心理学実験

ショッピングモールの迷子実験とは|なかった子ども時代の記憶は植え付けられる?偽りの記憶の研究と最近の反論

ショッピングモールの迷子実験とは|なかった子ども時代の記憶は植え付けられる?偽りの記憶の研究と最近の反論

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ショッピングモールの迷子実験」について解説します。

ショッピングモールの迷子実験は、1995年にアメリカの心理学者エリザベス・ロフタスとジャクリーン・ピクレルが発表した実験で、実際には起きていない子ども時代の出来事の記憶を、人に植え付けることができるかを調べたものです。家族から聞いた本当の思い出の中に、「5歳のころ、ショッピングモールで迷子になった」という作り話を1つだけ混ぜて思い出してもらったところ、4人に1人が、その出来事を思い出したと語りました。

ロフタスは、事故の映像を見た後の質問の言葉で目撃した記憶が変わってしまうことを示した研究ですでに知られていましたが、この実験では、記憶の細部ではなく出来事まるごとを作り出せることを示そうとしました。この研究は、1990年代のアメリカで大きな社会問題になっていた、セラピーの中で抑圧されていた記憶がよみがえったとされる事件をめぐる論争の中で、強い影響を持つことになります。

一方で、2024年には、この種の実験で数えられてきた「偽りの記憶」が、本当に記憶と呼べるほどのものなのかを問い直す研究も発表され、議論は今も続いています。

抑圧された記憶をめぐる時代

1980年代から90年代のアメリカでは、心理療法を受けていた大人が、子どものころに受けた虐待の記憶を、セラピーの中で初めて思い出したと訴える事例が相次いでいました。中には、その記憶をもとに家族が訴えられ、裁判になるケースも少なくなかったようです。

本人には鮮明な記憶があっても、それが本当に起きたことなのか、それともセラピーの中で繰り返し想像したり、暗示を受けたりするうちに作られたものなのかを、外から見分けるのはとても難しい問題です。ロフタスは、後者のような偽りの記憶が実際に作られうることを、実験で示そうと考えました。

ただし、虐待のような出来事の記憶を実験で植え付けることは、倫理的に許されません。そこで選ばれたのが、多くの人にとって起きてもおかしくなく、ある程度つらいけれど深い傷にはならない、ショッピングモールで迷子になるという出来事でした。

4つの思い出のうち1つは作り話

実験に参加したのは、アメリカのワシントン大学の関係者など24人で、年齢は18歳から53歳まででした。研究者たちは、参加者ごとに、親やきょうだいなどの身近な家族に協力してもらい、参加者が子どものころに実際にあった出来事を3つ教えてもらいました。

そのうえで、参加者には、その3つの本当の出来事に、作り話の出来事を1つ加えた、合わせて4つの思い出を書いた冊子が渡されます。作り話の内容は、家族からの情報も取り入れながら、次のようなものになっていました。

5歳くらいのとき、家族で買い物に出かけたショッピングモールで、長いあいだ迷子になった。泣いていたところを、年配の女性が助けてくれて、最後は家族と再会できた。

参加者は、冊子のそれぞれの出来事について覚えていることを書き、その後、1〜2週間のあいだに2回の面接で、改めて詳しく思い出すよう求められました。

図解

4人に1人が迷子の記憶を語った

その結果、本当の出来事については、全体の68%ほどが、何らかの形で思い出されました。一方で、作り話の迷子の出来事については、24人中6人、およそ25%が、全部または一部を思い出したと答えたのです。

中には、迷子になったときに見た店の様子や、助けてくれた女性の服装、そのときの心細さなど、冊子には書かれていなかった細かいことまで付け加えて語る人もいたそうです。

ロフタスたちは、本当の出来事と混ぜて、信頼できる家族の話として示されると、実際にはなかった出来事でも、思い出したと感じる人が出てくると結論づけました。

写真1枚でも記憶は作られる

この実験の後、偽りの記憶を植え付ける研究は世界中で行われるようになったと言われています。

よく知られているのが、2002年にニュージーランドのキンバリー・ウェイドたちが発表した、合成写真を使った研究です。子どものころの本物の写真を加工して、参加者が家族と一緒に熱気球に乗っている写真を作り、何度か見せながら思い出してもらったところ、半数の参加者が、気球に乗った出来事について何らかのことを語るようになったと報告されています。

その一方で、どんな出来事でも植え付けられるわけではないことも分かってきたようです。1997年のキャシー・ペズデックたちの研究では、迷子の話と、子どものころに浣腸をされたというありそうにない話を比べたところ、20人中3人が迷子の記憶を語ったのに対し、浣腸の記憶を語った人は1人もいませんでした。起きてもおかしくないと感じられる出来事ほど、偽りの記憶は作られやすいようです。

