『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズの生みの親・桜井政博さんは、YouTubeチャンネル「桜井政博のゲーム作るには」でゲーム開発のノウハウを数多く公開しています。この記事は、そのチャンネルの内容をテーマごとに要約・再構成したものです。
ただし、要約はあくまで入り口にすぎません。桜井さんご本人の言葉・実例・テンポ、そして映像そのものからしか得られないものが本当に多いので、記事を読んで終わりにせず、ぜひ各テーマに埋め込んだ元動画もあわせてご覧いただくことを強くおすすめします。
「知られなければ無いのと同じ」――開発と両輪の、知ってもらうための活動が語られるカテゴリです。ここでは「広報」カテゴリの全2本(個別動画9テーマ)の要点を、元動画2本に沿った2部構成でまとめていきます。各部の冒頭に解説動画を置いているので、あわせてどうぞ。
第1部 広報はかけ算・製品像は正しく・体験版・参戦ムービー(#01〜#07)
このカテゴリは、ゲーム本体ではなくそれを知らしめるための要素がテーマ。桜井さんは広報にも幅広く関わっています。「知られなければ無いのと同じ」という、開発と両輪の活動が語られます。
1. 広報はかけ算
ゲームが良いこと・面白いことは必要ですが、最初によく知られることも同等に大事。知られなければ無いのと同じです。せっかく作ったものを生かすには、まずそのゲームがあると知ってもらわなければならない。そのための活動が広報(広く言えば営業)で、桜井さんも積極的に行っています。
参戦ムービーも、かつてのスマブラ拳も、ファイターのアートワークも、個別に使われることを前提に制作。公式Twitterやウェブサイトの文面は桜井さんが書くわけではありませんが、欠かさずチェックし提案します。「私はディレクターであってプロデューサーではない」が、お金の計算以外のプロデューサー業もやばいほどやっている、と。それだけ重要視しているのです。開発と広報はかけ算で、どちらかの成果はどちらかに比例する。2021年のSteamのゲームは推定1万本以上。その中で知られるには、然るべき努力が必要なのですね。注目を集めるのは「やりすぎてちょうど」かもしれない、とも語ります。
2. 製品像は正しく伝える
ゲームはやってみるまで中身が分かりません。名前・パッケージ・スクリーンショット・参戦ムービーなどで知ることになります。ここでやってはいけないのが、いくらゲーム内で意表を突きたくても、製品像と違うものを出すこと。バナナを買ったらりんごの味がした、では良くないのです。
買う時のイメージと、ゲーム内で表現される楽しみは合致していなければいけません、とのことです。製品像と実際にズレがあると、興味を持つお客さんに届かないばかりか、間違えて買った人を失望させてしまう。いろんな要素でドッキリさせるのは悪くないですが、製品像と伝えたイメージに齟齬がないように。なおタイトルは、日本語版なら4文字で省略した場合を考えると良い(「大乱闘スマッシュブラザーズ」→「スマブラ」など、決めた瞬間に考えられている)そうです。
桜井さんの作品で最もゲーム内容と裏腹なパッケージは、日本版『星のカービィ スーパーデラックス』。華やかな作品なのにシンプルなのは、豪華な作品が上等な切子ディスクに入っているというコンセプトで糸井重里さんが出したアイデア。裏腹なようでいて本質を突いている——直接的に表現することだけが広報ではない、さすがの糸井さんだと頭が下がる、と語ります。ショップで手に取るきっかけは製品のアート。意表を突くのも作戦ですが、正確に商品を伝えたいところだ、ということでした。
3. 体験版
ゲームのお試しとして、体験版の制作は一般的にかなり有効です。世の中、知らないことがほとんどなので、知られないより知られることを頑張るべき。ところが、体験版を作るのはものすごく労力がかかります。途中までを切り出せば済むものではなく、下手をすると小さいソフト1本分と同程度に大変なのです。
まず発売前なら情報漏洩リスク。ROMにネタバレが含まれると解析されかねないので丁寧に抜く必要があり、どのファイルに何があるか完全把握するのは難しい。制作した瞬間から2バージョンの管理になり、更新も調整もデバッグも別。外に出すので製品版に迫るデバッグが要り、要素を抜くぶん不具合も起こりやすい。さらにバランス未調整で見切られる可能性も。製品版同等のバランスを望むなら発売後しばらくして出すしかなく、それはそれで効果が微妙です。
このように体験版は厳しい開発リソースを圧迫します。完成後に要素を削るように作る方が楽ですが効果は落ちる。ゲームが巨大・複雑化して制作はさらに厳しくなっていますが、体験版は非常に有効で、知らないより知られた方が良いのは本当。作るかどうかはパブリッシャーやディベロッパーの方針次第だ、とのことです。
