未解決問題

【未解決問題】奇数完全数 ─ 2000年以上探して1個も見つからない「完璧な数」

【未解決問題】奇数完全数 ─ 2000年以上探して1個も見つからない「完璧な数」

当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「数学最古の未解決問題」とも呼ばれる「奇数完全数」の謎について解説します。

6という数は、自分以外の約数が1、2、3で、足すと1+2+3=6。自分自身にぴたりと戻ります。28も同じで、1+2+4+7+14=28。このような数は古代ギリシアで「完全数」と名付けられ、神聖視されてきました。ところが、これまでに見つかった完全数は52個すべてが偶数です。奇数の完全数は存在するのか。この問いは2000年以上誰にも答えられておらず、記録に残る限り最も古い未解決問題と言われています。

図解

6と28が「完全」と呼ばれた理由

完全数とは、自分自身を除く約数(真の約数)をすべて足すと、元の数に一致する数のことです。小さい順に、6、28、496、8128。この4個は古代ギリシアの時代から知られていました。

古代の人々はこの均整に神秘を見ました。約数の和が元の数に届かない数(たとえば10は1+2+5=8で不足)は「不足数」、超えてしまう数(12は1+2+3+4+6=16で超過)は「過剰数」と呼ばれます。その間で「過不足なく釣り合う」数だけが完全数です。後世のキリスト教世界では、「神が世界を6日で創ったのは6が完全数だから」「月の周期が28日なのも完全数だから」といった解釈まで生まれました。神学はさておき、数直線の上にごく稀にしか現れないこの数が、特別視されたのは自然なことだと思います。

ピタゴラスの学派は、完全数の親戚である「友愛数」も尊んでいました。220と284のペアは、220の約数の和が284、284の約数の和が220と、互いの約数の和が相手になる関係にあります。数を人格や関係の象徴として眺めるこの感性が、約数の和という地味な計算を2000年続く研究対象に育てたわけです。

実際、完全数は驚くほど希少です。1万までに4個、その次の5番目(33,550,336)が見つかるまでに1000年以上かかりました。現在知られている完全数は全部で52個。そして冒頭の通り、その52個は一つ残らず偶数です。

ユークリッドとオイラーが偶数側を完全解明した

偶数の完全数については、実は謎がほぼ解明されています。しかもその解明は、2000年がかりのリレーでした。

第一走者は紀元前300年頃のユークリッドです。彼は『原論』の中で、「2のp乗−1が素数ならば、それに2のp−1乗を掛けた数は完全数になる」ことを証明しました。たとえば2の2乗−1=3は素数なので、3×2=6は完全数。2の3乗−1=7も素数なので、7×4=28は完全数、という具合です。

この「2のp乗−1」の形の素数は、17世紀の修道士メルセンヌにちなんでメルセンヌ素数と呼ばれます。そして第二走者のオイラーが18世紀に、逆方向を証明しました。すべての偶数完全数は、必ずユークリッドの形をしている。つまり、偶数完全数とメルセンヌ素数は「完全な1対1対応」にあるのです。

この対応のおかげで、偶数完全数の探索は「メルセンヌ素数探し」に置き換わりました。現在の探索は世界中のボランティアのパソコンをつないだ分散コンピューティング計画(GIMPS)が担っており、既知の最大のメルセンヌ素数は4100万桁を超える怪物です。新しいメルセンヌ素数が1個見つかるたびに、完全数のリストも1個伸びる。52個という数字は、この二人三脚の現在のスコアです。

世界中のパソコンが挑む「素数ハンター」の現場

メルセンヌ素数探しの現在は、なかなか痛快な世界です。1996年に始まった分散コンピューティング計画GIMPSは、世界中の有志が自宅のパソコンの空き時間を提供して巨大素数を探すという仕組みで、四半世紀にわたって記録を独占してきました。参加は誰でも無料ででき、新しいメルセンヌ素数の発見者として名前が残ります。

発見には賞金も絡んできました。電子フロンティア財団は桁数の節目に賞金を設けており、1000万桁超えの素数には10万ドルが支払われた実績があります(次の節目である1億桁には15万ドルが今も懸かっています)。そして直近の52番目のメルセンヌ素数は、個人が大規模なクラウドのGPU群を借り上げて発見したもので、「自宅のパソコンの時代」から「クラウドの時代」への移行を印象づけました。

完全数の探索が、古代ギリシアの神秘思想から、修道士の予想リストを経て、世界中の計算資源を束ねる競技になった。2300年もののパズルが今も現役の競技場であることは、この問題の一番の自慢だと思います。

