心理学実験

スタンフォード監獄実験とは|看守役が6日で暴走した実験と、2018年に出てきた演出の証拠

スタンフォード監獄実験とは|看守役が6日で暴走した実験と、2018年に出てきた演出の証拠

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「スタンフォード監獄実験」について解説します。

スタンフォード監獄実験は、1971年の夏にスタンフォード大学の心理学者フィリップ・ジンバルドーが、ごく普通の大学生24人をくじで看守役と囚人役に分け、大学の地下に作った模擬刑務所で生活させた実験です。2週間の予定だった実験は、看守役の振る舞いがあまりに過激になったため6日で打ち切られたとされていて、「人は役割と状況しだいで、誰でも残酷になれる」ことを示した実験として長く教科書に載ってきました。

映画にも何度もなっているので、名前を聞いたことがある人は多いと思います。ところが2018年ごろから、スタンフォード大学に残された録音や資料を調べた研究者やジャーナリストによって、看守役は実験者側から「厳しくするように」と指示されていたことや、有名な囚人役の取り乱しが演技だったと本人が語っていることなどが、次々と明らかになりました。

6日間に何が起きたとされてきたのかと、その後の検証で分かったことを並べてみると、この実験から今も言えることと、もう言えなくなったことの境目は、かなりはっきりしてくると思います。

大学の地下に作られた模擬刑務所

実験の参加者は、地元の新聞に出された「刑務所生活の心理学的研究に参加する男子大学生を募集。1日15ドル、期間は1〜2週間」という広告で集められました。応募してきた75人に面接と心理テストを行い、心身ともに健康で、犯罪歴や薬物の問題がない24人が選ばれています。

選ばれた学生はコイン投げで看守役と囚人役に振り分けられ、それぞれ9人が実際の役につき、残りは控えに回りました。看守役は3人ずつ3交代で8時間の勤務をこなし、囚人役は24時間ずっと「刑務所」の中で過ごす決まりです。

刑務所は、心理学部の建物の地下の廊下を板で仕切って作られていました。実験室を改造した3つの独房、廊下の物置を使った「独房監禁室」(幅も奥行きも1メートルに満たない真っ暗な空間です)、看守の詰め所、そしてジンバルドーたちが様子を見る観察室があり、廊下には隠しカメラとマイクが仕掛けられていました。

ジンバルドー自身は「刑務所長」の役を引き受け、学生の1人が副所長役として看守たちを取りまとめる形になっていました。研究者が観察者であると同時に、刑務所の運営者でもあったという点は、後で大きな問題として指摘されることになります。

本物の警察による「逮捕」から始まった

実験の初日、囚人役の学生たちは自宅で本物のパロアルト警察のパトカーに迎えに来られ、近所の人が見ている前で手錠をかけられて連行されました。警察署で指紋を取られ、目隠しをされて地下の刑務所に運ばれると、服を脱がされて消毒剤の粉をかけられ、番号の付いた丈の長いスモック(下着は無し)とナイロンのストッキングで作った帽子を身につけさせられます。

右の足首には鎖が付けられ、名前ではなく番号で呼ばれることになりました。看守役のほうはカーキ色の制服に、目の表情を隠すミラー型のサングラス、警察から借りた警棒という格好で、どちらの服装も「個人であること」を薄めるように選ばれていたとされています。

6日間に何が起きたとされてきたか

ジンバルドーの著書や講演で語られてきた経過を、まずはそのまま紹介します。

図解

1日目はどこかぎこちなく、看守役も囚人役も自分の役割をどう演じればいいのか戸惑っているような雰囲気だったそうです。ところが2日目の朝、囚人役たちが番号の札をはぎ取り、ベッドで独房の扉を塞いで看守役に反抗する、という出来事が起きます。

看守役たちは応援を呼び、消火器の二酸化炭素を独房の中に噴射して囚人を扉から引き離し、ベッドを運び出して首謀者を独房監禁室に入れました。ここから看守役の締め付けが一気に強まり、夜中に何度も囚人を起こして番号を唱えさせる点呼、腕立て伏せの強制、トイレに行かせずバケツで用を足させる、といった扱いが日常になっていきます。

囚人役の側では、実験開始から36時間ほどで1人が激しく取り乱し、泣き叫んで「中から出してくれ」と訴えたため、最初の離脱者として解放されました。その後も精神的に追い詰められて途中で外れた囚人役が何人か出ています。

看守役の中でも特に有名なのが、南部なまりの口調で囚人を辱めるような命令を次々と出し、仲間内で「ジョン・ウェイン」と呼ばれた学生です。一方で、看守役全員が残酷になったわけではなく、ジンバルドー自身もはっきり虐待的だったのは看守役の3分の1ほどで、規則に厳しいだけの人や、囚人に親切にしようとした人もいたと書いています。

