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【未解決問題】コラッツ予想 ─ 小学生の遊びのようなルールに数学が80年勝てない

【未解決問題】コラッツ予想 ─ 小学生の遊びのようなルールに数学が80年勝てない

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「数学がまだ準備できていない問題」とまで言われた「コラッツ予想」について解説します。

ルールを説明します。好きな正の整数を1つ選んでください。偶数なら2で割る。奇数なら3倍して1を足す。出てきた数に同じ操作を繰り返します。たとえば6なら、6→3→10→5→16→8→4→2→1。7なら、7→22→11→34→17→52→26→13→40→20→10→5→16→8→4→2→1。どちらも1に着きました。予想はこうです。「どんな数から始めても、必ず1にたどり着く」。以上です。ルールの説明はこれで全部。そして、この遊びのような問いを、数学は80年以上証明できていません

図解

27が見せる大乱高下

この予想の不気味さは、実際に数を追いかけると体感できます。おすすめの出発点は27です。

27は小さな数ですが、操作を始めると27→82→41→124→62→31→94→47→……と、なかなか降りてきません。むしろ膨らんでいき、途中で9232という出発点の340倍を超える高みまで打ち上がります。そして最終的には、111ステップかけて1に着地します。

隣の26は10ステップ、28は18ステップで着くのに、27だけが111ステップの大旅行をする。この出発点のわずかな違いが軌道の長さを予測不能に変える振る舞いこそ、コラッツ予想の核心的な難しさです。数列の動きには規則性が見えず、雹(ひょう)が雲の中で乱高下してから落ちる様子になぞらえて「雹の数列」という異名まで付いています。

それでも、どの数も最後には1に落ちてくる。コンピュータによる検証で、およそ2の68乗(約3万京、0が20個並ぶ規模)までのすべての数が1に到達することが確認されています。反例は見つかっていません。

「現代の数学はこの問題に対する準備ができていない」

予想の名前は、1930年代にこの問題を考えたとされるドイツの数学者ローター・コラッツに由来します。ただし出自の記録は曖昧で、戦後に数学者の間で口伝えに広まったため、経由した数学者の名前を取って「角谷の問題」(日本の角谷静夫に由来)、「ウラムの予想」など、国や時期によって別名がいくつもあります。あまりに広まったため、「これはソ連が数学者の研究を停滞させるために放った罠だ」という冗談まで流れたと伝えられています。

その危険性を象徴するのが、放浪の天才数学者ポール・エルデシュの有名な言葉です。

現代の数学は、この種の問題に対する準備がまだできていない。

エルデシュは面白い問題に賞金をかけることで知られていましたが、コラッツ予想には500ドルを提示しました。金額の大小ではなく、「これは手を出すと帰ってこられない問題だ」という警告として、この言葉は数学者の間で語り継がれています。実際、優秀な若手がこの問題に沈んでいくことは「コラッツ病」などと冗談交じりに警戒されてきました。

一方で1972年には、あの「ライフゲーム」で有名なジョン・コンウェイが、コラッツ型のルールを一般化した問題が原理的に決定不能になり得ることを証明しています。つまりこの種の「数をいじる単純ルール」の一族には、論理の力が原理的に届かない領域が本当に存在するのです。コラッツ予想自体がそこに落ちているのかは分かっていません。

なぜこんな単純な問題が証明できないのか

疑問に思うのが自然です。ルールは2行なのに、何がそんなに難しいのでしょうか。

最大の理由は、操作が「桁」の構造を壊してしまうことです。2で割る操作は2進法の世界と相性が良く、3倍して1を足す操作は3進法の世界と相性が良い。ところがこの2つが交互に絡むと、数の構造は両方の世界で予測不能にかき混ぜられます。数論の伝統的な道具は数の構造の規則性を頼りに進むため、構造を壊しながら進むコラッツの数列には足場がありません。

もう一つの理由は、反例の形が2通りあることです。予想が偽なら、「無限に発散し続ける数列」か「1を通らない別のループ」のどちらかが存在するはずですが、そのどちらも存在しないことを同時に示さなければなりません。1へ向かう「平均的な傾向」を示すだけでは、例外の1本を排除できないのです。

統計的には、数列は下る傾向にあることが分かっています。奇数に3倍して1を足すと必ず偶数になるためすぐ2で割られ、操作をならすと1ステップあたり平均では数が縮む計算になります。「平均的には必ず沈む。しかし1本の例外が浮かび続けないとは言い切れない」。この、確率的にはほぼ黒なのに論理では詰め切れない構図は、当シリーズの他の予想とも共通する未解決問題の定番の風景です。

