当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「スキナー箱」について解説します。
スキナー箱は、アメリカの心理学者B・F・スキナーが1930年代に考案した、レバーを押したりボタンをつついたりするとエサが出てくる小さな箱にネズミやハトを入れ、行動が報酬によってどう変わっていくのかを調べる実験装置です。この装置を使った研究から、行動の後に良いことが起きるとその行動が増え、嫌なことが起きると減るという「オペラント条件づけ」の仕組みが詳しく調べられ、今の教育やしつけ、ゲームやアプリの設計にまで大きな影響を与えています。
「スキナー箱」という言葉は、最近では、報酬を小出しにして人をやめられなくするスマホゲームやSNSのたとえとしてもよく使われています。実際、スキナーが箱の中のハトで見つけた「報酬をいつ出すかわからないときほど、行動がやめられなくなる」という性質は、ギャンブルやガチャの仕組みとほとんど同じものです。
スキナー箱の作りと、そこで分かったオペラント条件づけの仕組みを押さえておくと、有名な「迷信行動のハト」の実験や、スキナーの考え方がその後どう受け止められてきたのかも、ずっと分かりやすくなると思います。
自分から行動を起こす動物を調べる箱
スキナーは1920年代の終わりにハーバード大学の大学院で研究を始めた心理学者で、ワトソンと同じく、心の中を推測するのではなく、外から観察できる行動だけを扱う行動主義の立場に立っていました。
ただ、スキナーが注目した行動は、パブロフの犬のような「刺激に対して自動的に起きる反射」とは少し違っていました。動物がエサを探して歩き回ったり、何かを押してみたりするような、動物が自分から起こす行動のほうです。そうした行動が、その後に何が起きるかによってどう変わっていくのかを、正確に測りたいと考えたわけです。
そこで作られたのが、後に「スキナー箱」と呼ばれるようになる装置でした。スキナー自身はこの呼び方をあまり好まず、「オペラント実験箱」と呼んでいたそうです。
レバーとエサ皿と記録装置
ネズミ用の箱は、片手で抱えられるくらいの小さな箱で、壁にレバーが1本と、その下にエサが出てくる皿が付いています。ネズミがレバーを押すと、自動的にエサの粒が1つ皿に落ちてくる仕掛けです。ハト用の箱では、レバーの代わりに、くちばしでつつく丸いキーが付いていました。
スキナー箱の大きな工夫は、行動を自動で記録する装置にありました。レバーが押されるたびに、紙の上をペンが少しずつ上に動き、紙は一定の速さで横に送られていきます。こうしてできる線のグラフは累積記録と呼ばれ、線の傾きを見るだけで、動物がどれくらいの頻度でレバーを押していたのかが一目で分かるようになっていました。研究者がずっと見張っていなくても、何時間もの行動が正確に残るので、条件を細かく変えた実験を大量に行えるようになったわけです。
行動の後に起きることで行動が変わる
箱に入れられたばかりのネズミは、あちこちを嗅ぎ回るうちに、たまたまレバーに触れて押してしまいます。するとエサが出てきます。これを何度か繰り返すうちに、ネズミはレバーを押す回数をどんどん増やしていき、やがてレバーの前から離れずに押し続けるようになります。
このように、行動の後に起きる結果によってその行動の起きやすさが変わることを、スキナーはオペラント条件づけと呼びました。パブロフの条件反射が、刺激と刺激の結びつきを学ぶものだったのに対して、こちらは「自分の行動」と「その結果」の結びつきを学ぶものだと言えます。
結果の種類によって、行動の変わり方は4つに分けて整理されています。
| 種類 | 何が起きるか | 行動は |
|---|---|---|
| 正の強化 | 行動の後に良いものが与えられる(エサが出る) | 増える |
| 負の強化 | 行動の後に嫌なものがなくなる(電気が止まる) | 増える |
| 正の罰 | 行動の後に嫌なものが与えられる(電気が流れる) | 減る |
| 負の罰 | 行動の後に良いものが取り上げられる(エサが消える) | 減る |
