心理学実験

ロフタスの目撃証言実験とは|「激突」と聞かれた人は、無かった割れたガラスを見たと答えた

ロフタスの目撃証言実験とは|「激突」と聞かれた人は、無かった割れたガラスを見たと答えた

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ロフタスの目撃証言実験」について解説します。

ロフタスの目撃証言実験は、1974年にアメリカの心理学者エリザベス・ロフタスとジョン・パーマーが、交通事故の映像を見せた人に「車が激突したとき、どれくらいの速さでしたか」のように質問し、その動詞を少し変えるだけで、見た人の速度の記憶や、事故の細部の記憶まで変わってしまうことを示した実験です。事件や事故を目撃した後に受け取った情報によって、記憶そのものが書き換わってしまう現象は「事後情報効果」と呼ばれ、この実験はその出発点の1つになりました。

自分の目で見たことは確かだ、と多くの人は考えていると思います。裁判でも、目撃者の証言は長いあいだ有力な証拠として扱われてきました。ところがロフタスの研究は、人の記憶が後から入ってきた言葉によって簡単に形を変えてしまうことを示し、「見たはずのもの」が実は無かったということが起こりうるのだと明らかにしました。

本記事では、1974年の2つの実験と、その後の一時停止標識の実験を紹介したうえで、この研究をめぐる論争と、目撃証言の誤りが現実の裁判で何を引き起こしてきたのかを整理していきます。

動詞1つで変わった速度の記憶

1974年の最初の実験に参加したのは、大学生45人でした。参加者は、自動車の事故を写した7本の短い映像を見た後、それぞれの事故について質問に答えます。

質問の中に、1つだけ仕掛けがありました。「車が◯◯したとき、どれくらいの速さで走っていましたか」という質問の◯◯に入る動詞を、参加者によって変えていました。使われた動詞は、「激突した(smashed)」「衝突した(collided)」「ぶつかった(bumped)」「当たった(hit)」「接触した(contacted)」の5つでした。

図解

結果として、同じ映像を見ているにもかかわらず、動詞によって参加者の答えた速度ははっきり違っていました。「激突した」と聞かれた人の平均は時速40.8マイル、「接触した」と聞かれた人の平均は時速31.8マイルで、動詞を変えただけで、時速9マイル(約14キロ)ほどの差が生まれたのです。

ちなみに、実際の映像の中の車の速度は分かっていて、参加者の答えは実際の速度とはあまり関係がなかったと報告されています。人は事故の速度をそもそも正確に見積もるのが苦手で、そのぶん質問の言葉に引っぱられやすかったのかもしれません。

答え方が変わっただけなのか

ただ、この結果だけでは、参加者の記憶そのものが変わったのか、それとも単に「激突と言われたから大きめの数字を答えておこう」と答え方を調整しただけなのかが分かりません。ロフタスとパーマーは、この点を確かめる2つ目の実験を行いました。

1週間後、無かった割れたガラスを見た

2つ目の実験には150人の学生が参加しました。参加者は複数台の車が絡む事故の短い映像を見た後、50人ずつ3つのグループに分けられます。1つ目のグループには「車が激突したとき」、2つ目のグループには「車が当たったとき」という言葉で速度を尋ね、3つ目のグループには速度についての質問をしませんでした。

そして1週間後、参加者は再び呼ばれ、映像についていくつかの質問に答えます。その中に「割れたガラスを見ましたか」という質問が含まれていました。実際の映像には、割れたガラスは映っていません。

結果は次のとおりでした。

1週間前の質問「割れたガラスを見た」と答えた人
「激突した」で速度を聞かれた50人中16人(32%)
「当たった」で速度を聞かれた50人中7人(14%)
速度を聞かれなかった50人中6人(12%)