テレンス・タオの「ほぼ全部」

長く進展の乏しかったこの問題に、2019年、現代最高の数学者の一人テレンス・タオが大きな一歩を刻みました。

タオが証明したのは、乱暴に要約すると「ほとんどすべての出発点について、数列はいくらでも小さい値まで降りてくる」という主張です。「すべての数が1に着く」には届きませんが、「ほぼすべての数はほぼ確実に沈む」ことを、これまでで最も強い形で示しました。専門家の間では、「完全解決に至らない範囲では、望みうる最良に近い結果」と評されています。

面白いのは、タオがこの成果に部分的に確率論の道具を持ち込んだことです。決定論的なルールの問題を、確率の問題として攻める。壁を正面から破れないときに土俵ごと変えるという発想は、未解決問題との戦い方の見本だと思います。それでもなおタオ自身が「完全解決は現在の数学の射程外かもしれない」と慎重な姿勢を崩していないところに、エルデシュの警告の重みが今も生きています。

1から逆向きに眺めると、巨大な木が生える

順方向に追うと乱高下の連続ですが、視点を反転させる見方もあります。1から逆向きにたどるのです。

1にたどり着く直前の数は2、その前は4、8、16……と、逆向きの操作は「2倍する」と、条件が合うときだけ使える「1を引いて3で割る」の2通りです。16からは32へも5へも枝分かれできるので、逆にたどると1を根とする巨大な木が枝を広げていきます。コラッツ予想は、この木が「すべての正の整数を枝のどこかに含む」という主張に言い換えられます。取りこぼされた数が1つでもあれば、予想は崩れます。

この「コラッツの木」を描いた図は予想のシンボルとして有名で、枝ぶりは不規則なのに全体としては整然と伸びていく姿が、血管や稲妻や植物の枝に似ていると評されます。単純なルールが生む複雑な形という点で、フラクタルの仲間として鑑賞する楽しみ方もあります。

ちなみに、記録更新が続く全数検証の裏側にも手筋があります。ある出発点の数列が出発点より小さい値に一度でも下がったら、そこで検証を打ち切ってよいのです(それ以下の数はすべて検証済みだからです)。ほとんどの数はすぐ出発点を割り込むため、この省略だけで計算量は劇的に減ります。単純な問題の世界記録も、こうした工夫の積み重ねと専用プログラムによる工学の総力戦で支えられています。

遊びながら疑問に答える

1に着いたらその後はどうなるのですか?

1は奇数なので3倍して1を足すと4になり、4→2→1と戻ってきます。つまり数列の終着点は正確には「4→2→1の永久ループ」です。予想を厳密に言えば「すべての正の整数は、やがてこのループに入る」となります。逆に言うと、反例とは「このループに入らない数」のことで、別のループか無限上昇のどちらかになります。

マイナスの数や、3倍ではなく5倍ではどうなりますか?

負の整数に広げると、様子が一変します。負の側には1に相当しない独立のループが複数見つかっており、正の側の行儀の良さがむしろ例外的に見えてきます。また「5倍して1を足す」ルールに変えると、多くの出発点で数列は発散していくと考えられています。3という係数は、沈む力と浮く力が絶妙に釣り合う境目にあるらしい。このルールいじりは紙と電卓で遊べるので、私はコラッツ予想を「観賞用」ではなく「体験用」の未解決問題として推しています。

プログラミングの練習問題で見たことがある気がします

その通りで、コラッツの数列はループと条件分岐だけで書けるため、プログラミング入門の定番課題です。数行のコードで未解決問題の最前線と同じ景色(27の乱高下など)を再現できます。ただし全数検証の世界記録級を狙うとなると、話は一気に高速化技術の勝負になります。2の68乗までの検証もGPUを駆使した専用プログラムの成果でした。書いて動かして眺めるだけなら10分、記録に挑むなら人生がかかる。裾野の広さも、この問題の愛される理由だと思います。

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単純なルールから宇宙的な数が湧き出す「ハノイの塔」、観察の山では証明に届かない構図が共通する「ゴールドバッハ予想」、決定不能の世界に触れる「ラッセルのパラドックス」の記事です。

まとめ

本記事は「コラッツ予想」について解説しました。如何だったでしょうか。

ルールは2行、検証は29京、賞金は500ドル、そして証明はゼロ。この釣り合わなさが、コラッツ予想の全部です。単純さと難しさはまったく別物だという事実を、これほど鮮やかに突きつける問題を私は他に知りません。

なにより、この問題は電卓一つで誰でも最前線と同じ景色を見られます。まずは27で、雹の乱高下を体験してみてください。111ステップの旅の果てに1へ着地する瞬間は、ちょっとした感動があります。

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