「負の強化」は、罰と混同されやすいのですが、嫌なことがなくなるので行動が増える、という意味です。うるさい目覚まし時計を止めるためにボタンを押す、頭が痛いときに薬を飲む、といった行動がこれにあたります。スキナーは、罰で行動を減らすよりも、望ましい行動を強化して増やすほうが、効果が長続きし副作用も少ないと考えていたようです。
少しずつ形を作っていく「シェイピング」
スキナー箱の研究からは、動物にかなり複雑な行動を教える方法も生まれました。最初から完成した行動を待つのではなく、目標に少しでも近い行動をしたらエサを与え、だんだん条件を厳しくしていくやり方で、シェイピングと呼ばれています。
スキナーはこの方法で、ハトに卓球のような遊びをさせたり、8の字を描いて回らせたりすることに成功しています。今の水族館のイルカやアシカのショー、盲導犬や介助犬の訓練でも、基本的にはこの考え方が使われているそうです。
エサをいつ出すかで行動は大きく変わる
スキナーの研究の中で、今もっとも広く知られているのが、エサを出すタイミングのルール(強化スケジュール)による違いです。スキナーは同僚のチャールズ・ファースターと一緒に、ハトを使ってさまざまなスケジュールを試し、1957年に分厚い本にまとめています。
| スケジュール | エサの出し方 | 行動の特徴 |
|---|---|---|
| 固定比率 | 決まった回数(例:10回)押すたびに出る | エサの直後に少し休み、また一気に押す |
| 変動比率 | 平均10回だが、何回目に出るかは毎回違う | 休まず高い頻度で押し続ける |
| 固定間隔 | 前回から決まった時間(例:1分)が過ぎた後の1回目に出る | 時間が近づくと押す回数が急に増える |
| 変動間隔 | 平均1分だが、待ち時間が毎回違う | ゆっくりだが途切れずに押し続ける |
この中で特に注目されたのが、変動比率のスケジュールです。何回押せば当たるのかが分からないこの条件では、ハトは休むことなく猛烈な勢いでキーをつつき続け、エサが出なくなってからも、なかなかつつくのをやめませんでした。
スロットマシンとガチャ
この変動比率のスケジュールは、スロットマシンやパチンコ、ソーシャルゲームのガチャとほぼ同じ仕組みになっています。何回目で当たりが出るかは分からないけれど、回し続ければいつかは当たる、という状況では、人間も休まず回し続け、外れが続いてもなかなかやめられなくなる、というわけです。
SNSの通知や、引っ張って更新するタイムラインも、更新するたびに面白い投稿や「いいね」があるかどうかが毎回違うという意味で、変動比率に近い仕組みだとよく指摘されています。もちろん、人間の行動は箱の中のハトほど単純ではないので、すべてをこれで説明できるわけではないと思いますが、なぜやめにくいのかを考えるうえでは分かりやすい手がかりになるのではないでしょうか。
ちなみに、固定間隔のスケジュールで見られる「締め切りが近づくと急に頑張る」という形も、試験直前だけ勉強する学生や、月末だけ忙しくなる営業の仕事とよく似ていて、行動の形がスケジュールでここまで変わるのかと驚かされます。
エサを時間で出しただけで癖ができたハト
スキナーの実験の中でも特に有名なのが、1948年に発表された「ハトの迷信行動」の実験です。
この実験では、お腹を空かせたハトを箱に入れ、ハトが何をしていようと関係なく、15秒ごとに自動でエサを出しました。ハトの行動とエサには、何のつながりもありません。
ところが、しばらくすると、8羽のうち6羽のハトが、それぞれ奇妙な決まった動きを繰り返すようになりました。箱の中を反時計回りに2〜3回まわるハト、箱の上の角に何度も頭を突っ込むハト、頭を振り子のように左右に振るハトなど、動きはハトごとにばらばらです。
スキナーは、エサが出る直前にたまたましていた動きが、エサによって強化されて繰り返されるようになったのだと考えました。その動きを繰り返していればまたエサが出るので、ハトから見ると「この動きをするとエサが出る」と学んだように見えるわけです。スキナーはこれを、人間の迷信、たとえば勝負の前に決まった儀式をするスポーツ選手や、サイコロを振る前に決まったしぐさをするギャンブラーの行動になぞらえています。
