心理学実験

パワーポーズとは|2分間胸を張るとホルモンが変わる?TEDで広まった実験と、筆頭著者自身の撤回

パワーポーズとは|2分間胸を張るとホルモンが変わる?TEDで広まった実験と、筆頭著者自身の撤回

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「パワーポーズ」について解説します。

パワーポーズは、胸を張って手足を大きく広げた力強い姿勢を1〜2分とるだけで、自信が湧き、体の中のホルモンまで変わって、その後の行動が大胆になる、とされた考え方のことです。2010年にアメリカの心理学者ダナ・カーニー、エイミー・カディ、アンディ・ヤップが発表した実験がもとになっていて、面接やプレゼンの前にトイレで胸を張ろう、という助言とともに世界中に広まりました。

特に、2012年にカディが行ったTEDトークは大きな反響を呼び、数年のうちに数千万回再生されて、TEDの中でも特に多く見られた講演の1つになりました。日本でも、自己啓発の本やビジネス向けの記事で紹介されているのを見たことがある人も多いと思います。

ところが、その後の大規模な追試では、ホルモンや行動の変化は再現されず、2016年には論文の筆頭著者だったカーニー自身が、「パワーポーズの効果が本物だとは思わない」と公に表明しました。有名な研究の著者が自分から結論を取り下げるのは珍しく、この出来事は、心理学の研究のあり方をめぐる議論の中で今もよく引き合いに出されているようです。

心電図の電極を付けるという口実

2010年の実験に参加したのは、女性26人、男性16人の合わせて42人でした。参加者は、心電図の電極を心臓の上と下のどこに付けると正確に測れるかを調べる研究だと説明されていて、自分がとる姿勢に意味があるとは知らされていません。

研究者は、参加者のふくらはぎや腕に電極を付けたうえで、測定のためにこの姿勢をとってくださいと言って、手や足に軽く触れながら体の形を整えました。参加者は2つのグループに分けられています。

グループとった姿勢(2種類を各1分)
力強い姿勢椅子にもたれて机に足を乗せ、両手を頭の後ろで組む/机に両手をついて身を乗り出す
力の弱い姿勢腕や脚を組んで体を小さく縮める

なお、どちらの姿勢も、事前に別の参加者に試してもらい、楽さや難しさ、痛さには違いがないことが確かめられていたとされています。参加者はそれぞれの姿勢を1分ずつ保ち、その前後で唾液を採って、男性ホルモンとも呼ばれるテストステロンと、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールの量が測られました。

賭けに出た人は86%と60%

姿勢をとった後、参加者には2ドルが渡され、そのまま2ドルを受け取るか、サイコロを振って4ドルにするか2ドルを失うかを選ぶという賭けが持ちかけられました。勝つ確率は半々です。

図解

その結果、力強い姿勢をとった人では86%が賭けに出たのに対し、力の弱い姿勢をとった人では60%にとどまりました。唾液の検査では、力強い姿勢をとった人はテストステロンが増えてコルチゾールが減り、力の弱い姿勢をとった人では逆の変化が見られたと報告されています。自分は力があると感じる度合いも、力強い姿勢のグループのほうが高くなっていました。

体の姿勢を変えるだけで、心の状態だけでなくホルモンまで変わる、という結果は、心と体のつながりを示すものとして大きな注目を集めました。

TEDトークで世界へ

この研究を世界的に有名にしたのが、2012年にカディが行ったTEDトークです。「ボディランゲージが人を作る」という題のこの講演で、カディは、自信のない人でも2分間力強い姿勢をとれば、体の中から変わることができると語りました。講演の最後には、自分自身が若いころに自信を失いかけた経験も語られ、多くの人の心をつかんだようです。

講演の再生回数は2017年までに4,700万回ほどに達し、TEDの講演の中で2番目に多く見られたものになったとされています。2015年にはカディの本も出版され、日本でも『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』という題で翻訳されて、パワーポーズは就職活動やスポーツ、医療の現場でまで紹介されるようになりました。

42人の実験が世界に広まった理由

振り返ってみると、元の実験の参加者は42人で、ホルモンの差も、統計的にぎりぎり意味があると言える程度のものでした。それでも、2分間の姿勢で人生が変わるかもしれないという、誰でもすぐに試せる分かりやすいメッセージと、講演での心に残る語りが組み合わさったことで、研究の規模とは不釣り合いなほどの影響を持つようになったのだと思います。

ちょうど同じころ、心理学の世界では、2011年にデータの扱い方を少し変えるだけで、ありもしない効果が簡単に「見つかって」しまうことを示した論文が発表されるなど、研究のやり方そのものを見直す動きが始まっていました。パワーポーズは、その見直しの波を真正面から受けることになりました。

