃し、おもちゃの銃を撃つまねをするなど、攻撃的な遊び全体が増えていたと報告されています。

性別による違いもありました。男の子のほうが女の子より体を使った攻撃をまねることが多く、まねされやすかったのは、特に男性のお手本だったそうです。言葉の攻撃については、女の子は女性のお手本をよくまねする傾向が見られています。バンデューラは、子どもは自分と似ている相手や、その行動がその性別に「ふさわしい」と思える相手の行動を、より取り入れやすいのではないかと考えました。

映像でもアニメでも同じことが起きた

1963年、バンデューラたちは続編の実験を行っています。今度は、大人がボボ人形を攻撃する様子を、目の前で見せるのではなく、映像で見せたらどうなるかを調べたものです。

映像の種類は、本物の大人が攻撃する様子をそのまま撮影したもののほかに、大人が黒猫の着ぐるみを着て、アニメのような背景の前で同じ攻撃をする映像も用意されていました。結果として、映像で見た子どもも、着ぐるみのアニメ風の映像を見た子どもも、目の前でお手本を見た子どもと同じくらい攻撃的な行動をまねたと報告されています。

当時はアメリカの家庭にテレビが急速に広まっていた時期で、この結果は大きな注目を集めたと言われています。テレビの暴力表現が子どもに与える影響をめぐる議会での議論にも、バンデューラの研究はたびたび取り上げられることになります。

学ぶことと、やることは違う

1965年の実験では、もう1つ重要なことが分かりました。今度は、映像の最後で、ボボ人形を攻撃したお手本の大人が、別の大人から褒められてお菓子をもらう場合、叱られて叩かれる場合、特に何も起きない場合の3つの結末を用意しました。

自由に遊ばせたときには、お手本が叱られる結末を見た子どもは、ほかのグループより攻撃をまねる回数が少なくなりました。ここまでは、他人が受けた罰を見て行動を控えた、という分かりやすい結果です。

面白いのはその後です。実験者が子どもたちに「さっきの人がしたことを、できるだけたくさんやってみせてくれたら、ジュースとシールをあげるよ」と頼むと、叱られた結末を見た子どもたちも、ほかの子どもと同じくらいお手本の行動を正確に再現してみせたのです。

つまり、叱られる場面を見た子どもたちも、攻撃の仕方そのものはしっかり学んでいて、ただそれを自分から実行しなかっただけだったことになります。バンデューラはこの結果から、「学習すること」と「実際に行動に移すこと」は別の過程だと考え、見て学ぶ仕組みを社会的学習理論としてまとめました。後に彼は、自分にはそれができるという感覚を表す「自己効力感」の考え方も打ち出し、教育や心理療法の分野に大きな影響を与えています。

殴るための人形だったという批判

ボボ人形実験には、早い時期からいくつかの批判が出されていました。一番よく言われるのは、ボボ人形はもともと叩いて遊ぶためのおもちゃだという点です。叩いても起き上がってくる人形を叩くのは、その人形の正しい遊び方であって、人間への攻撃性とは別のものではないか、というわけです。

実際、この人形は叩かれても起き上がるように作られていて、子どもたちが「叩いて遊ぶもの」としてお手本どおりに遊んだだけだった可能性も否定できないでしょう。子どもたちが、大人に期待されていることを読み取って、それに応えようとしていた可能性もあるのではないかと思います。

また、実験はお手本を見た直後の、短い時間の行動を見たもので、その影響がどれくらい続くのかは分かりませんでした。実際の生活の中で、テレビやゲームの暴力表現を見た子どもが、人間に対して暴力をふるうようになるのかという問いには、この実験だけでは答えられないと思います。

映像の暴力をめぐる議論は今も続いている

その後、テレビや映画、ゲームの暴力表現と攻撃性の関係については、数えきれないほどの研究が行われてきました。暴力的な映像やゲームに触れた直後には、攻撃的な考えや行動が一時的に増えるという研究がある一方で、長い目で見たときに現実の暴力犯罪を増やすという、はっきりした証拠は見つかっていない、という研究者も少なくありません。

たとえば、アメリカでは暴力的なゲームの売り上げが大きく伸びた時期に、若者の暴力犯罪はむしろ減っていたという指摘もあり、研究者の間でも意見がはっきり分かれているのが現状のようです。正直、ボボ人形実験の結果を根拠に「暴力的なゲームは子どもを暴力的にする」とまで言い切るのは、かなり飛躍があると思います。

ボボ人形実験についてよく出る疑問

子どもたちは実験の後どうなったのですか?

実験の後の子どもたちを追跡した記録はほとんど残っていないようです。ただ、実験は保育園の中で短い時間行われたもので、子どもたちが叩いたのも人形だけでした。今の基準で見ると、子どもにわざと攻撃的な行動を見せ、さらにおもちゃを取り上げて不機嫌にさせる手順には、倫理的な配慮が足りないという指摘もあり、同じ形の実験を今行うのは難しいと思います。

良い行動も見るだけで学ぶのですか?

バンデューラは攻撃だけでなく、人を助ける行動や、怖いものに近づく行動も、お手本を見ることで学べることを示しています。たとえば、犬を怖がる子どもに、ほかの子どもが楽しそうに犬と遊ぶ様子を何度か見せると、怖がっていた子どもも犬に近づけるようになったという研究があり、これは今でも恐怖症の治療に使われる考え方の1つになっています。

関連する実験と記事

ボボ人形実験は、報酬と罰で行動が変わるというスキナーの考え方に、「見るだけで学ぶ」という別の道を付け加えた実験でした。スキナーの研究は、こちらの記事で紹介しています。

スキナー箱とは|レバーを押すネズミと迷信を覚えたハト、ガチャがやめられない仕組みsenkohome.com/psych-experiment-skinner-box/

子どもを対象にした実験の結論が、後の大規模な研究で見直されたという点では、マシュマロテストもよく似た経過をたどっています。

マシュマロテストとは|待てた子は成功する?2018年の大規模な追試で小さくなった関係senkohome.com/psych-experiment-marshmallow/

まとめ

本記事はボボ人形実験について解説しました。如何だったでしょうか。

大人がボボ人形を攻撃する様子を見た子どもたちが、その独特の動きや言葉までそっくりまねたという結果は、人は自分で報酬や罰を受けなくても、他人を見るだけで新しい行動を学ぶことを示したものとして、心理学の考え方を大きく変えました。叱られる場面を見た子どもも行動そのものはしっかり学んでいた、という続編の結果も含めて、学習の理論としての価値は今も変わっていないと思います。

一方で、もともと叩いて遊ぶ人形を叩いたことを攻撃性と呼べるのか、という批判もあり、この実験だけで映像やゲームの暴力が現実の暴力につながるとまでは言えないというのが、今のところ妥当な読み方でしょう。

ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。

有名な心理学実験の一覧|ミルグラム実験・スタンフォード監獄実験などの結論は今も正しいのかsenkohome.com/psych-experiment-list/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。