中止を決めたのは外から来た1人だった

実験が終わったきっかけは、5日目の夜に施設を訪れたクリスティーナ・マスラックという若い心理学者でした。彼女はジンバルドーの恋人(後に妻)で、袋をかぶせられ、足を鎖でつながれたまま一列でトイレに連れて行かれる囚人役の姿を見て、強く抗議したと言われています。

それまでに親や友人、神父、仮釈放の審査役など、50人以上の人が実験を見に来ていたのですが、実験そのものをやめるべきだと言ったのは彼女だけだったそうです。ジンバルドーは後に、自分も刑務所長の役にのめり込み、研究者として止めるべき状態に気づけなくなっていたと認め、翌日の朝に実験を中止しました。

ここまでが、長く語られてきたスタンフォード監獄実験の姿です。看守役も囚人役も、もとはどこにでもいる大学生で、違いはくじで振り分けられた役割だけだったのに、わずか数日でここまで変わってしまった、というのがこの実験の売りでした。

録音テープが語っていた別の経緯

この語られ方に大きな疑問を投げかけたのが、フランスの研究者ティボー・ル・テクシエです。彼はスタンフォード大学に保管されている実験の録音や資料、参加者のメモを調べ、2018年に本にまとめ、翌年にはアメリカ心理学会の学術誌にも論文を出しています。同じ頃、アメリカのジャーナリストのベン・ブルームも、当時の参加者への取材をもとにした長い記事を発表しました。

彼らが示したことの中で一番重いのは、看守役が自然に残酷になったのではなく、実験者側から振る舞い方を指示されていたという点です。実験の前日に行われた看守役への説明の録音で、ジンバルドーは囚人に退屈や恐怖を感じさせ、プライバシーを奪い、個人であることを失わせる、といった方針をはっきり伝えていました。

副所長役の学生が、やる気の見えない看守役に「もっと厳しくしてほしい、これは実験に必要なことだ」と働きかけている録音も残っていて、看守役から見れば、「研究者が望んでいる結果を出すために、厳しい看守を演じた」という面がかなりあったようです。

「ジョン・ウェイン」と取り乱した囚人の証言

有名な場面の当事者たちの証言も、話の印象を大きく変えるものでした。

「ジョン・ウェイン」と呼ばれた看守役の学生は、後のインタビューで、自分は映画『暴力脱獄』に出てくる刑務所長を下敷きにして、意図的に残酷な看守を演じていたと語っています。実験が退屈なまま終わらないよう、何か面白いことが起きるようにしたかった、という趣旨の話もしていて、本人の中では「状況に飲まれた」というより「役を作り込んだ」感覚に近かったようです。

最初に取り乱して解放された囚人役の学生も、2017年のブルームの取材に対して、あれは試験勉強をするために早く外に出たくて、取り乱したふりをしたのだと話しています。彼は実験に参加すれば空き時間に勉強ができると思っていたのに、教科書を読ませてもらえなかったので、出してもらうための方法として叫んだのだそうです。

さらに、囚人役が「やめたい」と言っても簡単には出してもらえなかったことも、ここで問題になりました。参加者は自分の意思でいつでも抜けられる、というのが研究倫理の基本なのですが、残された録音では、やめたいと申し出た囚人役に対して、ジンバルドーが「やめられるのは、医学的な理由か精神的な理由がある場合だけだ」と伝えていたことが分かっています。

もちろん、実際の当事者の記憶も50年近くたってからのもので、すべてを額面どおりに受け取れるわけではありません。ただ、少なくとも「誰の指示もなく、普通の学生が自然に看守らしく残酷になった」という語られ方は、残された資料とはかなり食い違っている、というのが今の大方の見方だと思います。

誰が応募してきたのかという問題

検証が進む前から指摘されていた弱点もあります。2007年にアメリカの研究者トーマス・カーナハンとサム・マクファーランドは、スタンフォードと同じ「刑務所生活の心理学的研究」という文言の広告と、ただの「心理学的研究」という広告で人を集め、応募者の性格を比べる研究をしています。

その結果、「刑務所生活」と書かれた広告に応募してきた人のほうが、攻撃性や権威主義、自己愛の傾向が高く、共感性や利他性が低いという差が出ました。テストでふるい分けたとはいえ、そもそも「刑務所の実験」に惹かれて応募してくる人が、平均的な大学生とは少し違う集団だった可能性があるわけです。

加えて、参加者が24人と少なく、対照群もなく、研究者自身が刑務所長として場を動かしていたという作りでは、何が結果を生んだのかを切り分けることができません。この実験が当時、心理学の主要な学術誌に査読付きの論文として載らなかったのも、そうした弱さが理由だったのかもしれません。

BBCがやり直した監獄実験

同じような状況を、もう少し慎重な形で作り直した研究もあります。2002年にイギリスの心理学者スティーブン・ライカーとアレクサンダー・ハスラムが、BBCの番組の協力で行った「BBC監獄実験」です。

