当サイトを閲覧いただきありがとうございます。 本記事は「青い目・茶色い目の授業」について解説します。
青い目・茶色い目の授業は、1968年4月、黒人の公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺された翌日に、アメリカ・アイオワ州の小さな町ライスビルの小学校教師ジェーン・エリオットが、3年生のクラスで行った授業です。子どもたちを目の色で2つのグループに分け、片方を「すぐれている」と優遇し、もう片方を「劣っている」と差別する体験をさせたもので、差別がどれほど簡単に生まれ、人をどう変えてしまうのかを示した例として、世界中に知られるようになりました。
心理学者が行った実験ではありませんが、のちに記録番組として放送され、大人向けの研修としても広まったことから、偏見と差別を扱う心理学の教科書ではよく取り上げられています。日本でも、テレビ番組などで紹介されたことがあるので、名前を聞いたことがある人もいると思います。
一方で、子どもたちに意図的に差別を体験させるこの授業には、倫理的な問題があるという批判もあり、大人向けの研修として行われたときの効果についても、検証の結果はそれほど単純ではありません。
キング牧師暗殺の翌日の教室
ライスビルは、住民のほとんどが白人の、アイオワ州の農村にある小さな町でした。エリオットのクラスの子どもたちも全員が白人で、ふだん黒人と接する機会はほとんどなかったと言われています。
1968年4月4日にキング牧師が暗殺され、翌日の4月5日、エリオットは教室で、子どもたちに差別とは何かを言葉で説明しても、本当には伝わらないのではないかと考えました。そこで彼女は、子どもたち自身に、生まれつきの見た目だけを理由に扱いが変わるとはどういうことかを体験させることにしました。
目の色で分けられたクラス
エリオットは子どもたちに、青い目の人は茶色い目の人よりすぐれている、と告げました。そして、茶色い目の子どもたちには、遠くからでもすぐに分かるように、首に布のえりを巻かせます。
青い目の子どもたちには、休み時間を長くしてもらえる、給食でおかわりができる、といった特権が与えられました。一方で、茶色い目の子どもたちは、青い目の子どもと一緒に遊ぶことを禁じられたり、何かを間違えるたびに「茶色い目だから」と理由づけられたりしました。
15分で子どもたちが変わった
結果は、エリオット自身が驚くほどのものでした。青い目の子どもたちは、茶色い目の子どもたちを見下し、からかい、意地悪をするようになっていきます。一方で、茶色い目の子どもたちは元気をなくし、ふだんならできる勉強の課題でも、うまくできなくなっていきました。
エリオットは後に、「すばらしく協力的で思いやりのあった子どもたちが、たった15分のあいだに、意地悪で差別的な3年生に変わっていくのを見た」という趣旨のことを語っています。目の色をからかわれたことがきっかけで、子ども同士のけんかが起きたことも伝えられています。
週明けに立場を入れ替える
週が明けた月曜日、エリオットは立場を逆にしました。実は茶色い目の人のほうがすぐれているのだと告げ、今度は青い目の子どもたちにえりを巻かせたのです。すると、前の日に見下されていた茶色い目の子どもたちが、今度は青い目の子どもたちを見下す側に回りました。ただ、エリオットによれば、差別される痛みを知ったばかりの茶色い目の子どもたちのからかいは、前の日の青い目の子どもたちよりずっと控えめだったそうです。
最後に、エリオットは子どもたちに、目の色で人の価値が決まることなどないと告げて、えりを外させました。そのうえで、この2日間に感じたことを作文に書かせ、肌の色によって人を差別することが、自分たちが体験したことと同じなのだと話し合いました。
町に起きた反発
子どもたちの作文は、地元の新聞に掲載され、やがてAP通信を通じて全国に知られるようになります。エリオットはテレビの人気トーク番組に招かれ、授業について話しました。
ところが、反響は好意的なものばかりではありませんでした。番組の放送後には、「白人の子どもに、なぜこんな残酷な実験をするのか」といった抗議の手紙が多く寄せられたと言われています。地元のライスビルでも、エリオットへの反発は強く、彼女の家族まで嫌がらせを受けるようになりました。後のインタビューで彼女は、何十年たっても町の住民の2割ほどは自分のことを許していない、と語っています。
記録番組と14年後の同窓会
エリオットは、その後の年にも同じ授業を繰り返しました。1970年には、その様子がアメリカの放送局ABCの記録番組『嵐の目』として撮影され、全国に放送されています。
さらに1985年には、アメリカの公共放送PBSの報道番組『フロントライン』が、『分断されたクラス』という番組を放送しました。この番組では、1970年の授業の映像とともに、14年後に大人になった当時の子どもたちが再び集まり、あの授業を振り返る様子が紹介されています。