4. ウェブサイト
ゲーム情報を知るのにウェブサイトは不可欠でした。じっくり眺めることは全盛期より減り、SNSなど短い情報発信の方が現代に合うのかもしれませんが、まとまった情報が正しく発信されることはやはり大事。大手の作品から公式サイトがなくなることはないでしょう。
スマブラスペシャルのサイトは桜井さんも構成に関わり、更新ごとにチェックしています。ファイター一覧、遊び方、各モードやテクニック、ネットワーク、amiibo、100超のステージ、アイテム、サウンド(視聴機能付き)、ムービー、大会・イベント情報……と、他のゲームよりうんと情報量が多い。広報は大事、情報の基幹となる場所も大事で、その作品に向いた形態にしたいところです。
実はこれは初代の苦い経験と地続き。初代スマブラ発売前、遊び方や駆け引きを関係者になかなか理解してもらえず、「任天堂キャラが殴り合うのはけしからん」「格闘ゲームに比べて浅い」といった偏見に困りました。そこで遊び方の資料をまとめて雑誌社に送り、その内容を転用したテクニックの手引きが、初代の公式サイト「スマブラ拳」。桜井さん自身がHTMLも書いたそうです。苦い経験は打開策の足がかりになる。参戦ムービー制作を頑張るのも、初代の挫折から地続きなのかもしれない、と振り返ります。
5. 参戦ムービー
スマブラのファイター参戦を彩った参戦ムービー。スマブラXで各ファイターの絡みがあるムービーを作ろうと考えたのが始まり(正式には「◯◯参戦」表記はスマブラ4から)。ところが発売前からネットに上げられてしまい、ご褒美に足り得ませんでした。そこで、ゲーム途中に挟むムービーはやめ、どうせシェアされるなら、進捗に影響せず誰が見ても面白いムービーを作る方針に。なんと37種類も作っていたそうです。
CGパートは、ほぼ全てのプロットを桜井さんが執筆(例外はホムラ/ヒカリ)。音楽タイミングまで決めることが多く、CG会社と打ち合わせ→コンテ→アニマティクス(ラフ編集)→本制作と進みます。ゲームパートはスマブラ制作チームがデバッグ・リプレイ機能でカメラを動かして撮影。「もっと堂々と」「絡みを増やす」「シリアスとコミカルのバランス」「音楽の節に合わせる」など、あらゆるところで常に監修を入れます。参戦ムービーの世界的な熱狂は驚くべきもので、スタッフや桜井さんの強い励みになった。こういう仕事に携われたのは本当に幸せだ、と語ります。
6. ゲーム画面を見せてくれ!
ゲームを売り込む際、実際にゲームが動いているムービーはとても大事。いわゆる販促ムービーで興味を持つもので、これがないゲームはよほどでない限り買えません。論外なので、ムービー制作は必須と考えてよいでしょう。
ところが、OPムービーやキャラ説明が長く、なかなかゲーム画面に入らない場合があります。Steamのトップ動画にゲーム画面が一切ないことすらある——これはやめてほしい、とのこと。著名なシリーズや制作者ならティーザー的な見せ方も容認できますが、そうでないなら、特に大作やインディ系ならすぐゲームを見せた方が良い。桜井さんは販促ムービーの最初を飛ばす癖がつきそうになったほど。ゲームがどうであるかを知るためのものなのだから、肝心のゲームをすぐ見たい。話や世界設定はその後でいい。テックデモなど例外はありますが、プレゼンはスピード、迅速に本筋を見せた方が得だ、とのことです。
7. 人の目の前でゲームすること
桜井さんは人の目の前でゲームをすることがやたら多い——ゲームディレクターの中で最も多いかも、と言います。特に「◯◯の使い方」シリーズや、ダウンロードコンテンツ発表ごとのプレゼンプレイ。自作でなくてもゲームデザイナーズ大賞で10年以上プレイしているそうです。
テストプレイで気をつけているのは、必殺技と最後の切り札を必ず全て出す、圧勝にしすぎない、通常技も多めに見せること。平たく言えば「取れ高」を意識しているのです。ゲーム内容への理解がないとプレイはできません。目の前でやってみせるのは、おそらく最も効果が高いプレゼン。
そして、プレゼンを考えることは自分の考えを整理するのに役立つ。教師が教えられるのと同じです。自作を人前で披露するなんてとんでもない、と思っても、人に見せることを想定するのは非常にメリットが多いので、頭の中で疲労……もとい披露プレイしてみることをおすすめする、と。お客さんの反応を想像すれば、見えてくるものがあるのですね。
第2部 ターゲティングとマーケティングの落とし穴・スマブラ拳の歩み(#08〜#09)
後半は2本立て。マーケティング論への少し意外な見解と、初代から続く公式サイト「スマブラ拳」の歩みが語られます。
8. ターゲティングとマーケティング
広報というより営業戦略的な話。ゲームの企画やプレゼンでは「ターゲット層を明確にせよ」とよく言われます。どの層を中心に売りたいかを、主に年齢・性別・嗜好で区分する。任天堂の作品でも、どの層に支持されているか驚くほど細かいデータが得られています。支持の熱い層に狙いを定める(弱い層を補う)のがターゲティング、その傾向を調べるのがマーケティングです。
