未解決問題

【未解決問題】暗黒エネルギー ─ 宇宙の68%を占め、膨張を加速させる正体不明の力

【未解決問題】暗黒エネルギー ─ 宇宙の68%を占め、膨張を加速させる正体不明の力

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は宇宙で最も大きく、最も謎めいた存在「暗黒エネルギー」について解説します。

宇宙の全エネルギーの内訳を思い出してください。星や地球など普通の物質が5%、見えない暗黒物質が27%。そして残りの実に68%を占めるのが、暗黒エネルギーです。宇宙で断然の主役でありながら、その正体は暗黒物質以上に分かっていません。分かっているのはたった一つ、この謎の何かが、宇宙の膨張をどんどん加速させているということだけです。1998年にこの加速が発見されたとき、天文学者たちは自分の観測結果が信じられなかったと言います。何が起きているのか、順を追って見ていきます。

図解

「減速しているはず」の宇宙が、加速していた

宇宙が膨張していることは、1929年にハッブルが発見して以来の常識です。ビッグバンで始まった宇宙は、今も全方向へ広がり続けています。20世紀末、天文学者たちが調べようとしていたのは、その膨張がどれくらいのペースで減速しているかでした。

減速を予想したのには、まっとうな理由があります。宇宙にある物質は互いに重力で引き合っているので、投げ上げたボールが重力で減速するように、膨張もブレーキがかかって当然だと考えられていたのです。問題は、そのブレーキが強くて宇宙がいつか収縮に転じるのか、弱くて永遠に膨張し続けるのか、どちらかを見極めることでした。

そのために使われたのが、「Ia型超新星」という特別な星の爆発です。この爆発はどれもほぼ同じ明るさで光るという性質があり、見かけの暗さから距離を正確に測れます。いわば宇宙のものさしです。1998年、2つの独立した研究チームがこのものさしで遠い宇宙を測り、驚くべき結果を得ました。遠い超新星が予想より暗い、つまり予想より遠くにあったのです。これは、宇宙の膨張が減速するどころか加速していることを意味していました。ブレーキを探しに行ったら、アクセルが見つかった。研究者たちが自分の目を疑ったのも無理はありません。この発見は2011年のノーベル物理学賞に輝きました。

アインシュタインの「最大の失敗」が復活した

膨張を加速させる何か。重力がすべてを引き寄せる方向に働くなら、それに逆らって空間を押し広げる反発する力が宇宙に満ちていなければなりません。この正体不明の反発する力が、暗黒エネルギーと名付けられました。

面白いことに、この概念にはアインシュタインが絡む前史があります。1917年、アインシュタインは自らの重力理論(一般相対性理論)を宇宙全体に当てはめようとしたとき、方程式のままでは宇宙が重力でつぶれてしまうことに気づきました。そこで彼は、つぶれを防ぐ反発項として「宇宙定数」という力を方程式に付け加えます。ところがその後ハッブルが宇宙膨張を発見し、つぶれを心配する必要がなくなると、アインシュタインは宇宙定数を引っ込め、「生涯最大の失敗だった」と語ったと伝えられています。

1998年の加速の発見は、このお蔵入りしたはずの宇宙定数を、80年ぶりに復活させました。暗黒エネルギーの最も素直な解釈は、まさにアインシュタインの宇宙定数、すなわち「何もない空間そのものが持つ、一定のエネルギー」だと考えられています。宇宙が膨張して空間が増えれば、その分だけ反発するエネルギーも増える。だから膨張が進むほど加速も強まる、というわけです。天才が失敗と呼んで捨てたアイデアが、実は宇宙の主役だったかもしれない。科学史でも屈指の見事な伏線回収だと思います。

物理学史上、最悪の予言

暗黒エネルギーの正体が「何もない空間のエネルギー」だとすれば、それは理論的に計算できるはずです。現代物理学では、真空は完全な無ではなく、ミクロなゆらぎに満ちたエネルギーを持つと考えられているからです。そこで理論家たちが真空のエネルギーを計算し、観測された暗黒エネルギーの量と比べてみました。

結果は、物理学者を凍りつかせるものでした。理論の計算値は、観測値のおよそ10の120乗倍。1のあとに0が120個並ぶ、という桁違いなどという言葉では到底足りない、宇宙的な食い違いです。これは物理学の全歴史を通じて、理論と観測が最もかけ離れた予言とされ、「宇宙定数問題」あるいは半ば自嘲を込めて「物理学最悪の予言」と呼ばれています。

この途方もないずれは、私たちが真空という一番身近な「無」について、根本的に何かを誤解していることを意味します。暗黒エネルギーの謎は、遠い宇宙の話であると同時に、この部屋の空っぽの空間に何が詰まっているのかという、足元の謎でもあるのです。当シリーズの暗黒物質が「宇宙に何かが足りない」謎だとすれば、暗黒エネルギーは「宇宙に説明のつかない何かが多すぎる」謎だと言えます。

