心理学実験

ランガーのコピー機実験とは|「コピーを取らなければならないので」で順番を譲ってもらえた?

ランガーのコピー機実験とは|「コピーを取らなければならないので」で順番を譲ってもらえた?

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「ランガーのコピー機実験」について解説します。

ランガーのコピー機実験は、1978年にアメリカの心理学者エレン・ランガー、アーサー・ブランク、ベンジオン・チャノウィッツが、コピー機を使おうとしている人に順番を譲ってもらうお願いをして、その言い方によって応じてくれる人の割合がどう変わるかを調べた実験のことです。人は相手の話をよく考えて判断しているように見えて、実は決まった形に反応しているだけのことが多いのではないか、という考えを確かめるために行われました。

この実験は、「なぜなら」という言葉の力を示したものとして、ビジネス書や交渉術の本でもよく紹介されているようです。「コピーを取らなければならないので」という、よく考えると何の説明にもなっていない理由をつけただけで、順番を譲ってくれる人が大きく増えた、という話です。

ただ、同じ論文の中には、お願いが大きくなると中身のない理由では効かなくなった、という結果も載っていて、さらに1985年に行われた追試では、有名な結果そのものが再現されなかったとも報告されています。理由をつけると人が動く、という話は、思われているほど単純ではなさそうです。

大学院のコピー機の前で

実験が行われたのは、ニューヨーク市立大学の大学院センターでした。コピー機を使おうとしている人に、実験の協力者が近づいて、先に使わせてほしいと頼みます。対象になったのは、たまたまその場に居合わせた120人の大人でした。

頼み方は3通りに分けられていました。

頼み方実際のことば(趣旨)
理由なしすみません、5ページあるのですが、コピー機を使わせてもらえますか
本当の理由すみません、5ページあるのですが、急いでいるので、コピー機を使わせてもらえますか
中身のない理由すみません、5ページあるのですが、コピーを取らなければならないので、コピー機を使わせてもらえますか

3つ目の頼み方の「コピーを取らなければならないので」は、コピー機の前にいる人なら全員に当てはまることで、先に使わせてもらう理由にはまったくなっていません。研究者たちは、このような理由を、本物の薬に似せた偽薬になぞらえて「プラセボ的な理由」と呼びました。

さらに、頼むページ数を5ページにする場合と20ページにする場合も用意されていて、相手にとって負担の小さいお願いと大きいお願いで、反応がどう違うかも比べられています。

5ページなら、中身のない理由でも通った

図解

5ページのお願いでは、理由を言わなかった場合に順番を譲ってくれた人は60%でした。これに対し、「急いでいるので」という本当の理由をつけると94%、「コピーを取らなければならないので」という中身のない理由でも93%が譲ってくれたのです。

本当の理由と中身のない理由で、ほとんど差がなかったのは意外だと思います。ランガーたちは、相手は理由の中身を考えていたのではなく、「お願い」と「〜なので」という形がそろっていることに反応して、ほとんど自動的に応じていたのではないか、と考えました。人は日々の決まったやりとりでは、いちいち中身を吟味せずに、慣れた手順のとおりに振る舞っている、というのがランガーの主張です。

20ページになると中身が問われた

これが20ページのお願いになると、結果はがらりと変わりました。理由なしでは24%、中身のない理由をつけても24%で、まったく増えませんでした。本当の理由をつけた場合だけが42%に増えていました。

相手にとって負担の大きいお願いになると、人はきちんと理由の中身を聞いて判断するようになる、ということでしょう。この20ページの結果は、有名な「なぜなら」の話では省かれることが多いのですが、論文の結論にとってはむしろ大事な部分だったと思います。

存在しない部屋へ返されたメモ

ランガーたちは同じ論文の中で、書かれた文書でも同じことが起きるのかを確かめる実験も報告しています。

その前段として行われたのが、郵便で送った意味のないアンケートの実験です。研究者たちは、電話帳から無作為に選んだ40人と、電話帳の「医師」の欄から選んだ40人に、「森と遊び場では、どちらが時間を過ごすのに楽しい公共の場所か?」といった、答えてもしかたのない5つの質問を郵送しました。添え状には、お願いの形で署名があるものと、命令の形で署名がないものといった、よく見かける組み合わせのものと、そうでない組み合わせのものがありました。

医師のグループでは、よく見かける形の添え状だと55%が返送したのに対し、見慣れない形では32%にとどまりました。ところが、無作為に選んだグループでは、見慣れた形の添え状のほうがかえって返送が少なく(20%と37%)、逆の結果になっていました。研究者たちは、どんな書き方が「見慣れた形」なのかは、ふだんどんな文書を受け取っているかによって人ごとに違うのだろう、と考えました。