2017年には、それまでの8つの研究、合わせて423人のデータを同じ基準で採点し直した分析も発表されていて、そこでは約30%が、はっきりした偽りの記憶を持つようになったと判定されています。

「罪を犯した」という記憶まで作れるのか

2015年には、ジュリア・ショウとスティーブン・ポーターが、思春期に警察沙汰になるような罪を犯したという偽りの記憶を、大学生に植え付けられるかを調べた研究を発表し、70%が偽りの記憶を持つようになったと報告して大きな話題になりました。

しかし2018年、ウェイドたちは、この研究では「そうだったかもしれない」と信じることと、実際に場面を思い出すことが区別されていないと批判しました。両者を分けて採点し直すと、偽りの記憶と呼べるのは26〜30%ほどになるとしています。偽りの記憶の研究では、何をもって「記憶」とするかの判定が、数字を大きく左右すると言えるでしょう。

2023年のアイルランドでの追試

元の実験は24人と規模が小さかったため、2023年に、アイルランドの研究者ジリアン・マーフィーたちが、123人を対象に、手順をあらかじめ登録したうえでの追試を行いました。その結果、偽りの記憶を持つようになったと判定された人は35%で、元の実験より10ポイントほど高くなっています。

「記憶」と呼べるのかという反論

ところが2024年、イギリスの心理学者バーニス・アンドリュースとクリス・ブルーウィンが、このアイルランドの追試で公開された、参加者の発言の記録そのものを読み直す研究を発表しました。

それによると、研究者が偽りの記憶ありと判定した参加者でも、作り話の中心となる6つの要素のうち、はっきり思い出していたのは平均すると2つにも満たず、完全な偽りの記憶と判定された人の20%、部分的な偽りの記憶と判定された人の58%は、そもそも迷子になったこと自体を思い出していなかったそうです。また、参加者の半数は、実際にあった別の似たような体験を語っていた可能性があるとも指摘されています。

アンドリュースとブルーウィンは、研究者が発言の一部を拾って「記憶あり」と判定する方法では、参加者本人が本当に思い出したと感じているかどうかを、うまくとらえられていないのではないかと論じました。

これに対して、偽りの記憶の研究を続けてきたウェイドたちは2025年に、細部の数え方はどうであれ、なかった出来事を思い出したと語る人が一定の割合で出てくることこそが大事なのだ、とする反論を発表しています。私は、偽りの記憶が「作られるかどうか」よりも、「どこからを記憶と呼ぶか」で研究者どうしの判定がこれほど分かれることのほうに、記憶という現象の扱いにくさが表れているように感じています。

ショッピングモールの迷子実験についてよく出る疑問

参加者をだまして大丈夫だったのですか?

実験の後には、作り話が混ざっていたことが参加者に説明されています。偽りの記憶の研究では、こうした説明の後に、作られた記憶がきちんと取り消されるかも調べられていて、2024年には、丁寧な説明を行えば、植え付けられた記憶の多くは取り消すことができたという研究も報告されています。ただ、子ども時代の記憶に関わる研究なので、どこまでの出来事を扱ってよいかについては、今も慎重な判断が求められています。

自分の記憶が本物かどうかを見分ける方法はありますか?

残念ながら、記憶の鮮明さや、細かいことまで思い出せるかどうかでは、本物の記憶と偽りの記憶を確実に見分けることはできないとされています。迷子の実験でも、偽りの記憶を細部まで語る人がいたそうです。大事な出来事については、写真や日記、ほかの人の証言など、記憶の外にある手がかりと照らし合わせることが、ほとんど唯一の確かめ方だと思います。

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ロフタスの目撃証言実験とは|「激突」と聞かれた人は、無かった割れたガラスを見たと答えたsenkohome.com/psych-experiment-loftus/

つらい記憶を消せるとしたら消したいか、という問いは、思考実験の「記憶の消去」の記事で扱っています。

【有名な思考実験】記憶を消す薬 ─ つらい記憶を消したあと、それはまだ私なのかsenkohome.com/thought-experiment-memory-erasure/

まとめ

本記事はショッピングモールの迷子実験について解説しました。如何だったでしょうか。

家族から聞いた本当の思い出に、迷子になったという作り話を1つ混ぜただけで、24人中6人がその出来事を思い出したと語った1995年の実験は、記憶は出来事まるごと作られてしまうことがあることを示したものとして、裁判やセラピーのあり方にまで影響を与えました。その後の研究でも、3割ほどの人が偽りの記憶を語るという結果が繰り返し報告されています。

一方で、そうした「偽りの記憶」の多くは、迷子になったこと自体を思い出していないなど、本人の感覚としての記憶とは違うものだったのではないか、という反論も出てきました。記憶が作り変えられることは確かでも、どこまでを「植え付けられた記憶」と呼んでよいのかは、まだ研究者の間でも答えが出ていないようです。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。