宇宙の運命を握る謎

暗黒エネルギーは、単なる学問上のパズルではありません。宇宙全体の未来を左右するからです。

暗黒エネルギーの反発が今後も一定なら、宇宙は永遠に加速膨張を続け、遠い銀河は一つずつ視界の彼方へ加速しながら消えていきます。はるか未来には、夜空から他の銀河がすべて見えなくなるとも予想されています。もし暗黒エネルギーの反発が時間とともに強まっていくなら、いつか銀河も星も原子さえも引き裂かれる「ビッグリップ」という終末が待っているかもしれません。逆にもし弱まって反転すれば、宇宙は再び収縮に向かう可能性もあります。宇宙が永遠に広がるのか、いつか引き裂かれるのか、その分岐点を握っているのが暗黒エネルギーの正体なのです。

だからこそ、世界中の天文学者がこの謎に挑んでいます。近年は宇宙の膨張史を精密に描き出す大型望遠鏡や観測衛星が次々と稼働し、暗黒エネルギーは本当に一定なのか、それとも時間とともに変化しているのかを見極めようとしています。2020年代に入って、暗黒エネルギーがわずかに変化している可能性を示唆する観測結果も報告され始め、議論が活発になっています。もしこれが確定すれば、アインシュタインの宇宙定数という素直な解釈は崩れ、宇宙論は再び書き換えを迫られます。

そもそも「反発する力」がなぜ生まれるのか

重力といえば物を引き寄せる力なのに、なぜ暗黒エネルギーは押し広げる方向に働くのか。ここは直感に反するので、少し補っておきます。

鍵は、アインシュタインの重力理論ではエネルギーや圧力そのものが重力の源になるという点です。普通の物質は正の圧力を持ち、これは引き寄せる方向の重力を生みます。ところが、もし負の圧力(引っぱるのではなく、まわりを押し返すような性質)を持つ何かがあれば、それは反発する重力を生むのです。暗黒エネルギー、すなわち何もない空間のエネルギーは、まさにこの負の圧力を持つと考えられています。

私たちの日常感覚では「エネルギーが多いほど強く引き合う」としか思えないので、この負の圧力による反発はなかなか呑み込めません。しかしこれは、アインシュタインの理論から素直に導かれる帰結です。日常の直感が通じないところにこそ、宇宙の本当の姿が隠れている。暗黒エネルギーの反発は、その象徴のような現象だと思います。ここは無理に納得しようとせず、「空間そのもののエネルギーは、押し広げる向きに働くらしい」という事実だけ受け取ってもらえれば十分です。

暗黒エネルギーをめぐる疑問

暗黒物質と暗黒エネルギーは何が違うのですか?

名前は似ていますが、働きは正反対です。暗黒物質は重力で物質を引き寄せ、銀河をまとめる「引く」役暗黒エネルギーは空間を押し広げ、膨張を加速させる「押す」役です。存在する場所も違い、暗黒物質は銀河のまわりに濃く集まっているのに対し、暗黒エネルギーは宇宙のあらゆる空間に均一に薄く広がっていると考えられています。共通点は「正体不明」と「暗黒という命名」だけ、と割り切って覚えるのが正確です。当サイトの暗黒物質の記事と合わせて読むと、宇宙の95%を占める二つの謎の対照がくっきりします。

私たちの日常生活で暗黒エネルギーを感じることはありますか?

ありません。暗黒エネルギーの反発は、宇宙のように広大なスケールでようやく効いてくるほど弱いものです。太陽系や銀河のような、重力で強く結びついた狭い領域では、暗黒エネルギーの押す力は重力に完全に負けており、影響はまったく感じられません。地球が太陽から引き離される心配も、あなたの体が引き伸ばされる心配も無用です。暗黒エネルギーが主役になるのは、重力がほとんど効かない銀河と銀河の間の、がらんとした広大な空間なのです。

「暗黒」とついていますが、危険なものなのですか?

まったく危険ではありませんし、SFに出てくるような邪悪な力でもありません。「暗黒(ダーク)」という言葉は、光を出さず観測にかからない、つまり「見えない・正体が分からない」という意味で付けられた、いわば科学者の正直なラベルです。恐ろしげな響きですが、中身は「まだ名前を付けられない何か」という謙虚な告白にすぎません。未知を未知として正確に呼ぶ、科学の誠実さの表れだと私は受け止めています。

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宇宙のもう一つの見えない主役「暗黒物質」、宇宙の運動の予測不能性を扱う「3体問題」、そして夜空はなぜ暗いのかという宇宙論の古典「オルバースのパラドックス」の記事です。

まとめ

本記事は「暗黒エネルギー」について解説しました。如何だったでしょうか。

宇宙の68%を占める断然の主役なのに、正体は物理学最大級の謎。アインシュタインが捨てたアイデアが80年後によみがえり、その理論値は観測と10の120乗もずれている。分かっていないことのスケールが、文字通り宇宙規模なのが暗黒エネルギーです。

星も地球も私たちも、宇宙のたった5%にすぎない。残りの95%は暗黒物質と暗黒エネルギーという二つの謎で占められている。この事実は少し不安にも聞こえますが、私はむしろ、これから解き明かすべき宇宙が95%も手つかずで残っているという、途方もなく豊かな知的フロンティアの宣言だと感じています。

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