異論はないものの、桜井さんは特に新しいゲームを考える場合、真面目に捉えすぎないことをおすすめします。両者は既存のものから想定するデータで、これからの道を示してはくれないからです。ユーザーの境界線は曖昧で、可愛いもの好きの高齢者もいれば、ハード表現を好む子供もいる。初代カービィは初心者向けですが「子供向け」と言ったことはなく、初心者には大人も子供も男も女も含まれる。ターゲティングは年齢ではないのです。
マーケティングは完成したものへのデータで、誰かが通った道を分析するもの。安全な道(人がより多く通った大通り)は分かりますが、それを追い続けると平凡・平均的になってかえって売れません。スーパーファミコン時代、日本ではドラクエ・FFっぽい作品が山ほど出ました。RPGが売れているデータとしては正しいものの、レッドオーシャンに飛び込んでは意味がない。斬新なことをする人はいつでも孤独で、誰も通っていない道を切り開いている。でもそれが地平を広げ、先駆者は後に続く人の指標になる。ビジネスに必要なことが当てはまらない場合があり、むしろそれが重要——戦略を考える上司も含めて心がけてほしい、と語ります。
9. スマブラ拳
初代スマブラの公式サイト「スマブラ拳!!」が、どう運営されたのか。初代は発売当時から奥深いゲーム性を持っていましたが、それが伝わらず困っていました。任天堂キャラがボコボコ殴り合う、従来の格闘ゲームと方向が違うことから、本質を汲み取れず食わず嫌いされる傾向が発売前からあったのです。
当時はマスターアップから発売まで今以上に間がありました。その間、スマブラの駆け引きやゲーム性をまとめた「スマッシュブラザーズ秘伝の書」を雑誌社に配りましたが効果は薄く、それを一般公開しプレイヤーの手引きにしたのがスマブラ拳です。回線も遅くツールも貧弱な時代に、桜井さんが1人でHTMLを書き、宿泊しながら完成。当時の公式サイトとして明らかに異質でした。効果のほどは分かりませんが、初代は口コミで広がり最終的にメガヒットに。これが続編決定にもつながります。
DXでは名を継いだ「速報スマブラ拳」で、過酷な開発現場から画面写真や情報を速報。情報出しもディレクター自ら頑張る珍しい運営でした(本人が最も詳しいから)。投稿コメントへのやり取りも実施。スマブラXでは平日毎日更新で月〜金に1日1情報を出し、さらに6か国語対応に。毎日何らかの変化があると、情報を楽しみにサイトを見にくるのが日課になり効果が高いのです。
開発を考えるとよろしくない部分もあります。開発中のディレクターは最も多忙なので人に任せた方がいいものの、結局は監修で時間を割く。それでも開発と広報は両輪でかけ算。どんなに良い作品でも知られなければ無いのと同じ。SNS文化の現代、どうすれば良い情報発信ができるかは常に考える課題だ——そして「◯◯の使い方」も新しい情報発信の方向性だと思う、と結ばれます。
まとめ
ここまで「広報」カテゴリの全2本・9テーマを見てきました。最後に、各部(=元のまとめ動画)の要点を、個別テーマごとに振り返っておきます。
第1部 広報はかけ算・製品像は正しく・体験版・参戦ムービー(#01〜#07)
| # | テーマ | 要点 |
|---|---|---|
| 01 | 広報はかけ算 | 開発と広報はかけ算。知られねば無いのと同じ。Dirだが広報も担う |
| 02 | 製品像は正しく伝える | 製品像と中身にズレを作らない。カービィSDの裏腹なパッケージは本質を突く好例 |
| 03 | 体験版 | 体験版は小さなソフト1本分の労力(漏洩・2版管理)。だが非常に有効 |
| 04 | ウェブサイト | まとまった情報の基盤。作品に合う形で(初代は自分でHTMLを書いた) |
| 05 | 参戦ムービー | 進捗に影響せず誰が見ても面白いムービーに。「もっと堂々と」等を監修 |
| 06 | ゲーム画面を見せてくれ! | OPが長くゲーム画面が出ないのは×。プレゼンはスピード、すぐ中身を見せる |
| 07 | 人の目の前でゲームすること | 目の前でやってみせるのが最強のプレゼン。想定するだけでも得が多い |
第2部 ターゲティングとマーケティングの落とし穴・スマブラ拳の歩み(#08〜#09)
| # | テーマ | 要点 |
|---|---|---|
| 08 | ターゲティングとマーケティング | 新企画ではマーケは話半分に。過去データは新しい道を示さない |
| 09 | スマブラ拳 | 初代の偏見に困り、1人でHTMLを書いた公式サイト「スマブラ拳!!」 |
ボリュームはありますが、気になった部から読み返してもらえればと思います。関連するカテゴリもあわせてどうぞ。