「激突した」という言葉で質問された人は、ほかの2つのグループの倍以上の割合で、映像に無かった割れたガラスを「見た」と答えたのです。

ロフタスとパーマーは、この結果を次のように説明しました。人は事故を見たときの記憶と、後から聞いた「激突した」という言葉の情報を1つに統合して、「激しい事故だった」という記憶を作り上げてしまう。そして1週間後に細部を思い出そうとするとき、その作り上げられた記憶に合うように、激しい事故ならありそうな割れたガラスまで「思い出して」しまうのだ、というわけです。

一時停止標識が「ゆずれ」の標識に

1978年には、ロフタスと共同研究者たちが、さらに直接的な実験を行っています。参加者には、赤い車が交差点に近づき、歩行者をはねる場面を何枚かのスライドで見てもらいました。交差点のスライドには、参加者によって「一時停止」の標識か「ゆずれ」の標識のどちらかが写っていました。

スライドを見た後、参加者は場面についての質問に答えますが、その中の1つに、実際に見た標識とは違う標識が出てくるようにしてありました。たとえば、一時停止の標識を見た人に「ゆずれの標識で止まっていた赤い車を、別の車が追い越しましたか」と尋ねるわけです。

その後、2枚のスライドを並べて、実際に見たのはどちらかを選んでもらうと、質問の内容が実際に見た標識と一致していた人は75%が正しいスライドを選んだのに対し、違う標識が出てくる質問を受けた人では、正しく選べたのは41%だけでした。当てずっぽうの50%を下回っていて、質問に出てきた標識のほうを「見た」と思い込んだ人が多かったことになります。

記憶は書き換わるのか、という論争

ロフタスは、こうした結果から、後から入ってきた情報がもとの記憶を上書きしてしまうのだと考えました。これに対して1985年、心理学者のマイケル・マクロスキーとマリア・ザラゴサが反論を出しています。

彼らは、もとの記憶が上書きされたのではなく、もとの記憶はそのまま残っていて、参加者がテストのときに後から聞いた情報のほうを答えに選んでしまうだけではないか、と主張しました。そして、後から聞いた情報が選択肢に入らないように工夫したテストを使うと、事後情報の影響が見られなくなることを示しました。

ロフタスたちはこれに対して、より感度の高いテストを使えば、小さいながらもとの記憶への影響が見られると反論していて、議論はしばらく続きました。今では、もとの記憶が消えてしまう場合もあれば、両方の記憶が残っていてどちらを思い出すかが揺れる場合もある、というように、どれか1つの仕組みだけで説明できるものではないと考えられているようです。

ただ、どちらの説明に立っても、目撃者が後から聞いた情報を、自分が実際に見たことのように答えてしまうという現象そのものは変わりません。裁判や捜査の場で問題になるのは、まさにこの部分だと思います。

冤罪の7割に関わっていた目撃証言

ロフタスたちの研究が現実の世界で大きな意味を持つようになったのは、1990年代以降、DNA鑑定によって過去の有罪判決が覆されるケースが次々と出てきたからです。

アメリカで冤罪の救済に取り組む団体イノセンス・プロジェクトのまとめによると、DNA鑑定によって無実が証明された事件のうち、およそ7割で、目撃者による犯人の誤った特定が有罪の一因になっていたとされています。目撃者の多くは嘘をついていたわけではなく、自分の記憶を本当に信じていたと考えられています。

こうした流れを受けて、アメリカの多くの州では、容疑者を含む複数の人を並べて目撃者に選ばせる手続きを見直し、手続きを行う警察官にも誰が容疑者か知らせない、目撃者が選んだ直後に確信の度合いを記録する、といった改革が進められてきました。

最初の確信は意外と当てになる

一方で、目撃証言はまったく当てにならない、というわけでもありません。2017年に心理学者のジョン・ウィクステッドとゲイリー・ウェルズが発表した総説では、公平な並べ方で、手続きを行う人も容疑者を知らないといった適切な条件のもとで、目撃者が最初に「この人だ」と強い確信を持って選んだ場合、その特定はかなり正確であることが多い、とまとめられています。