そこで次の実験では、まず研究者たちが、ニューヨーク市立大学の大学院センターで働く20人の秘書のごみ箱から、ふだんやりとりされているメモを83枚集めました。調べてみると、その68%は、「〜してください」とお願いする形で、最後に署名がないという書き方をしていました。秘書たちにとって、いちばん見慣れていたのはこの書き方だったのでしょう。

次に研究者たちは、40人の秘書に、学内便で中身のないメモを送りました。書かれていたのは、「この紙を、すぐに238号室まで学内便で返送してください」という一文だけです。実は238号室という部屋は建物の中に存在せず、返送されたメモは郵便係が取っておく手はずになっていました。

メモの書き方署名あり署名なし
お願いする形50%90%
命令する形60%70%

その結果、いちばん見慣れたお願いの形で署名なしのメモでは、10人中9人が、ただ返送しろと書かれただけの意味のない紙を、存在しない部屋に向けて送り返していました。ほかの書き方では、平均すると6割ほどでした。研究者たちは、いつもどおりの形をしたメモほど、中身を考えずに処理されていたのだと考えています。

ただし、こちらも1つの条件あたり10人ずつの小さな実験で、見慣れた形とそうでない形の差は、統計的にぎりぎり意味があると言える程度でした。

1985年の追試では再現されなかった

1985年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者ヴァレリー・フォークスが、同じようにコピー機の前で人に頼む方法を使って、4つの研究を行いました。

その結果、理由の中身によって、応じてくれる人の割合ははっきり変わっていたそうです。「待ちたくないので」のように、頼む側の都合で選んだ理由では応じる人が少なく、「とても気分が悪いので」のように、本人にはどうしようもない事情を理由にした場合には、応じる人が多くなっていました。

そして、ランガーたちの頼み方を使った研究では、中身のない理由が本当の理由と同じくらい効く、という結果は再現されませんでした。フォークスは、人は思われているよりも、お願いの中身をちゃんと聞いて判断している、と結論づけています。

元の実験は、1つの条件あたり20人前後と人数が少なかったことも指摘されています。中身のない理由でも人が動いたという結果は、まったくの間違いとは言えないものの、どんな場面でも成り立つ法則として受け取るのは、少し言い過ぎだと考えられます。正直、「なぜなら」の話は元の論文の20ページの結果まで読むと印象がかなり変わるので、ビジネス書でこの実験を見かけたときは、少し割り引いて読むくらいがいいと私は思っています。

「マインドレス」と「マインドフル」

それでも、この実験が心理学に与えた影響は小さくありません。ランガーは、人がよく考えずに習慣どおりに振る舞っている状態を「マインドレスネス」と呼び、その反対に、目の前の新しいことに気づいている状態を「マインドフルネス」と呼んで、その後の研究の中心に置いていきます。

ランガーは1981年に、ハーバード大学の心理学科で女性として初めて終身在職権を得た研究者で、1989年には『マインドフルネス』という本も書いています。今では瞑想の文脈で使われることの多いマインドフルネスという言葉ですが、ランガーの言うマインドフルネスは瞑想とは別のもので、新しいことに気づき、決まった見方にとらわれない態度のことを指しています。

また、このコピー機の実験は、心理学者ロバート・チャルディーニが1984年に書いた説得についての本『影響力の武器』で大きく取り上げられ、心理学の外にまで広く知られるようになったようです。

ランガーのコピー機実験についてよく出る疑問

お願いには理由をつけたほうがよいのですか?

本当の理由をつけたほうが応じてもらいやすい、という点は、元の実験でも追試でも共通しています。特に、相手にとって負担の大きいお願いほど、理由の中身が見られるようになるので、形だけの理由ではなく、相手が納得できる事情を説明するほうが確かだと思います。「なぜなら」と言えば何でも通る、と考えるのは、20ページの結果を見る限り無理がありそうです。

日本人でも同じ結果になるのですか?

コピー機の実験をそのまま日本で行った研究は、私の調べた範囲では見つかりませんでした。順番を譲ることへの感覚や、知らない人に話しかけられたときの反応は、国や時代によってもかなり違うはずなので、元の数字がそのまま当てはまるとは考えにくいでしょう。

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まとめ

本記事はランガーのコピー機実験について解説しました。如何だったでしょうか。

「コピーを取らなければならないので」という中身のない理由でも、5ページのお願いなら93%が順番を譲ってくれたという結果は、人は相手の言葉の中身よりも、お願いの形に反応していることがあるという考えを、わかりやすく示したものでした。この発想は、後にランガーが打ち出したマインドフルネスの研究にもつながっています。

一方で、20ページのお願いになると中身のない理由はまったく効かず、1985年の追試では有名な結果そのものが再現されませんでした。「なぜなら」は魔法の言葉、という紹介を見かけたら、その陰に20ページの結果と再現の失敗があったことも一緒に思い出してもらえればと思います。

ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。