当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ストレンジ・シチュエーション」について解説します。
ストレンジ・シチュエーションは、1歳ごろの赤ちゃんを、母親と一緒に見知らぬ部屋に連れて行き、母親が部屋を出て行ったり戻ってきたりする場面で赤ちゃんがどう振る舞うかを観察して、親子の愛着の型を調べる実験の方法です。1960年代から70年代にかけて、アメリカの心理学者メアリー・エインズワースが作り上げ、安定型や回避型といった愛着の型の分け方は、今でも発達心理学の基本として広く使われています。
赤ちゃんが母親から離されたときに泣くかどうかよりも、母親が戻ってきたときにどう迎えるかに注目したのが、この方法の大きな特徴でした。わずか20分ほどの観察で、1年間の親子の関わりの積み重ねが見えてくる、と考えられたようです。
一方で、同じ方法を世界のさまざまな国で使ってみると、型の割合が国によってかなり違うことも分かってきました。中でも、札幌で行われた研究では、回避型の赤ちゃんが1人もいなかったという結果が出て、この方法がどの文化にも同じように当てはまるのかが議論になっています。
ウガンダとボルティモアの観察から
エインズワースは、イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィのもとで、子どもと養育者との結びつきを研究していました。ボウルビィの愛着理論は、赤ちゃんにとって養育者は、怖いときに逃げ込む安全な避難所であり、同時に、外の世界を探検するための安全な基地でもある、という考え方です。
エインズワースは1950年代にウガンダで、そして1960年代にはアメリカのボルティモアで、赤ちゃんのいる家庭を何度も訪ね、母親と赤ちゃんのやりとりを細かく記録しました。ボルティモアの研究では、生まれてから1年間、家庭を毎月のように訪れて観察したとされています。
そのうえで、1歳になった赤ちゃんと母親に、研究室の見知らぬ部屋での短い実験に参加してもらいました。ストレンジ・シチュエーションは、こうして生まれたとされています。
きっかけは戦争で親と離れた子どもたち
ボウルビィが愛着の研究を始めたきっかけの1つは、第二次世界大戦の後、親と離れて施設で育った子どもたちに、心の発達の問題がよく見られたことでした。ボウルビィは1951年に世界保健機関(WHO)の依頼で、こうした子どもたちについての報告書をまとめ、幼いころの養育者との結びつきが、その後の心の健康にとってどれほど大きな意味を持つかを訴えています。エインズワースの観察は、この考え方を、ふつうの家庭の親子の中で確かめようとするものでもありました。
8つの場面
ストレンジ・シチュエーションは、1つあたり3分ほどの8つの場面からなり、全体で20分ほどかかります。
| 場面 | 起きること |
|---|---|
| 1 | 母親と赤ちゃんが、おもちゃのある部屋に案内される |
| 2 | 母親と赤ちゃんだけで過ごし、赤ちゃんは部屋を探索する |
| 3 | 見知らぬ大人が入ってきて、母親と話した後、赤ちゃんに近づく |
| 4 | 母親が部屋を出て、見知らぬ大人と赤ちゃんが残される(1回目の分離) |
| 5 | 母親が戻ってきて、見知らぬ大人は出て行く(1回目の再会) |
| 6 | 母親も部屋を出て、赤ちゃんが1人きりになる(2回目の分離) |
| 7 | 見知らぬ大人が戻ってくる |
| 8 | 母親が戻ってくる(2回目の再会) |
赤ちゃんが強く泣き続けるなど、つらそうな様子を見せたときには、離れている時間を短く切り上げることになっています。エインズワースが特に再会の場面を重く見たのは、赤ちゃんが母親に何を期待しているかが、そこに一番よく表れると考えたからでした。困ったときに近づけば受け止めてもらえると信じている赤ちゃんなら、戻ってきた母親にすぐ近づいて落ち着くはずですし、そう信じられていない赤ちゃんなら、近づくのを避けたり、近づきながらも怒ったりするかもしれない、というわけです。
観察する人は、母親がいるときに赤ちゃんがどれくらい部屋を探索するか、母親がいなくなったときにどう反応するか、そして母親が戻ってきたときにどう迎えるかを記録していきました。
愛着の4つの型
エインズワースたちは、赤ちゃんの反応を大きく3つの型に分けました。
安定型の赤ちゃんは、母親がいると安心して部屋を探索し、母親がいなくなると寂しがって泣くこともありますが、母親が戻ってくると喜んで近づき、抱っこされると落ち着いて、また遊びに戻っていきます。
回避型の赤ちゃんは、母親がいなくなってもあまり動揺した様子を見せず、母親が戻ってきても目をそらしたり、近づくのを避けたりします。
アンビバレント型(抵抗型)の赤ちゃんは、母親がいるときから不安そうで部屋をあまり探索せず、母親がいなくなると強く泣き、戻ってきた母親に抱っこを求めながらも、怒ったように押しのけたりして、なかなか落ち着きません。
エインズワースたちが1978年にまとめた結果では、安定型が66%、回避型が22%、アンビバレント型が12%でした。その後、心理学者のメアリー・メインたちが、どの型にも当てはまらない、戻ってきた母親に近づきかけて途中で固まってしまうといった、まとまりのない反応を見せる赤ちゃんがいることに気づき、無秩序型という4つ目の型を加えています。
家での関わりとのつながり