問題になるのは、時間がたって、捜査や裁判の中でさまざまな情報に触れた後の確信のほうです。最初はあいまいだった記憶が、後から入ってきた情報によって強い確信に変わってしまうことがあり、ロフタスの研究が示したのは、まさにその危うさだったと言えるのかもしれません。

ロフタス本人のその後

ロフタスはその後、ワシントン大学からカリフォルニア大学アーバイン校に移り、目撃証言だけでなく、実際には無かった出来事の記憶を丸ごと植えつけられるかという研究にも取り組みました。子どもの頃にショッピングモールで迷子になったという、実際には無かった話を家族の思い出として聞かせると、一部の人がそれを本当にあったこととして思い出すようになった、という研究がよく知られています。

彼女は数百件の裁判で専門家として証言したり助言したりしていて、記憶の専門家として非常に大きな影響力を持つ一方、性的虐待の「抑圧された記憶」をめぐる裁判で被告側に立つことも多かったため、強い批判を受けることもありました。科学的な発見が、現実の裁判の中でどちらの側に立つ証拠にもなりうることを示した研究者だと言えると思います。

ロフタスの目撃証言実験についてよく出る疑問

質問の仕方に気をつければ、記憶は守れるのですか?

ロフタスたちの研究からは、誘導的な言葉を使わない質問の仕方が大事だということが分かってきて、警察の事情聴取の方法にも生かされています。目撃者に自由に話してもらってから質問をする「認知面接」と呼ばれる方法などがその例です。ただ、事件の後にはニュースや周りの人の話など、本人がコントロールできない情報もたくさん入ってくるので、質問の仕方だけで記憶を完全に守れるわけではないと考えられています。

自分の記憶が書き換わったかどうかは分かるのですか?

ロフタスの実験の参加者は、割れたガラスを「見た」と答えたとき、嘘をついているつもりはありませんでした。後から入ってきた情報で作られた記憶も、本人にとっては本物の記憶と同じように感じられるので、自分で見分けるのはとても難しいと考えられています。記憶の鮮明さや自信の強さは、必ずしも正しさの証拠にならない、ということは覚えておいてよいと思います。

関連する実験と記事

記憶がどれくらいの速さで失われていくのかを、自分自身を実験台にして測ったのが、エビングハウスの忘却曲線の研究です。

エビングハウスの忘却曲線とは|「1日で74%忘れる」は誤解、本当は何を測った実験だったのかsenkohome.com/psych-experiment-ebbinghaus/

いったん出来事の結果を知ると、最初からそうなると分かっていたように感じてしまう心理は、認知バイアスの記事で扱っています。記憶が後から書き換わるという点では、ロフタスの研究とよく似ています。

【認知バイアス】後知恵バイアス ─ 結果を知ると「最初からわかっていた」気になるsenkohome.com/cognitive-bias-hindsight/

まとめ

本記事はロフタスの目撃証言実験について解説しました。如何だったでしょうか。

質問の動詞を「激突した」に変えるだけで、見た人の速度の記憶が時速9マイルも上がり、1週間後には映像に無かった割れたガラスを「見た」と答える人が倍以上に増えたという結果は、人の記憶が後から入ってきた言葉によって形を変えてしまうことを、誰にでも分かる形で示したものでした。

記憶が上書きされるのか、もとの記憶が残っているのかという論争はあるものの、後から聞いた情報を自分が見たことのように答えてしまう現象そのものは何度も確かめられていて、DNA鑑定で明らかになった冤罪の多くにも、目撃証言の誤りが関わっていました。自分の記憶にどれだけ自信があっても、それが正しさの証拠になるとは限らないということを、静かに突きつけてくる研究だと思います。

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有名な心理学実験の一覧|ミルグラム実験・スタンフォード監獄実験などの結論は今も正しいのかsenkohome.com/psych-experiment-list/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。