奇数側は「存在すら分からない」まま2000年

偶数側の見事な理論と対照的に、奇数側は驚くほど何も分かっていません。

「奇数の完全数は存在するか」という問いに対する現状の答えは、「1個も見つかっていないが、存在しないという証明もない」です。ユークリッドから数えて2300年、この問いは肯定も否定もされていません。デカルトやオイラーも取り組み、オイラーは「存在するなら特定の形をしているはず」という条件を絞り込みましたが、決着には遠く及びませんでした。

現代の探索は、コンピュータによる下限の押し上げという形で進んでいます。現在までに、10の1500乗未満には奇数完全数が存在しないことが証明されています。宇宙の原子の総数が10の80乗程度ですから、探索済みの範囲はそれをはるかに超える規模です。さらに、もし存在するなら「素因数を多数持たなければならない」「特定の形の素因数を含まなければならない」といった厳しい条件が何十も積み上がっており、奇数完全数の潜伏可能な領域は年々狭まっています。

多くの数学者は「存在しない」と予想しています。しかし、これだけ条件で追い詰めても、「存在しない」ことの証明には独立した新しいアイデアが必要だと考えられています。容疑者の潜伏先をいくら狭めても、「どこにもいない」ことの証明にはならない。ゴールドバッハ予想の検証と同じ、有限の探索と無限の証明の間の溝がここにもあります。

「役に立たない」を2300年続ける贅沢

完全数の研究は、実用性という物差しではほぼゼロ点です。暗号に使われる素数と違い、完全数そのものの産業応用は見当たりません。それでも私は、この問題のことを未解決問題ジャンルの「純粋さの象徴」として気に入っています。

理由の一つは、この問題が数学の寿命の長さを教えてくれるからです。ユークリッドが証明した定理は、2300年後の今日もそのまま正しく、GIMPSの探索プログラムの土台として現役で働いています。科学の理論が数十年で書き換わるのに対し、証明された数学は決して古びない。完全数の歴史は、その事実の生きた展示です。

もう一つは、「単純な問いほど手強い」というこのジャンル共通の逆説を、最古の実例として体現しているからです。約数を足すだけの小学生にも分かる遊びが、コラッツ予想よりリーマン予想より長く、人類の全歴史を通じて未解決であり続けている。数の世界の底知れなさを一番安く体験できる問題だと思います。

奇数完全数はどこまで追い詰められているのか

「ほぼ存在しない」なら、存在しないと決めてよいのでは?

数学ではそれができません。実際、この分野には教訓になる実例があります。かつて「メルセンヌ数が素数になる場合のリスト」にはメルセンヌ本人の予想が使われていましたが、後の検証でリストに見落としと誤りの両方が見つかりました。直感や権威による「ほぼ確実」は、コンピュータと証明の前で何度も覆されてきたのです。10の1500乗の彼方に奇数完全数が1個だけ潜んでいる可能性は、証明されるまで消えません。むしろ「そんなものはないだろう」という感覚と、「ないとは言い切れない」という論理の緊張関係こそ、この問題を追う醍醐味です。

メルセンヌ素数は無限にあるのですか?

これも未解決です。つまり完全数の世界は、「偶数完全数(=メルセンヌ素数)は無限にあるのか」「奇数完全数は1個でもあるのか」という2つの未解決問題を同時に抱えています。メルセンヌ素数についても大半の数学者は無限に存在すると予想しており、個数の増え方を予言する経験則まで提案されていますが、証明はありません。双子素数と同じく、「みんなが信じているのに誰も証明できない」が、ここでも標準の風景です。

関連する未解決問題・パズル

同じ「有限の探索と無限の証明」の溝を抱える「ゴールドバッハ予想」、素数の無限をめぐる「双子素数予想」、数の無限の不思議に触れる「ガリレオのパラドックス」の記事です。

まとめ

本記事は「奇数完全数」の謎について解説しました。如何だったでしょうか。

偶数側はユークリッドとオイラーの2000年リレーで完全解明。奇数側は10の1500乗まで潜伏先を狭めてなお、存在すら分からない。同じ定義から生まれた双子の問いが、これほど極端な明暗に分かれているのは、数学の中でも珍しい光景です。

6の約数を足して6に戻る。その小さな遊びの延長線上に、人類最古の未解決問題が待っている。数学の入り口と最前線がこれほど近い場所も、なかなかないと思います。

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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。

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