エインズワースが重視したのは、こうした型が、家での母親の関わり方と結びついていたことでした。家庭での観察で、赤ちゃんの泣き声やしぐさにすばやく適切に応えていた母親の赤ちゃんは、安定型になることが多かったと報告されています。
無秩序型と子どもの環境
4つ目に加えられた無秩序型は、その後の研究で、虐待やネグレクトを受けた子どもや、親自身が強い不安やトラウマを抱えている家庭の子どもに多く見られることが報告されてきました。子どもにとって、安心を求めて近づくべき相手が、同時に怖い相手でもあるという矛盾が、まとまりのない反応として表れるのではないか、と考えられています。
ただし、無秩序型と判定されたからといって、その家庭で虐待が起きているという意味ではありません。研究のために作られた分類を、1回の観察だけで家庭の診断のように使うことには、研究者自身からも注意が呼びかけられています。
国によって割合が違った
ストレンジ・シチュエーションは、その後、世界のさまざまな国で使われるようになったと言われています。1988年には、オランダの心理学者マリヌス・ファン・アイゼンドールンとピーター・クローネンバーグが、8か国32の研究、合わせて2,000組近い親子の結果をまとめています。
全体では、安定型が65%、回避型が21%、アンビバレント型が14%と、アメリカの元の研究に近い割合でした。ところが国ごとに見ると、西ドイツの研究では回避型が多く、日本やイスラエルの研究ではアンビバレント型が多いといった違いが見られました。
たとえば、西ドイツのビーレフェルトで行われた研究では、回避型が49%にのぼり、安定型は33%にとどまっています。一方、1歳の赤ちゃんとその母親60組を対象に札幌で行われた研究では、安定型が68%、アンビバレント型が32%で、回避型は1人もいませんでした。
日本の赤ちゃんには「見知らぬ状況」すぎた?
この札幌の結果をどう読むかについては、日本の研究者たちの間でも議論があったようです。
1986年に北海道大学の紀要に掲載された論文では、日本の母親と赤ちゃんは、ふだんから体を寄せ合って過ごすことが多く、赤ちゃんが母親から離される経験そのものがとても少ないため、この手順は日本の赤ちゃんにとって見知らぬ状況すぎて、つらすぎるのではないか、という見方が紹介されています。実際、札幌の研究では、日本の赤ちゃんは手順の最初の段階からかなり強いストレスを示していたそうです。
つまり、アンビバレント型が多かったのは、日本の親子関係が不安定だからではなく、赤ちゃんにとって経験したことのないほどの分離だったために、母親が戻ってきてもすぐには落ち着けなかったのではないか、というわけです。ただ、同じ論文では、日本のほかの研究ではアメリカに近い割合が出ていたことも紹介されていて、その後の日本の研究でも、世界の平均に近い割合が報告されています。
国の違いより、国の中の違いのほうが大きい
ファン・アイゼンドールンたちの分析では、同じ国の中の研究どうしの違いのほうが、国と国との違いよりも大きかったことも指摘されています。たとえばイスラエルでは、都市の家庭の結果はアメリカに近く、キブツと呼ばれる共同体で育った赤ちゃんの結果とは大きく違っていたそうです。国ごとの文化の違いだけで愛着の型の割合を語るのは難しい、ということでしょう。
ストレンジ・シチュエーションについてよく出る疑問
愛着の型は一生変わらないのですか?
1歳のときの型が、その後もある程度続くことは多くの研究で報告されていますが、家庭の環境が大きく変わったときなどには、型が変わることも珍しくないとされています。また、母親との関係では安定型でも、父親との関係では別の型になるといったように、愛着の型は子どもの性格というより、その相手との関係の特徴だと考えられています。
「大人の愛着スタイル」と同じものですか?
最近よく目にする愛着スタイル診断のような大人向けの分類は、ストレンジ・シチュエーションの考え方をもとに発展したものですが、大人の場合は質問紙や面接で調べるもので、1歳の赤ちゃんの行動の観察とは方法がかなり違います。自分の恋愛の傾向を説明するときに使われることも多いのですが、赤ちゃんの研究の結果をそのまま大人に当てはめるのは少し無理があるように思います。
関連する実験と記事
子ザルが、ミルクの出る針金の母より、やわらかい布の母に懐いたというハーロウの実験は、エインズワースの愛着の研究の土台になった研究の1つです。
子どもが他人の思い込みを理解できるようになる時期を調べたのが、サリーとアンの課題です。
まとめ
本記事はストレンジ・シチュエーションについて解説しました。如何だったでしょうか。
母親が部屋を出て行き、戻ってくるまでの20分ほどの観察から、赤ちゃんと養育者との関係の特徴を読み取るという方法は、安定型・回避型・アンビバレント型・無秩序型という分け方とともに、今も発達心理学の基本になっています。
一方で、札幌の研究で回避型が1人もいなかったように、同じ手順でも、赤ちゃんがふだんどんな暮らしをしているかによって、その場面の意味はかなり違ってくるようです。個人的には、愛着の型を「良い子・悪い子」の診断のように受け取るより、その親子がふだんどんなふうに過ごしているかを映す1枚の写真くらいに考えておくのが、ちょうどいい距離感だと思っています。
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