元生徒たちの多くは、あの授業が自分たちの考え方に大きな影響を与えたと語り、子どもを持った今、自分の子どもにも同じ体験をさせたいと話す人もいました。差別される側の気持ちを、たった1日でも身をもって知ったことが、何十年も心に残っていたことが分かります。
大人向けの研修としての効果
エリオットはその後、学校の教師を辞め、企業や役所、学校の職員などを対象にした研修として、同じ形の体験を大人に提供するようになりました。今度は、茶色い目の参加者が優遇され、青い目の参加者が数時間にわたって差別される形で行われることが多かったようです。
では、この研修は本当に偏見を減らすのでしょうか。2003年にアメリカのジョージア大学の心理学者トレイシー・スチュワートたちが、大学生を対象にこの研修の効果を確かめる研究を発表しています。学生を無作為に、エリオット型の研修を受けるグループと、比較のためのグループに分けて、その後の態度を比べたものです。
その結果、研修を受けた白人の学生は、アジア系やヒスパニック系の人たちに対しては、はっきり好意的な態度を示すようになりました。ところが、この研修がもともと念頭に置いていたアフリカ系アメリカ人に対しては、態度の改善はわずかにとどまったと報告されています。
研究者たちは、研修には短期的な効果があるとしたうえで、その効果がどれくらい続くのか、実際の行動まで変えるのかについては、さらに確かめる必要があるとしています。差別を体験させれば偏見がなくなる、という単純な話ではないということが分かる結果だと思います。
子どもに差別を体験させてよいのか
この授業には、始めた当初から倫理的な批判もありました。子どもたちに意図的に差別される体験をさせ、心を傷つけるおそれがあること、そして保護者の同意を十分に得ないまま行われたことなどです。今の基準で考えると、小学校の授業で同じことを行うのは、かなり難しいと思います。
一方で、元生徒たちの多くがあの授業を大切な経験だったと振り返っていることも事実です。差別がいかに簡単に生まれ、人をどう変えてしまうのかを、言葉ではなく体験で伝えるという方法には、強い力があったことも確かなのでしょう。正直、私はこの授業を効果があったかどうかだけで評価しきれない、とても重い問いを投げかけた試みだと感じています。
青い目・茶色い目の授業についてよく出る疑問
心理学の実験と言えるのですか?
エリオットは教師で、心理学の研究者として手順を決めて行ったわけではないので、厳密な意味での実験ではありません。比べるための対照のクラスもなく、子どもたちの変化も、主にエリオットの観察と記録映像によるものです。ただ、目の色のような意味のない違いで人を分けるだけで、優劣の意識や差別が生まれるという点は、後の心理学の研究でも、意味のない基準で作ったグループでも自分のグループをひいきするようになることが確かめられていて、この授業が見せたことと重なっています。
大人の研修でも同じように行われているのですか?
エリオット本人や、その方法を学んだ人たちによって、企業や学校の研修として行われてきました。1996年には、大人向けの研修の様子を記録した映画も作られています。ただ、参加者に強い心理的な負担をかけるため、研修として取り入れることには賛否があり、実施する場合には、参加者が途中でやめられることや、終わった後に十分な話し合いの時間を取ることなどが大事だとされています。
関連する実験と記事
意味のない基準で分けられた集団でも、自分の集団をひいきし、相手の集団と対立するようになるという点では、泥棒洞窟実験がよく似たことを示しています。
自分の属する集団を高く評価し、外の集団を低く見てしまう心理そのものは、認知バイアスの記事で詳しく扱っています。
まとめ
本記事は青い目・茶色い目の授業について解説しました。如何だったでしょうか。
キング牧師が暗殺された翌日、目の色だけで子どもたちを分けて片方を優遇したところ、思いやりのあった子どもたちがわずか15分で意地悪で差別的に変わっていったという話は、差別がどれほど簡単に生まれてしまうかを、誰の目にも分かる形で示したものでした。その記録は番組として全国に放送され、14年後に集まった元生徒たちの多くが、あの授業を大切な経験として振り返っています。
一方で、子どもたちに意図的に差別を体験させることには倫理的な批判があり、大人向けの研修としての効果も、相手の集団によって違うなど、単純ではありませんでした。差別を体験させれば偏見がなくなる、という魔法のような方法ではないと知ったうえで、この授業が投げかけた問いを考えてみる価値は、今もあると思います。
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それでは次の記事も閲覧いただけると幸いです。
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