こちらは15人の男性を看守役と囚人役に分け、倫理委員会や臨床心理士が常に見守る中で8日間の生活を送らせるものでしたが、看守役に振る舞い方の指示は出さないようにしていました。結果は、ジンバルドーの語ったものとはまったく違う展開になります。

看守役たちは権力を振るうことにためらいを見せ、まとまることができなかった一方で、囚人役たちは仲間としての結束を強めて看守役に対抗し、やがて両者が対等に暮らす共同体のような体制ができあがりました。その体制がうまく回らなくなると、今度は一部の参加者が強いリーダーによる厳しい体制を作ろうとし始め、そこで実験は終了しています。

ライカーとハスラムは、人は役割を与えられただけで自動的に残酷になるのではなく、「自分がどの集団に属し、その集団が何を目指しているのか」を受け入れたときに、その集団の規範に沿って振る舞うのだと結論づけました。これはミルグラム実験の読み直しで彼らが出した考え方とも同じ線上にあります。

アブグレイブ刑務所と「ルシファー効果」

スタンフォード監獄実験が再び大きな注目を浴びたのは、2004年にイラクのアブグレイブ刑務所で、アメリカ兵が収容者を虐待していた写真が公開されたときでした。ジンバルドーは被告となった兵士の裁判で証言し、問題は一部の「腐ったリンゴ」ではなく、リンゴを腐らせる「樽」、つまり状況と組織の側にある、と訴えています。

この考え方は2007年の著書『ルシファー・エフェクト』にまとめられ、善良な人が状況しだいで悪に転じる仕組みとして広く知られるようになりました。指揮系統や監督の仕組みに目を向けるという主張そのものには、今でも聞くべきところがあると私は思っています。

ただ、その根拠としてスタンフォード監獄実験を持ち出せるのかというと、先ほどの検証を踏まえるとかなり苦しくなってきます。看守役が指示を受けていたのであれば、あの実験で起きたことは「状況が自然に人を変えた」例ではなく、「上から厳しくしろと言われた人たちが、それに応えた」例だと見るほうが自然だからです。

ジンバルドーは2018年の批判に対して、看守役に具体的な虐待の方法を指示したことはなく、実験の結論は変わらないと反論していました。彼は2024年に91歳で亡くなっていますが、この実験をめぐる議論は今も決着していないと言っていいと思います。

スタンフォード監獄実験についてよく出る疑問

映画になった作品はどれですか?

2001年のドイツ映画『es[エス]』(原題は『Das Experiment』)はこの実験をもとにした小説の映画化で、かなり脚色されています。2015年のアメリカ映画『プリズン・エクスペリメント』は、実験の経過を比較的忠実に追った作品です。どちらも検証が進む前に作られているので、看守役への指示のような点は描かれていないか、描かれ方が今の理解とは違っています。

なぜこんな実験に大学の許可が下りたのですか?

当時のアメリカには、人を対象にした研究を事前に審査する仕組みがまだ十分に整っていませんでした。実験は大学の審査を一応通っていて、海軍研究局の資金も入っていましたが、2週間のあいだ参加者がどれだけ追い詰められるのかは、事前にはほとんど想定されていなかったようです。この実験やミルグラム実験は、その後に倫理審査が厳しくなっていく流れの中で、繰り返し反面教師として取り上げられることになりました。

関連する実験と記事

権威の指示に人がどこまで従うのかを確かめたミルグラム実験は、ハスラムとライカーの読み直しも含めて、この実験とよく並べて語られます。

ミルグラム実験(アイヒマン実験)とは|6割超が最大電圧まで押した服従の実験と、その後の検証senkohome.com/psych-experiment-milgram/

役割や集団の中で判断がゆがむ話としては、同調実験や、集団の内と外で見方が変わる認知バイアスの記事も近い内容です。

まとめ

本記事はスタンフォード監獄実験について解説しました。如何だったでしょうか。

普通の学生が数日で残酷な看守に変わったという話は、物語としてとても分かりやすく、だからこそ半世紀にわたって語り継がれてきたのだと思います。ただ、残された録音や当事者の証言を見る限り、看守役は実験者側の期待を受け取って動いていた面が大きく、「役割を与えられただけで人は自然に残酷になる」という結論をこの実験から引き出すのは難しくなっています。

一方で、BBCの再現実験からは、人が集団の目的を自分のものとして受け入れたときに振る舞いが大きく変わる、という別の形の結論が見えてきています。誰がその場の方針を決め、何を正しいこととして伝えているのかに目を向けることこそ、この実験から今も引き出せる教訓ではないでしょうか。

ほかの有名な心理学実験は、一覧の記事からまとめて読めます。

有名な心理学実験の一覧|ミルグラム実験・スタンフォード監獄実験などの結論は今も正しいのかsenkohome.com/psych-experiment-list/

それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。