ただし、この解釈には後の研究者から異論も出ています。同じような実験を詳しく観察し直した研究では、ハトの動きの多くは、エサが出る時間が近づくと現れる、エサを探すときの生まれつきの行動だったのではないか、という指摘もあり、何でも偶然の強化で説明できるわけではないことも分かってきました。
スキナーの考え方への批判
スキナーは、スキナー箱の研究で得た考え方を、人間の社会にまで広げて考えていました。1948年には、強化の原理を使って理想の社会を作るという小説『ウォールデン・ツー』を書き、1971年の『自由と尊厳を超えて』では、人間の自由意志という考え方そのものを疑問視して大きな論争を呼んでいます。
言語学者ノーム・チョムスキーは1959年に、スキナーの言語についての本を厳しく批判し、子どもが短い期間に複雑な文法を身につけることは、強化だけでは説明できないと主張しました。この批判は、行動主義から、心の中の情報処理を扱う認知心理学へと心理学の流れが移っていくきっかけの1つになったと言われています。
娘を箱で育てたという噂
スキナーには、「自分の娘を箱に入れて育て、娘は後に精神を病んだ」という有名な噂もあります。実際には、スキナーが作ったのは、温度と湿度を調節できる、ガラス窓の付いた赤ちゃん用のベッドで、娘のデボラはその中で寝かされていた時期がありました。
噂が広まった後、デボラ本人が2004年にイギリスの新聞に寄稿し、自分は精神を病んでもいないし、父親を恨んでもいない、とはっきり否定しています。スキナー箱という名前の強さが、根拠のない噂を生んでしまった例だと言えるかもしれません。
スキナー箱についてよく出る疑問
罰は効かないということですか?
スキナー箱の研究でも、罰を与えれば行動は一時的に減ることが確かめられています。ただし、罰をやめると行動が元に戻りやすいこと、罰を与える相手や場所そのものを避けるようになること、代わりに何をすればいいのかは教えられないことなどから、スキナーは罰よりも望ましい行動を強化するほうを勧めていました。今の子育てや動物の訓練でも、できたことを褒めて増やす方法が基本とされているのは、こうした研究の影響が大きいと思います。
人間でも同じことが起きるのですか?
人間を対象にした研究でも、報酬の出し方によって行動のパターンが変わることは確かめられています。ただ、人間の場合は言葉で説明されたルールや、自分なりの予想によって行動が大きく変わるので、ハトのようにスケジュールだけで行動が決まるわけではありません。ギャンブルがやめられなくなる仕組みについても、変動比率の強化だけでなく、「もう少しで当たりだった」という惜しい外れの効果など、ほかの要因も合わせて研究されています。
関連する実験と記事
スキナーのオペラント条件づけは、パブロフの条件反射と並んで、学習の心理学の2本柱になっています。2つの違いは、パブロフの犬の記事と並べて読むと分かりやすいと思います。
何回外れても次こそ当たるはずだと考えてしまう心理は、認知バイアスの記事でも扱っています。
まとめ
本記事はスキナー箱について解説しました。如何だったでしょうか。
レバーを押すとエサが出るだけの小さな箱から、行動はその結果によって増えたり減ったりするというオペラント条件づけの仕組みが詳しく調べられ、報酬をいつ出すかというルールだけで、行動の形が大きく変わることが分かりました。この知見は、動物の訓練や子育て、教育の現場で今も使われ続けています。
一方で、何回目で当たるか分からない報酬が行動をやめられなくするという発見は、スロットマシンやガチャ、SNSの設計にもそのまま生きていて、私たち自身が箱の中のハトに近い立場に置かれている場面も少なくないように思います。自分がなぜそれをやめられないのかを考えるときに、スキナー箱のハトを思い出してみるのも悪くないのかもしれません。
ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。
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