200人の追試でホルモンは変わらなかった

一方で、研究の世界では疑問の声も上がり始めていました。2015年、経済学者のエヴァ・ラネヒルたちは、参加者を200人に増やし、どちらのグループに入ったかを実験者にも知らせない形で、同じような実験を行いました。

その結果、力強い姿勢をとった人は、確かに自分は力があると感じると答えていました。ところが、テストステロンやコルチゾールの量にも、賭けなどの行動にも、はっきりした違いは見られなかったのです。

さらに、心理学者のジョセフ・シモンズとユリ・シモンソンは、それまでに発表されたパワーポーズの研究を集め、結果の統計的な出方から、その研究群が本当の効果を示しているかを調べる方法で分析しました。その結果は、研究全体としては、効果があるという十分な証拠を示していない、というものでした。

筆頭著者自身の表明

そして2016年9月、2010年の論文の筆頭著者だったカーニーが、自分のウェブサイトに声明を出します。そこには、「私はパワーポーズの効果が本物だとは思わない」とはっきり書かれていました。

カーニーは声明の中で、元の研究は参加者が少なく、データが心もとないものだったこと、そして、どのデータを分析に入れるかや、どの結果を報告するかを、結果を見ながら決めていた部分があったことを自ら認めています。研究者が自分の代表的な研究について、ここまで率直に問題を認めるのは珍しく、科学的に誠実な態度として評価する声も多かったようです。

一方でカディは、効果は本物だという立場を変えず、その後も研究を続けています。研究者個人への激しい批判も巻き起こり、2017年には『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』が、カディが置かれた状況を詳しく取り上げる長い記事を掲載しています。研究への批判と、研究者個人への攻撃をどう区別するのかという、批判のあり方そのものが議論になる出来事にもなりました。

残ったのは「気分」の効果

姿勢が気分に影響するという考え方そのものは、パワーポーズより前からありました。1993年にドイツの心理学者ザビーネ・シュテッパーとフリッツ・シュトラックが発表した研究では、背筋を伸ばした姿勢で課題の成績が良かったと知らされた人は、背中を丸めた姿勢で同じことを知らされた人より、誇らしさを強く感じたと報告されています。ただしこれは、姿勢と良い知らせが重なったときに限られていて、姿勢だけで気分ががらりと変わる、という話ではなかったようです。

では、パワーポーズにはまったく意味がないのでしょうか。2018年にカディたちは、自分は力があるという感じ方の変化については、それまでの研究をまとめても効果が見られる、とする分析を発表しています。

また、2022年に発表された、姿勢の効果を調べた100本以上の研究をまとめたメタ分析でも、体を広げた姿勢をとると、自信や気分といった本人の感じ方には小さな変化が見られる一方で、ホルモンなどの体の測定値には効果が見られないという結論になっています。

つまり、胸を張ると少し気分が上向くことはあっても、ホルモンが変わって行動まで大胆になる、というところまでは確かめられていない、ということになるでしょう。正直、私は面接の前に胸を張ってみること自体は悪くないと思うのですが、それで人生が変わるという話として広まったのは、研究の中身からするとかなり行き過ぎだったと感じています。

パワーポーズについてよく出る疑問

面接やプレゼンの前にやっても意味はないのですか?

気分が少し上向くという程度の効果は、いくつかの研究で見られているので、やってみて自分が落ち着くと感じるなら、試してみるのは悪くないと思います。ただ、ホルモンが変わって相手からの評価まで上がる、といった効果は確かめられていないので、それを期待して頼りきるのは避けたほうがよさそうです。

カディの研究はすべて否定されたのですか?

そういうわけではありません。カディは、人が他人を温かさと有能さの2つの軸で評価するという研究でも知られていて、こちらは多くの研究で確かめられてきました。パワーポーズについても、本人の感じ方への効果は今も議論が続いていて、すべてが否定されたわけではありません。

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まとめ

本記事はパワーポーズについて解説しました。如何だったでしょうか。

力強い姿勢を1分ずつとった人が賭けに出やすくなり、ホルモンまで変わったという2010年の結果は、体の姿勢が心と体の状態を変えるという魅力的な話として、TEDトークを通じて世界中に広まりました。

しかし、200人の追試ではホルモンや行動の変化は見られず、論文の筆頭著者自身が効果は本物ではないと表明しています。今の研究から言えるのは、胸を張ると少し気分が上向くかもしれない、というくらいの控えめな話であって、それ以上のことは期待しすぎないほうがよい、ということでしょう。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。